◎「現下の難局を乗り越えて」
     -信頼関係回復に向け国際シンポジウム開催
 2013.9.14

                当事業は国際交流基金「知的交流会議助成プログラム」からの助成を受けました。

 日本日中関係学会は9月14日、東京・星陵会館で「現下の難局を乗り越えて ~日中が信頼関係を取り戻すには~」をテーマに国際シンポジウムを開催した。シンポジウムはカウンターパートである中国中日関係史学会との共催で行われ、同学会訪日代表団(王泰平団長ら8人)や、学者、経済界関係者、言論人、学生ら約200人が参加した。尖閣諸島問題で極度に悪化した日中関係打開の糸口を探り、両国間の「戦略的互恵関係」の再構築を目指して、基調報告が行われ、それを中心にコメンテーターや会場の参加者らが、熱心な討議を行った。

 

 ▽事態の鎮静化が優先―宮本氏、戦略的角度から解決を―王泰平氏

 第1部「現下の難局を乗り越えるには」では、日本側から日中関係学会の宮本雄二会長(前駐中国大使)、中国側から中日関係史学会の王泰平副会長(新中日友好21世紀委員会副秘書長)が、それぞれ基調報告を行った。

 宮本会長はまず、今回のシンポは「自分の主張を言い合っても、事態の打開にはつながらないとの現実認識を持って、その先をどうするかについて考えるべき場である」との考えを表明。その上で、われわれは出発点として「日本と中国の間に良好な安定した関係を築くことが、それぞれの国、民族、社会にとって絶対的な国益だという不動の信念を持つ必要がある」と主張した。そして、両国の国民感情が沸き上がっている現段階では、正面から問題を取り上げるとぶつかってしまうので、当面、努力を集中すべきなのは、危機管理のメカニズム構築を含め、「いかにして事態を鎮静化、安定化させるか」であると強調。いわゆる「戦略的あいまい性」すなわ「どちらが勝ったか、負けたか分からない形」で、ひとまず事態の鎮静化を図るしかないと主張した。

 宮本氏はさらに、事態が鎮静化した後は、再発を防ぐためにも、中期的な課題として、「尖閣問題を正面から取り上げるしかない」と主張。国際司法裁判所に提訴するのも、ひとつの解決方法だが、提訴は領土問題の存在を認めることになるので、それには政治力と国民の理解が必要になるとの見解を示した。特に日中間では国際法についての理解が大きく異なると指摘、国際法は多国間条約や2国間条約を基につくられたもので、中国の考えるような覇権国の押し付けではないと強調。国際法に基づく紛争の処理というレジームを確立することが重要と述べた。

 王泰平副会長は始めに、東京五輪の招致成功に祝意を表明するとともに、7年後の中日関係には改善されている‚現状が続いているƒいっそう悪化している―の3つの可能性があると指摘。中日双方とも原点に立ち戻って、考えに相違のあることを認め、対話によって双方が満足する解決案を導き出すべきだと主張した。

 王氏はさらに、いま日本が考えなければならない問題は、いかに正確に中国を位置付けるかという問題、つまり「中国の発展は日本にとってチャンスなのか、挑戦なのか。中国は仲間なのか、敵対する相手なのかという問題」であると提起。中国はGDPで日本を抜いたが、日本にとって脅威になるような存在ではなく、実力的には日本こそ世界第2の経済大国との見解を表明。胡錦涛政権時代に打ち出された「平和共処、世代友好、互恵合作、共同発展」の16文字方針には変化はないと強調するとともに、「中日は運命共同体であるべきだ。ちょうど鳥の巣と卵の関係で、巣が壊れれば卵は割れてしまう」と述べた。

 また、「島」の問題では日本も、中国も勝者ではなく、勝者は米国であり、中日が冷え込む中で米中貿易関係は非常に拡大していると指摘。われわれはもっと戦略的角度から中日関係を考える必要があると強調した。

 続いて、日中関係学会理事の金子秀敏氏(毎日新聞社専門編集委員)が「米中新型大国関係の日中関係」と題して報告。この中で、かつて日本の統治下にあった4つの島(筆法4島、日本海の竹島、東シナ海の尖閣、南シナ海の西沙・南沙)が昨年、いっせいに火を噴いたが、これは中国の軍事的な力の増大と無関係ではないと指摘。

 金子氏さらには、米カリフォルニア州で行われた米中首脳会談で習近平主席とオバマ大統領は「紅杉」(メタセコイア)でつくられたベンチに座り記念写真を撮ったことを取り上げ、「紅杉」の苗木は1972年のニクソン訪中の際、周恩来首相への土産として持参したもので、両者は台湾問題に関する食い違いを「あいまい解決」で乗り切り、上海コミュニケにこぎ着けたと指摘。今回、両首脳が「紅杉」のベンチに座ったことは、72年の約束を守ることを確認したものだと分析するとともに、日中間でも知恵を絞って、早期に首脳会談を行い、72年の原点に立ち返ることが必要と主張した。

続いて、中日関係史学会の劉江永氏(清華大学当代国際関係研究院副院長)が「中日関係と釣魚島問題」と題して報告。劉氏は明代の書物「順風相送」「使琉球録」などの記述を証拠に「明代には釣魚島は早くも中国領だったことは歴史的事実」とあらためて主張。さらに1894年3月に日本で出版された「大日本管轄分地図」の琉球南部の部分を取り上げ、釣魚島について「支那領台湾」と記述してあり、「こうした歴史記述は明治政府が当時すでに釣王列島は中国のもので、無主地ではないと知っていたことを物語っている」と強調した。

 中国側コメンテーターの高海寛氏(中日関係史学会副会長)、日本側コメンテーターの川村範行氏(日中関係学会副会長、名古屋外国語大学特任教授)の発言の後、会場を含めた参加者との間で質疑が交わされ、「同じ中国側でも、王泰平氏は棚上げ論を主張し、劉江永氏は中国領と主張しているようだが、どうか?」「国際司法裁判所への提訴には賛成か?」「尖閣問題解決の道筋をどうつけるのか、日中が折り合う可能性はあるか?」「TPPなど世界の枠組みに関する調整で中国は決定的な役割を果たすことができるか」-など活発な質問が出された。

 
             <基調講演を行う宮本会長(左)と王泰平団長(右)>

 ▽日本企業に不可欠な中国の発展―瀬口氏、「政冷経涼」の中日関係―姜躍春氏

 第2部は「日中の政治的対立が経済に与える影響」をテーマに行われ、日本側から瀬口清之氏(キャノングローバル戦略研究所・研究主幹)が「尖閣諸島問題が日中経済に与える影響」と題して基調報告を行った。

 瀬口氏は「中国の貿易収支の推移」「1人当たりGDPが1万ドルを超えた主要都市」「国別対中直接投資金額」などの客観的データを基に、中国経済の現状と日本企業との関わりについて説明。2004年以前の中国は、安くて豊富な労働力を武器とした輸出投資主導型成長モデルだったが、05-09年の転換期を経て、2010年以降は内需主導型モデルで巨大で豊かな国内市場を抱えるようになったと分析。その結果、日本のモノを買う人口が急増し、日本企業の対中投資も11年以降、急増していると述べ、いまや日本企業にとって中国市場は、中国で負けたら世界で負けるというたいへんな競争の場になっていると強調した。尖閣問題発生から1年後の状況については、ほとんどの産業は正常化しており、「日中経済関係の相互依存が強まっているため、貿易投資関係は政治外交関係の悪化に左右されにくくなっている」と指摘。中国が安定的に内需を拡大し、その結果、日本企業の市場も広がるという良好な循環を長期的に維持する必要があると結論付けた。

中国側の基調報告「釣魚島紛争の中日経済への影響」は姜躍春氏(中国国際問題研究所主任・研究員)が行った。姜氏は釣魚島をめぐる紛争で、中日経済関係にマイナスの影響がもたらされたと述べ、具体例として①中日貿易のウエイトが低下②日本の自動車産業に打撃③観光分野で深刻な損失④世界経済にも悪影響-をあげた。しかし、そうした困難な状況にありながらも、日本が中国を重要な市場としている状況に変りはないと分析、その例証として、今後、中国で事業を拡大する意思のある企業は52%を占めていることや、日本企業の対中投資目的が中国市場の開拓に向かっていることをあげた。姜氏は最後に、釣魚島紛争以降、中日経済関係は「政冷経涼」に陥っていると指摘するとともに、日本には対外経済政策面で中国の経済発展の速度を抑えようとする動きもみられると述べた。

基調報告の後、質疑が行われ、「日本の対中直接投資に関して、中国側統計と日本側統計ではまったく逆の傾向が出ているのをどう考えるか?」「日中の経済貿易関係が政治的影響をあまり受けないとは思わないが?」といった質問や意見が出された。

閉会のあいさつで江原規由氏(日中関係学会副会長、国際貿易投資研究所研究主幹)は、「円錐形は真横からは三角形に見え、上からは円形に見える」が、島の問題はちょうどこの円錐形のようなもので、あれは三角形だ、いや円形だという互いの主張をすり合わせ、相互に認め合う中で、最終的には円錐形という真の像を浮かび上がらせる必要があると訴えた。また中国側の馮昭奎氏(中国社会科学院栄誉学部委員)は「現在の中日関係の局面は、利よりも義を重んじ、ウィンウィンの関係を目指す習近平主席の外交理念に反する状況である」と述べた。シンポジウム終了後には会場を移して懇親会が開かれ、グラス片手に和やかな懇談が続いた。(了)