若松区医師会は大正3年創設以来、一貫して住民の健康を預かる立場として、地域医療に重きを置き情熱を注いできた。高齢社会対策においても全国に先駆けて逸速く取り組んできた。平成5年5月に『訪問看護ステーション』を、同年12月には全国で最初の医師会立『在宅介護支援センター』を誕生させた。ちょうどその頃北九州市では、高齢化社会対策総合計画として、各区に保健・医療・福祉・地域連携推進協議会が設置されたが、若松区においては医師会長が初代会長に就任し協議会の基礎を築き、現会長が高齢社会対策更には少子対策に取り組み、発展に寄与したのである。さて、推進協議会の下部組織として、『地域ケア研究会』が平成6年9月より開催された。この研究会は、毎月1回(平成13年1月で76回を数えたが)若松区医師会館を会場として、保健・医療・福祉の関係者が集合し事例を検討することで、問題点や課題の共有と解釈に向け模索や話し合い、実務者の質の向上、関係者間のネットワークの充実強化などを計ることを目的としている。更に議論を集約して推進協議会に対して問題提起や政策提案を行うことも重要な役目である。この研究会て最初から議論されたテーマに“痴呆”がある。
 高齢社会における痴呆への対応は重要な課題と考え、幾度となく重ねられた議論を集約して、平成8年度の推進協議会への提案として“痴呆を地域で支えよう”が採択された。これを受けて若松区医師会は、平成9年4月に『痴呆ケア小委員会』を設立し、4つのテーマを掲げた。1)かかりつけ医の啓発、2)痴呆患者の救急対応、3)特別養護老人ホーム・老人保健施設と専門医との連携、4)地域住民への痴呆に関する啓発活動である。このような取り組みを積み重ね協議された内容が、平成10年3月に北九州市が作成した『痴呆性疾患診療ガイドブック』にも反映され、同年10月、日本医師会発行の『痴呆性疾患診断ガイドブック』に転載されたのである。なお、この『痴呆ケア小委員会』は、平成10年4月より推進協議会に所属する地域団体も参加し、『痴呆ケア推進協議会』と発展した。
 また、平成12年4月から発足した介護保険制度への対応も早く、ホームヘルプ・サービスのモデル事業などを経て、『へルパーステーション』を設置し、前述の『在宅介護支援センター』・『訪問看護ステーション』と三位一体で保健・医療・福祉の中心的役割を担っている。かくして、高齢社会の先進地北九州市でも特に若松区医師会への各地からの視察は現在でも後を絶たない。平成11年4月2日、日本医学会総会で関原福岡県医師会会長が、シンポジウム「医療における教育と福祉」において、若松区医師会の取り組みを発表なさったのは記憶に新しいところである。