The Special Report of Model Speed Life.
60年代モデルカー・レーシング・ブーム以前に独自の世界を作り上げていた
動くカーモデルたちを紹介

 実は、先日手に入れました1963年3月号「模型と工作」誌に大変興味深い製作記事が掲載されておりましたので御紹介したいと思います。日本におけるカーモデル、特に動力装置(ちょっと古すぎる言い方ではありますが・・・)を持ったモデルカーの歴史については長年の謎でありました。少なくても私にとってはですが・・・。
 日本におけるモデルカー・レーシング、浴に言うスロットレーシングの歴史は、1964年頃から一部のマニアの方々がヨーロッパやアメリカで大ブームとなっておりましたThe Model Car Racing(Slot Racing)を参考にして全て自分で材料を探し、自ら作り上げて日本におけるモデルカー・レーシングの基盤を作り上げられたことは大体わかっておりました。そして翌年の1965年から各プラモデル・メーカーや玩具メーカーを巻き込んでの空前絶後の大ブームとなってしまったのが1965〜66年でありました。しかし、1960年代初期における模型界でのモデルカー、特に動力装置を持ったモデルレーシングカーについては、全く謎でありました(私だけが知らないのかもしれませんが・・・)。
ところで、日本で最初の本物のレーシングカーによるグランプリレースが開かれたのは、今から約40年も前の1963年5月3日の「第1回日本グランプリ(鈴鹿サーキット開催)」でありました。奇しくも今回御紹介する「模型と工作」誌も1963年に発売されたものでありました。実車の世界でも1963年を境として急激に発展して行くわけでありますが、モデルカーの世界でもこの1963年は実に重要なターニングポイントであったのではないかと想像されます。
TOP : The Rubber Power's Cooper 500 Model by K.Hijikata in 1963.

TOP : What's it ?! Is this the model car racing ?!
 
 度々書かせて頂いておりました私のモデルカーレーシングにおけるバイブル誌であった秋田書店発行の「モデルカーレーシング入門」の著作者であり、初代モデルカー・レーシング連盟会長となられた“土方健一”氏が、なんとこの「ゴム動力レーサーの競技法とレーサーの作り方」を書かれております。この製作記事を読んでおりましたら、氏が2年後に書き上げます「モデルカーレーシング入門」と合い通じるものを感じずにはいられませんでした。
そして、何にもない時代にこのような「ゴム動力レーサー」とその規約を作り上げて全国的に活動されていた氏の努力に心から敬意を表したいと思います(上の画像左が土方氏が作られたゴム動力のレーシングカー“クーパー”で、右側の画像はトタン板のサーキットを走るモーター付きレーシングカー “ロータス7”)。
(以下、1963年技術出版社発行「模型と工作」3月号より引用活用させて頂きました。)


「ゴム動力レーサーの競技法とレーサーの作り方」 土方健一
 ミニチュア・レーシングカー・クラブ(略称MRC)はレーシングカーのスケールモデルで競技をする会で、昨年1月に発足しています。会員資格はミニチュア・モデルでレースを楽しむ者ならば誰でも良いのですが会員の数に制限があり、20名を単位として1つ支部を作っています。これはレースをする場合、20名以上だと時間的に無理がくるのでこれを1つのグループとし、20名以上の入会希望者がある場合は、また1つの支部を作ります。
現在、東京・大阪・浜松・三島に各支部があり、東京が本部になっています。会長は漫画家の佃公彦さんです。
定期的に年2回、トーキョーグランプリを開催し、多くの自動車会社から寄贈されたカップが賞品として提供されます。
レースに出走できる車は寸法や形でいろいろな規約が決められています。
しかし、大別すると次ぎの3種類に分けられます。
(1) クラス―I
全長・・・150mm以内。動力・・・ゴムに限る。駆動方法・・・ホイルドライブであること。車輪・・・トレッドがゴム質のものであって、3輪以下であってはならない。車体・・・既存のスポーツカーあるいは、レーシングカーを原型としたものであること。車の全幅は全長の2/3以内であること。
(2) クラス―II
全長250mm以内。以下クラス―Iに同じ。
(3) フリースタイル
全長150mm以内。動力・・・ゴムに限る。駆動方法・・・ホイルドライブであること。車輪・・・トレッドがゴム質のものであって、2輪以下であってはならない。形体・・・自由。
各自の発想に基づく、独創的なデザインであって、乗物としての感じのでているものであること。
 以上がレース出場車の規約を要約したものですが、動力はゴムを使い、形はクラスIとIIがスポーツカーあるいはレーシングカーのスケールモデルで、全長をそれぞれ150mmと250mmとし、フリースタイルでは形は自由で、全長を150mm以内に制限しています。動力にするゴムは長さも重さも本数も制限ありません。また、製作する材料も金属、木、プラスチック、なんでもかまいません。
■ レースの方法
 レースの種類は5種目あります。
1) TIME-TRIAL (タイム・トライアル)
2) RALLY(ラリー)
3) NARROW-GATE (ナロー・ゲイト)
4) DESIGN-CONTEST (デザイン・コンテスト)
5) IDEA-CONTEST (アイデア・コンテスト)
 1)のタイム・トライアルはスピード競技で、レースの主要種目であり、得点も最も多くなっていますが、これはクラス別にコースの長さが次のように決められています。
クラス―I・・・距離7m 
クラス―II、およびフリー・スタイル・・・距離12m
スタートラインの幅は1mで、ゴールの幅は2mとなっています。この2mのゴールの中へ入らないと失格になります。スピードを出すと、なかなかまっすぐ走らないものです。スピードがあり、しかも曲がらないことが要点です。
 今までの記録では、クラスIの150mmの車が7mの距離を1.7秒で走り、クラスIIの250mmの車が12mの距離を2.5秒、フリー・スタイルの150mmの車が12mの距離を2.5秒で走っています。フリー・スタイルの150mmの大きさにもかかわらず記録がよいのは、形にこだわれずに、ゴムの使い方が有効に出来るためです。
 次に2のラリーは12mの距離を10秒きっちりで走る競技で、10秒より速くても遅くても、0.1秒につき1点減点となります。3番目のナローゲイトとは真直ぐ走る競技で、2本のポールの間を6mの距離から走らせて、車の巾とポールの間の隙間が少ないほどよいことになります。
これはスピードに関係ありません。
以上の3種目とも、3回ずつレースをして、その内の最もよいタイムをとります。4番目のデザインコンテストは車のスタイルの優劣を競うもので、スケールモデルの場合は、原型の車がどのくらい忠実にスケールダウンしているかということがポイントになり、フリースタイルの場合は、その独創性がポイントになります。5番目のアイデアコンテストはメカニズムの独創性を審査する競技です。
 以上の種目の競技を各クラスごとに行なうわけで、クラス別の優勝と総合優勝の2本立てとなります。
■ レースカーの製作方法
 まず、どのクラスの車を作るかを決めねばなりません。写真を見てください。写真(1)がクラスIIの250mm車で、イタリーのフェラーリをモデルにしたものです。写真(2)がフリースタイルの車で、全長は150mmにしてありますが、横巾は350mmもあります。これは後で構造のところでのべますが、このような形にすると、ゴムを最も有効に使う事が出来るからです。
 

TOP : (1)A Rubber Power's Cooper Model

TOP : (2) A Free Style Modelcar.

 また、製作の方法もこのフリースタイルの方が、ずっと簡単だという利点もあります。
 クラスIおよびIIの車の構造を図解してみると、(A)図のようになります。車体の中央にとおされたゴムをベベルギヤを通して、後車輪を駆動します。この場合、ゴムは1本ですが、2本にしてベベルギヤを2組用いると、ゴムのトルクがとれて、車が曲がりやすくなる癖が取れます。
ゴムは模型飛行機に使う平ゴム(3mm巾)か糸ゴム(1mm角)を8〜12本1束にして用います。
(B)図はフリースタイルの構造で、中央の駆動輪の左右に車軸を中心として水平にゴムをはります。この方法によるとギヤを全く使わないので、ギヤによる機械ロスがなく、左右から同じ力で車輪が引っぱっられるので、ゴムの張力は相殺されて回転力のみが伝わることになります。
 


TOP : (A)  BOTTOM : (B)
TOP : (3)  Cooper's under frame.

写真(3)を見てください。クラスIIの車の下側から見たところで、中央にゴムが入り、後車軸のベベルギヤの取り付け方がよくわかると思います。ゴムの入っている外側に四角な枠がありますが、これはフレームで、一番外側の車体はこのフレームにスプリングによって取り付けられています。
車輪を支えている骨組は複雑に見えますが、これは中心の車軸が通っているだけで、あとはスケールモデルなので実物の形が飾りつけてあるだけです。
 車体とフレームを取り外したところが写真(4)で、重心を低くするために後車軸のところで、ベベルギヤの位置を平ギヤによって一段落していることがわかるでしょう。
 


TOP : A frame and body of Cooper500?!
 このように、フレームと車体を別々に作らなくても、車体の下部をくりぬいてゴムを直接車体に取り付けるようにすれば、工作は簡単になります。
 その場合、車軸の軸受けも直接車体に取り付けるようになります。
 

TOP : (5) A Raber Pawer's Modelcar of Free Style's Modelcar 
from under frame.

 写真(5)はフリースタイルの車の下部を見たところで、中央の大きな車輪が駆動輪で、この写真ではゴムははずしておりますが、左右の白い溝のところにゴムが入ることになります。
 下の2個の車輪の取り付けは方向を調節するために、取り付けネジの穴を横長にあけて車輪が左右に動くようにしてください。
 車体を作る材料は朴の木がもっともよいようです。最初に、原寸で図面を書いて木の上にそれを写し、最も大きなカーブから削ってゆきます。
 軸受けは1mm位の真鍮板を使いますが、竹筒を使っても間にあいますし、金属玩具の歯車の部分をそのまま使っても出来るでしょう。
■ 競技に勝つ要点
 速く走らせようと思って、ゴムをたくさん入れてもいけません。車輪がスリップしたり、車の前が浮き上って、真直ぐ走らなくなります。車の重さとゴムの強さのバランスをとることが大切なのです。
何回も走らせてみて、ゴムの本数をだんだん多くしてみます。また、巻数もいろいろかえてみます。そうすると、タイヤがスリップをはじめるところが見つかります。スリップしたらおもりを乗せてみます。あまり重くしてもスピードは出ません。
 この重さはゴムの強さに最もよいところを見つけることが速く走らせるこつです。
 4、5人でグループを作って競争してみて下さい。そして、良いのが出来たら、MRCの本部は知らせてください。

 驚くことばかりのこのゴム動力レーサー製作記で感じたことは、やはり当時から4番目の「デザイン・コンテスト」がかなりの比重で行われていたことではないでしょうか。後に登場するモデルカー・レーシングでもいかに実車に対して忠実にスケールダウンしているかを争うコンクール・ド・エレガンスは、クリヤーボディ全盛になるまでの短い期間ではありましたが、スピード追求以上に皆が争っていた分野であったと思います。その原点がこのゴム動力レーサーだったのかは断定出来ませんが、少なくともその役割の一部を補っていたと言っても言いすぎではないでしょう。
それにこのフェラーリの駆動部分のハイレベルな技術力はまさしく大人のホビーそのものだったと言えるのではないでしょうか。真直ぐ走らせるという技術は、モデルカー・レーシングにおいても大切なことであり、1963年当時、諸先輩方がこのようなハイレベルなモデルカーを製作し、さらにそれらを統括するクラブを作って定期的にレースを行なっていたという事実を私たちは絶対に忘れてはならないと思います。
 そういえば、小学生時代私は模型グライダーなどを作る木材料でゴム動力でプロペラを回し、その風の力で前進させるモデルカー(車と言えるのかどうか・・・)を図工の時間に製作して皆と廊下で競争した記憶が蘇ってきました。タイヤは木だったかゴムタイヤだったか忘れてしまいましたが、他のクラスメイトが前にプロペラを付けて戦闘機「ゼロ戦」のようにいい気になって走らせているところを、私は大胆にもプロペラを後ろに付けて太平洋戦争中に日本軍が開発していた前翼型戦闘機「震電」のごとく走らせて一気にみんなを抜きさり有頂天になっていたと記憶しております。みんながトロトロとスタートして行くところを私の「震電号」はフロントをグイッと持ち上げながら(今で言うウイリーでしょうか・・・)猛烈なスピードでスタートして行く姿は圧巻でありました。しかし、製作レベルが低かったのか直進性に難があり、よく教室の壁にぶつかっていました。それだけ直進性を出すのは難しかったと言えます。
 ということで、PART 1として「ゴム動力レーサーの競技法とレーサーの作り方」を紹介させて頂きました。PART 2では、同じく動くモデルカーを当時の製作記事を元に紹介させていただくつもりでありますのでご期待ください。

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(C) 18/JUNE/2001 Textreports by Hirofumi Makino