診療所通信
        Clinic News Paper
No.128
2010/3/1

/                 川上診療所
 今年の冬は雪の日も多くて寒く長かったですが、もうすぐ春です。受験生の皆さんは、どうだったでしょうか。わが診療所の副院長・宮内先生の息子さんが医学部に進学することになりました。私としてもうれしい限りです。まだよちよち歩きの幼少のころ、またサッカー少年としてがんばっていた中学生のころ、ケガをしても歯を食いしばって泣かなかった、あの少年が立派な青年に成長しました。医学部卒業までの6年は長いです。その後の国家試験。合格してもまだ注射ひとつうてない。研修と基礎研究の日々を約10年すごして、どうにか自立。そうして多くの病める人たちを診てゆく・・・。だから医師への道を進んでくれたことに、私としては「おめでとう」と言うより「ありがとう」という思いが強いです。志を抱く若い人たちに、今は幸多かれと祈るばかりです。
私の息子は勉学は苦手なようで、今は吹奏楽チューバにお熱です。

アフリカからの宮尾メール・・・・(前略)・・・手術が始まり、おなかにメスを入れようとしたところで、麻酔の看護師が「ドクター、ちょっと待ってくれ、患者の心臓が止まっている!」すぐさま手術を中止して、心臓マッサージ。おなかの子供はどうなっているのだろう。母体の心臓が止まっても、今赤ん坊をとりだせば子供だけでも助かるかも知れない。心臓マッサージの手を止めて「手術を続けるぞ!」と言ったとき「心臓が戻った!」と。モニターも何もないので麻酔医を信じるしかない。急いで子宮を開けて、子供をとり出す。子宮は胎便でいっぱいで反応がない。それでもへその緒を切って急いで助産師に赤ん坊を渡し、胎盤を取り出して子宮の止血と閉鎖に移る。早くしないといつまた心臓が止まるかもしれない。27歳の妊婦の心臓が突然止まった原因もわからないのに。焦る気持ちの自分に「落ち着け!」と言い聞かせながら手術を続ける。耳を澄ませても後ろから子供の泣き声は聞こえない、ちらっと振り返ると、シスターが毛布に包まれた胎児を抱いる。ダメだったのか!でも、ひょっとしたら生きているのか?「どうだったんだ」と聞けない。結果を聞いて自分の心が乱れると困る、と思っている自分の心はもうすっかり乱れていてるのに。「母親の心臓は大丈夫」との返事。よし、後はもう急ぐことはないからゆっくりやれ、と自分に言い聞かせながら、でもうまく手が進まず最後の皮膚を縫う時間がやけに長く感じる。そのころ、麻酔担当看護師と手術助手と看護師がスワヒリ語で世間話のようなやり取りを始めた。なんでこんな状態で談笑できるんだ?と思いながらも、母親のうめき声が聞こえ始めたので「生きてる」とほっとして手術は終了。ガウンを脱ぐと下着まで自分の汗と患者の血液でびっしょりだった。ようやく「子供は?」と聞けて「おなかの中でダメだったみたいです。取り出してから全く反応が無かったです。」と助産師の話。麻酔の看護師になぜ突然心臓が止まったと思うか?と聞くと、手術前に胸を痛がっていたとのこと。「お前らは人の命を何だと思っているのだ」という思いがつきあがってくるんだけれど、ここでは、考え方も医療も社会も違うんだし、怒ってもしょうがない、という無力感がそれをすぐに塗り替えてしまう・・・。あんたたちはいいよ、「神のおぼしめしだから」で済むんだから・・・(略)。
アフリカの宮尾先生からのメールです。手伝ってあげたいけど、がんばれ先生!(院長)

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