診療所通信
        Clinic News Paper
No.87
2006/10/1

/                 川上診療所
 秋になって、皆さんはいかがお過ごしですか。医者の世界ではこの季節、学会や講演会が集中して、私としてはアタマが痛い時期でもあります。先日も乳がんについて講演会を一つやって参りました。最近は多くの方々が医学のことをよくご存じで、10年前とは比べられないほど知識を持っていらっしゃるように思います。テレビや雑誌などからの「医療情報」も溢れていますね。しかしそれとは裏腹に、病気に対する恐怖や、健康に関する不安は、減るどころかむしろ増えているんじゃないだろうか、それこそ心配になってしまいます。医者たちの勉強会である学会も、10年前と比べると増えていて、日本中で一体何百何千あるのかな。学会では医学知識や最先端医療技術は学べるけれども、それについて行かなければというプレッシャーと不安は、やはり以前より強くなっているように感じます。病気は、国や時代が違っても一人一人の人生と切り離せないものです。より良い社会やより良い健康を望めば望むほど、かえって不安も大きくなってしまうのなら・・、それこそ杞憂であってほしいです。
不安の解消法? 難しい問題ですね。正解はないとも百あるとも言えそうです。

・ピロリ菌は胃がんの原因?・・・・胃炎の原因と考えられているピロリ菌は、胃がんとも関係がありそうです。厚生労働省が行った大規模調査の結果をご紹介しましょう。ピロリ菌検査が陽性の人は、胃がんのリスクが陰性の人に比べて約5倍高く、検査で出にくい隠れた陽性者を含めると、そのリスクは10倍になるという結果でした。またピロリ菌が原因で起こる胃粘膜の萎縮(萎縮性胃炎)は、その程度が強いほど胃がんのリスクも高くなることがわかりました。もちろんピロリ菌だけが胃がんの原因ではなく、個人の体質や食事など様々な環境要因が重なって胃がんに結びつくものと考えられます。ほかの研究でもこれまでに、喫煙、塩分の摂りすぎ、野菜不足の食事などが、胃がんのリスク要因であると報告されています。このような生活習慣があるならば、まずそれを改善することが大切ですね。ピロリ菌の抗生剤治療については、消化器の専門医に相談するとよいでしょう。
胃粘膜萎縮を指摘されたことのある人は、定期的な胃がん検診を受けましょう。

・母の想い出・・・・初めまして。受付・事務を担当している安川です。私には子供の頃から大切にしている言葉があります。「笑われて、笑われて、偉くなるんだよ。叱られて、叱られて、賢くなるんだよ。叩かれて、叩かれて、強くなるんだよ」。母が生前に残してくれた言葉です。私が高校の時、母は突然、脳内出血で倒れました。入院してから他界するまでの2週間、その間に少しだけ意識を戻した時があり、母は私たちに1枚のメモを渡しました。やっと読み取ることが出来る文字で、「くよくよするな」と書いてあり、それが最後の言葉になりました。47才という短い人生が終わるその最後の瞬間まで私たちのことを心配して、強くなれ、くよくよするなと願ってくれました。「叩かれて、叩かれて、強くなるんだよ」。母の言葉を心の中で何万回もつぶやきました。そして20年近くかかって、やっと母の死を受け入れることが出来ました。それはたぶん私自身が母親になり、あのメモを渡した時の母の気持ちが、胸が苦しくなり、涙が止まらなくなるほど理解することができるようになったからだと思います。この言葉は、つらいときや前に進めなくなった時に、繰り返し想い出す言葉です。今では落ち込んだ心を元気にしてくれる私の魔法の言葉になっています。
立派なお母様だったのですね。その思いをお子さんにも伝えて下さい。(院長)

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