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CMCCの現状と課題



聖学院大学大学院教授
北千住旭クリニック
CMCC協力会員

        
平 山 正 実

1 はじめに

 現代の日本では、地域、家庭、学校、企業において、人と人との関係を結ぶ心の絆が切れ、人々は孤独に苦しんでいる。具体的には、これまで地縁、血縁によって、形成されてきた共同体が崩れ無縁社会になったといわれる。また、機能不全家族が増え、子どもや高齢者への虐待、青少年のひきこもりや非行が目立つようになった。さらに、学級崩壊や失業、貧困、自殺が増加している。このような社会背景のもと、心病む人が増え、かれらの多くは、孤独からの癒しと救済を求めて、教会に足を運ぶようになりつつある。このような危機的時代にあって、心病む人に奉仕するCMCCとそれを支えるCMFの役割と使命は、益々その重要性を増している。

2 CMCCの成立ち

 CMCCは、来年(2011年)、創立20周年を迎える。一つの区切りをつける意味で、その過去、現在、未来について考えてみることは、有意義であると考える。

 そこで、CMCCの発足(1991年5月6日)当初からかかわった者として、若干私見を述べたいと思う。なお、筆者は、現在CMCCの責任ある役職についているものではなく、一会員にすぎないことを最初にお断りしておく。

 今からちょうど20年前、私は、キリスト新聞社が主催するキリスト教カウンセリング講座の講師として招かれ、メンタルヘルスに関する講義を受け持っていた。講義が終わって控室で一休みしていたところ、品の良い中年のご婦人が、つかつかと入って来られ、「私はクリスチャンですが、同じ教会のご家族の息子さんが、心を病んでいて困っておられます。なんとか、クリスチャンが助け合いながら、このような人たちを支える組織ができないものでしょうか。」と言われた。このご婦人こそ、CMCC立ち上げのキッカケを作ってくださった故久志本夫人だった。彼女のご主人は、日本を代表する大企業の役員をしておられ、 資産家だったが、彼女も商才があって、そこで得た多額の資金を、CMCC設立のための基金として、献金してくださった。

 私は、それ以前から「神学と精神医学懇話会」(会長 故岸千年先生)を通して、神学者や精神医学者との交流があったので、学問的レベルでの交流だけでなく、 教会が直面している具体的な課題にも応えてゆく必要があると説いて、そのような方々に適切な人材の推薦を依頼した。その結果、当時、東京神学大学の教授であり、 今は亡き熊澤義宣先生に初代理事長に就任してほしいとお願いしたところ、こころよくお引き受けくださり、CMCCが発足した。

3 CMCCの働きとCMF

 あらゆる組織は、その理念、目的が大切である。CMCCのそれは、定款第3条に記されている。すなわち、そこでは「本法人は、キリスト教の精神に基づく民間ボランティア団体であり、 心病む人々及びその家族を援助すべく、医療、臨床心理、教育、社会福祉等の知識と技術を学びつつ、電話相談、面接その他の方法により、不特定多数の人々を対象とするメンタルケアの ボランティア活動を行い、もって社会全体の利益の増進に寄与することを目的とする」と謳われている。

 このようなCMCCの目的、理念を達成するための中核的なメンバーは、誰かといえば、それは、CMF(クリスチャン・メンタル・フレンド)である。そこで、筆者が考えるCMCCの果 たすべき役割と使命を担うことのできるCMFの姿というものを記すことにする。

 まず第一に、心病む人の生活全体を支える寄り添い人となることである。
 第二に、心病む人の悲しみや喜びの体験を共有し分かち合うことのできる人である。
 第三に、心病む人の悩みや苦しみを、ひたすら聴くことのできる人である。
 第四に、ボランタリー精神に富んでいる人である。
 第五に、教会や地域、学校、家庭と連携でき、しかも、CMF間でチームワークを組んで、心病む人に接することができる人である。
 第六に、基本的態度として、目線は「水平」、あるいは「下から」支える(understanding)姿勢をとることのできる人である。奉仕という「聖書の言葉(ディアコニア)は、(ちり=コニア)をくぐり抜ける(ディア)という意味」
(1)であることからわかるように、CMFは心病む人のために泥をかぶる覚悟で接することが大切であるということを心に刻みつけたい。

 以上、CMFの特徴をまとめてきたが、そのことを一言で言えば、「心病む人やその家族の信仰の友となる」(2)ことである。

 CMFのこのような姿こそ、CMF創立の発案者である故久志本夫人が、望まれたことである。さらに、これに付け加えるならば、「心病む経験をされた方も弱さを用いられ、CMFとして働く」(3)ことも期待されている。

4 CMCCの構造について

 CMCCの構造を分析してみると、CMFが活動する「場」と、その「場」がうまく活動できるようなシステムと、そのシステムを運営するための手続き(定款、運営細則)等々に分けられる。

 CMFの活動の「場」としては、大別すると、相談システムと交流システムがあり、前者は、電話相談、面談、訪問、文通や専門相談(医療、法律、心理相談)によって構成されている。後者は、めぐみ会(家族会)、福音に学ぶ会(当事者会)、ティールーム等によって成り立っている。

 CMFが活動する「場」としての舞台を提供するシステムとしては、地区活動協議会、研修委員会(グループ研修・一泊研修・一日研修など)、公開講座部、広報・出版部、事務局、認定委員会、将来問題検討委員会、財務部、理事会、福祉委員会等がある。

 以上のようなCMCCの組織を、理念、目的と結び付けて考えると、図1のようにまとめることができるのではないか。

図1

 図1のCMFを成長させる三つの輪とは、「キリスト教的メンタルケア」(宣教)と「カウンセリングマインドケア」(癒し)と「スピリチュアルケア」(教育)に分けられる。CMCCは、CMFを成長させ心病む人を癒すために、このような三種類のケアを行うよう求められている。「キリスト教的メンタルケア」とは、各種研修会、公開講座、福音に学ぶ会などによって行われる。「カウンセリングマインドケア」とは、一般相談活動や専門相談活動、フェローシップ=交わり(家族会=めぐみ会、ティールーム)、各種福祉活動などがある。「スピルチュアルケア」は、人生の意味、目的などを探るもので、各種研修、公開講座、心理相談、将来問題検討委員会、認定委員会などが関与することになるだろう。

5 CMCCが今後次世代に継承すべきこと


 最後に、CMCCやCMFは、今後なにを継承してゆくのかという点について触れておきたい。もっとも重要なことは、 良質のメンタルフレンドを育てること。具体的には、心の病に関する正確な情報を幅広く伝達し、獲得すること。そして、 キリストの香りを持ちながら、生活全体を支えることができ、心病む人への配慮ができる人材をつくり上げること。 さらにCMFは、心病む人と教会とのネットワークを形成するためのとりなし役となることが望ましい。また、心の病とキリスト 教信仰との正しい関係をよく理解できるCMFを育成することも大切である。さらに、CMCCやCMFは、心病む人に安らぎを与え、 人と人との関係性を構築する能力を持っていることを、広く社会に対して発信することが、求められているのではないかと思う。

【文献】
(1)熊澤義宣「心病む人々の友となろう」
   (『心病む人々と共に』 キリスト教・メンタル・ケア・センター編 キリスト新聞社 1993)103頁
(2)舟山紀「家族への援助を考える」 (前掲書)162頁
(3)熊澤義宣(前掲書)105頁