乳がん再発予防の薬について

 手術と放射線治療だけで大丈夫か?乳がんの細胞が身体のどこかにまわっている場合、手術と放射線だけでは不十分である、と考えられます。意外に早い時期から、つまりしこりが小さい段階でも、乳がん細胞は全身にまわりやすい、ということが分かってきました。「乳がんは全身病である」と言われるのは、このためです。しかしまた、乳がんの細胞はゆっくり増殖して行くという特徴があるので、「転移」していても、「再発」の兆候は感じにくいし、見つけにくい。全身病であっても、何の症状もなく生活できるケースはたくさんあります。

 多くの場合、手術治療の後の1〜2年間は、小さな転移があるのかないのかわからないのです。微小な乳がん病巣は、1〜2年では正体を現さないんですね。10年とか20年とかたって、やっと発見されるようになる転移病巣もあります。このあるかないかよく分からない小さな転移病巣を治療する方法として、予測をたててあらかじめ投薬する方法と、転移病巣が大きくなってから治療を開始する方法とがあります。前者を「補助療法」といい、後者を「再発治療」といいます。

 補助療法と再発治療とには、本質的な違いはありません。テーブルの上にこぼれているかも知れない水と、部屋中水浸し、との違いでしょうか。その違いをどうとらえるかは、患者さんや医師の考え方によってまちまちです。現実的には「テーブルにこぼれた少しの水」の場合は軽い薬の治療、「部屋中水浸し」の場合は、かなりきつい治療というような違いが生じてきます。

 現在、一般的に使われている乳がんの薬について少し紹介しましょう。

1.ホルモン療法薬

・抗エストロゲン剤・・・乳がんの発育を抑える薬です。男性ホルモン薬ではありません。世界的に最も標準的な乳がんの治療薬として評価されている薬です。乳がん細胞はエストロゲン(女性ホルモン)によって、発育すると考えられています。抗エストロゲン剤は、このエストロゲンが乳がんの受容体と結合するのを妨ぐ働きがあります。

・LH-RHアゴニスト製剤・・・卵巣ではエストロゲンがつくられています。卵巣を手術で切除してしまえば、手っ取り早いのですが、現在そういう治療は一般に行われていません。LH-RHアゴニスト製剤は、卵巣からのエストロゲン分泌を抑制する薬です。つまりこの薬は、卵巣を切除するのと同じ効果があると考えられます。

・アロマターゼ阻害剤・・・エストロゲンは卵巣以外でもつくられます。主に脂肪組織で作られるのですが、これを抑制するのがアロマターゼ阻害剤です。したがって卵巣機能のない人や閉経後の人にも、有効なホルモン療法と考えられています。

2.抗がん剤
 抗がん剤は、ホルモン剤と違って、がん細胞を直接死滅させるための薬です。製薬が開発された時期や作用の違いなどが様々ですから、種類はたくさんあります。また薬どうし組み合わせたり、単独で使ったり、投与方法もいろいろです。一般に、補助療法の場合は、経口剤の単独投与か、すでに決められた組み合わせ(CMFとかCAFなどといわれています)で行われます。再発治療の場合は、量を多くしたり、組み合わせを替えたり、新薬を使ったり、決められた方法以外の抗がん剤を使うこともしばしばあります。

 抗がん剤の副作用は・・・抗がん剤はがん細胞意外の正常な細胞にもダメージを与えることがあります。特に細胞分裂の活発な細胞に、です。毛根の細胞や、胃腸の粘膜の細胞、骨髄の細胞などは活発なので、このあたりに副作用が出やすいようです。また、この副作用の出方は人により様々で、副作用の強い人、少ない人、いろいろです。

 抗がん剤の費用は・・・がんの薬は一般に高価です。抗エストロゲン剤(薬剤名はノルバデックスなど)やCMFは、古くから開発された薬であるため薬価は低いのですが、新薬ほど高価です。参考までに薬価の一覧を示しておきましょう。

資料提供:千葉大学第一外科 鈴木正人先生より

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