藍生ロゴ 藍生9月 選評と鑑賞  黒田杏子


雲の峰句作に生きてながらへて

(静岡県)伊藤 花枝
 すばらしい。おめでとうございます。百歳以上の日本人は大勢居られます。選者を長年つとめております「明日の友」誌の俳壇欄は五十歳以上が投句資格のきまり。シニア雑誌ですから百歳から百十歳までの投句者が何人も居られます。旧制女学校を卒業された方がほとんどで、どなたも手書きの文字が見事です。伊藤さんに私はお目にかかっておりませんが、茶道に打ちこまれ、写経も長年続けておられるようで、筆圧のある立派な文字のご投句。今月は投句用紙の年齢欄に「百」とありました。投句用紙を何度も拝見して励ましを享けております。伊藤さんのような大先達が居られる全員平等の「藍生」を誇らしく思います。雲の峰の上五が実に見事です。



かはほりの去れば蛍の闇となり

(東京都)遠藤由樹子
 事実そのものを詠まれたのでしょうが、とても豊かな心地になる作品です。かはほりも蛍も共生している空間。俳句作者として、作者もその闇の中にゆたかな気持ちで身を置いている。こういう句の味わいを私達は大切にして生きてゆきたいと思います。



どくだみの花夫が描き吾も描き

(京都府)曲子 治子
 いいですねえ。ご夫妻は共に画家。どくだみのあの花のすがたをそれぞれにいま描きとめておられる。この花を生けるとか干すという句は山ほどありますが、ご夫妻がそれぞれに描かれる時間。何と豊かな人生。しかも古都京都にアトリエを構えておられて……。


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