さて、日本ではNHKのアナウンサーが一台づつ出走して砂漠の中を走るラリーのことを「レース」と言います。
また、何十年も昔に作られたクラシックカーが、いくつかの都市を回るラリーをもレースと言います。
我がNHKは民放なみに芸能には熱心でも、文明には遅れているところがあるのです。 そこでレースとは競馬とか陸上競技の100メートル競走のように一斉にスタートし、一定の距離を最も速く走った者を決める競技(スィープステークスと呼びます)で、バラバラにスタートするイベントはラリーと呼ぶのです。
そのNHKまでもが自動車レースの最高峰と呼ぶF-1(エフワン)は二台のレーシングカーを出走させるまでにかかる開発費用と年間出走費用は200億円もかかると言われております。 従って正確には出場費用が世界一高額な自動車レースと言うべきでしょう。

 30年以上もの昔、その興行が沈没しかかっていたF-1カーのレースを復活させ、世界一流のモーターレースのシリーズの一つに仕上げたのは “バーニー・エクレストン” でした。 この人物はイギリスの漁師の息子で青年時代にモーターレースにドライバーとして出走したこともありました。 その彼のモーターレースビジネスの世界での急激な成長に対して一時はイギリスの有名な郵便列車の強盗事件のマネーロングリングをやったのではないかという噂が出るほどウサンくさい面もあったのです。 時としてマフィアと関係があるのではないかなどと全くかかわりの無い噂のため、警察庁の長官からJAFに天下りした高橋幹男氏がエクレストンと契約してF-1の興行を手がけた時、その出自から随分と回りから批判を受けたこともあったのです。 加えてこのレース(1977年F1日本グランプリ)では、ガードレールを越して飛んだF-1カーの事故で2名の死者と重傷者が出てしまいました。 そして、ドライバー達は表彰式をボイコット。大失態を演じた興行となったのです。 

そのエクレストンのF-1事業に最も貢献したのが本田技研と鈴鹿サーキットとフジテレビでした。 これにJAFと日本の中小企業のサーキットオーナーとカーオーナーに加えて後に“豊田章男”氏とトヨタが加わります。
 そのうち「自動車レースの最高峰」という興行に深くかかわったフジテレビの打ち出した表看板が日本のマスコミに定着してしまいました。
 国際自動車連盟(FIA)という組織の中で、自動車競技のレーシングカーの作り方と種別と格付けを決める「規則」をフォーミュラと言います。 その規則つまりフォーミュラの中の「一番の規則」から出来上がったレーシングカーをF-1(エフワン)と呼びます。

自動車の世界選手権はこのF-1で行うことになっているのです。 世界中で20戦ほど行われるF-1の興行を“バーニー・エクレストン”は30年以上に亙って取り仕切って参りました。 エクレストンはFIAとの契約上、興行権、テレビの放送権、映像、非映像の商業権などのお金がかかる利権の全てを維持して参りました。

 

TOP : 1990s F-1GP
(C) Photograph by Joe Honda.

 
 この確定している権利に基づいてF-1の盛衰の全てはエクレストンにかかっているのです。 そのエクレストンの資産は英国で5本の指に入ると言われているのです。 ずっと以前離婚したポーランド人の彼の妻に支払った慰謝料は4,500億円と言われていたのです。 

 数年前、F-1のフランチャイズのために富士スピードウェイを買い取ったトヨタが毎年500億円と言われた大金をつぎ込むF-1グランプリの社会から撤退するに際し、豊田章男社長が泣いて記者会見をしたことがありました。 このことはエクレストンが興行師の鏡としてその道の最高の腕の主ということでもあるのです。 ずっと昔、芸者遊びを親に止められた道楽息子が泣いてイヤイヤをして騒いだようなもので、全世界の、どの自動車メーカーより常に10年も研究開発とその実践で進んでいるトヨタでもこんなこともあったのです。 申し上げましたようにエクレストンは契約に基づいてモーターレースビジネスを展開しておりますから、どんなにお金をもうけようが誰も文句は言えません。
決して国際サッカー連盟のような理事の犯罪などは起きないのです。

 トヨタが素晴らしいデビューを飾ったアメリカの世界最大の自動車レースの運営組織ナショナル・アソシェーション・フォア・ストックカーオート レーシング(全米ストックカーレース協会と訳しましょうか?!)略称 “NASCAR(ナスカー)”についてここで申し上げましょう。 こちらはエクレストンのF-1の秘密主義と異なって全てを公開します。 それは先に述べたテキサス或いはデイトナなどのスピードウェイでの興行の賞金額の公開でもお判りの通りです。
 
 

 先ず テレビ放映権です。 年間500億円にも及ぶ世界125ヶ国からの放映権 収入は、ナスカーの事務所が10%、50億円、年間36回に及ぶ最上位のレースシリーズ スプリントカップを主力としたシリーズに参加するホストレーストラックに25%、125億円、残りの65%が賞金としてドライバーとチームに配分されます。 その額は邦価約325億円に及びます。 
これに各ホストレーストラックは売り上げの(ゲートと呼んでおります。) 30%を昔からドライバーとチームに提供する習慣から賞金は興行主であるレーストラックが加算するお金を加えて各イベントでアメリカでは Perse Money (財布)と呼ばれている賞金となるのです。
ドライバーとチームはこれに加えて年間約20億円近いシリーズ スポンサーその他の給付金の配分を受けることになります。

 ナスカーでは1台のレーシングカーの価格約2,000万円で始まる1チーム2台のストックカーを、年間36レース走らせるのに車両代、クルーの費用、その他の経費を含めて邦価換算6億円が必要と言われております。
 各チームは車体のエンジンフッド、左右両サイドリアのフェンダー、チームのユニフォーム、工場の役目を持つトレーラートラック、その他の機材に商品の広告を取りつけて運営費に加算するのです。

 トヨタのもう1つの大成功がありました。 それはナスカーのスプリントカップシリーズに負けず劣らず人気のある“クラフトマントラック・レースシリーズへのデビューでした。
年間25戦行われたトラックのレースシリーズの出場車は V8 5.7リッターエンジンを掲載する、シボレー、フォード、ダッジ、そしてトヨタ・タンドラ(注:凍土帯。日本ではツンドラと言います。)によって争われます。 その年第一戦のデイトナ・スピードウェイの250マイルレース(400キロ)では出走した36台のうちの9人のドライバーで争われた21回の先頭ランナーのリーダーチェンジの後に優勝したのはスプラーグの乗るトヨタでした。

このレースの人気の第一は、各レーストラックでのリーダーチェンジの凄さです。 30回を越すリードチェンジは珍しくなく、F-1のような予選で一番だったドライバーが決勝レースで先頭でスタートして一時間しても一番前を走っていて、終わった時も一着だったなどということは決してないのです。
 
 

 タイヤの露出した日本でフォーミュラカーと呼ばれているレーシングカーは前を向いている限り高速になればなるほど空圧から下に車台は下がります。 それにくらべて 5.7リッターもあるエンジンを積んだストックカーは高速になればなる程 浮いて参ります。 特にクラフトマンシリーズのトラックの高速での浮いた車のコントロールは至難の技と言われているのです。 その理由が多重クラッシュを生んで観客を満足させるに充分なイベントの要素となっているのです。

 ここで再び ナスカーのホストトラックをみると、ブルトン・スミス氏がトラックオーナーとなっている10万人の観客を集めるシアーズポイント、及びアトランタに加えて15万3千人のラスベガス、16万人のシャーロットがあります。 加えて1周約850メートル、バンク角30度の最も早く入場券を売り切ることで有名な観客数16万人のブリストル(写真6) まで前述のテキサス・モータースピードウェイを含めて計7つものレーストラックを経営しているのです。
そして、夫々のレーストラックの社長達は何十年という間、そのレーストラックの経営に生命を賭けていることがスミス氏の成功の源となっているのです。
 また、トヨタ デビューの大成功の基本はエンジン開発の成功があったでしょう。 然し最も貢献したのはレーシングカーのファームを運営する著名なカーオーナーであるチームの経営者、ジョー・ギブスの力があったからでした。 勿論ドライバーのカイル・ブッシュとトニー・スチュアート達が優秀であったのは確かです。 また、巨大なモーターレーススタジアムの建設の基本的なデザインにあっては、チャールス・マニーペニーというデイトナ、タラテガ、その他のレーストラックを設計したプロがおりました。

 ひるがえって日本の場合、近年代議士諸公が公道でモーターレースを開催したいとか、ラスベガスのような賭博場を作りたいなどと言い出しております。 ここでの取引相手は申し上げた経験と権利に基づいたF-1のバーニー・エクレストンとかそのエクレストンですらキリキリ舞いさせられたラスベガスの興行師が出て参ります。
今だかってこの種の人達と取引して利が乗ったという話を聞いたことがない程、きびしい駆け引きと取引が待っているのです。
オリンピックに当たっても北京を見ないでロスアンゼルス或いはアトランタの経営を学んでほしいと思うのです。
 



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(C) Photographs and textreport by Shingo Shiozawa.