「現代催眠入門〜深層アプローチの技術」(1993年版)より
禁無断転載のこと

■ 現代臨床催眠はどんな課題に役立つか

こでは、現代催眠について述べていきますが、まずそのためにトランス誘導のしかたにおいても、援助のための働きかけにおいても、改めて、何が一番重要なことかを確かめておきましょう。
従来から、催眠療法が心理療法の一つとして、成果を上げてきたものがありますが、現代臨床催眠は、心理的な問題や、それからくる身体的トラブルを解決するうえで、いちだんと大きな実績をあげています。また、教育、コミュニケーションのトレーニング、自己啓発の分野においても、見るべきものがたくさんあります。臨床の対象となるケースや、特別な対応を必要とするケースについては、いずれ皆さんにもしかるべき充分な学習と訓練をとおして、熟練した力量を持つことをめざしてほしいものです。
 
こでは、比較的皆さんにも関わりやすい対象として、次のようなものがあげられます。

a. 健康状態の向上
b. 潜在的な各種の能力の向上
c. 集中力や記憶力の向上
d. 創造性の向上
e. 学習意欲の向上
f. スポーツ能力の向上
g. コミュニケーション能力の向上
h. 習癖の解消
i. 苦手な問題の克服
j. ストレスの軽減

うしてあげただけでも、対象はたいへん広い範囲にわたるようですが、実際には、これらの課題の解決のためには、共通した、いわば<変化のメカニズム>があります。そして、それは次のようなものです。

1. 心と身体の統合をもたらすこと
2. 心の安定とバランスをもたらすこと
3. 感覚の再活性化をもたらすこと
4. 無意識レベルで蓄えられたリソース
(心の中の内的な資源)の発現をもたらすこと
5. 各種の能力とリソースを、より大きなものにまとめあげること
6. 生活適応力を強化すること


◆催眠者が気をつけたいこと◆

<催眠>を学んで行ううえで、ぜひ心得ておいてほしいことがあります。それは、あなたが働きかける相手の人に対する、まじめで肯定的な目的意識と、充分相手の状態に配慮できる慎重な態度です。
<催眠>は、適切に行えば、たいへん援助的な有効性のあることが多いものですが、それだけに、それを行う人自身の充分な倫理的コントロールが常に求められます。<催眠>のインパクトに幻惑されて、一部の人は相手を自由に操れるものと思い込み、その目的のためにいっそう<催眠>に興味を持つのですが、こうした態度には非常に問題があります。
<催眠>というものは、外から見ればどのように一方的な操作ができるように見えても、本当はそれを受ける相手の人自身の、深いレベルでの選択が必ず働いています。その意味でも、相手の自由な判断を奪うような形でこちらの意のままに動かす、などということは事実においても不可能なのですが、テレビなどで観るショー的な催眠術などの見せかけの演出や雰囲気に惑わされて、相手を自由に操れるものと思い込み、その結果、さまざまな形で相手を尊重しない不当な働きかけを試みる人が、かつて一部にいたのです。むろん、<催眠>下においても、自分が受け入れがたい反倫理的な指示や、自分の存在や安全性を脅かされるような指示に対しては相手はそれを受けつけず、結局は不成功に終わってしまうことは確かなのですが、実際に働きかけの過程で厄介な問題を起こす危険は充分あることです。
<催眠>、とりわけ現代臨床催眠にとって一番ふさわしい目的は、あくまでも相手をその人にとって望ましい方向で援助することにあり、その目的において初めて真に有効なインパクトを発揮するものです。催眠者の肯定的な意図があってこそ、相手の心の深い部分はそれに応えて肯定的な反応を見せ、望ましい変化を現すものであることを、改めてここで強調しておきましょう。
相手の状態に対する、充分な配慮と慎重さを欠いた不用意な働きかけをすることも、自戒すべきことです。悪意はないとしても、相手の状態についてのきちんとした理解と洞察をしないまま、やみくもなリードを試みることは、相手にいっそうダメージを与える場合があります。特に大きな心理的な問題を長くかかえていたり、神経症や心身症、精神病領域の状態にある人には、充分な臨床経験を持たずに安易な働きかけをすることは、相手の心身のトラブルをもっと大きくすることがありますから、このような状態の人には、心理臨床や精神医学の専門家に関わりをゆだねるようにして、自分で不用意に関わることは、けっしてしないようにしましょう。

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