藍生ロゴ 藍生6月 選評と鑑賞  黒田杏子


春雨を浴び澄みゆけるわが心

(栃木県)沖山 充弘
 いかにも沖山さんの句。だと思います。澄みゆけるわが心。いいですねぇ。
 ただ、同時に提出しておられる二句について私は黙っている事は出来ないと思いました。とくに最後の句。花を待つ立ち上がれずに花を待つ。母上様を見送られてのちの日々。高校教師の仕事も六十歳で定年退職。母一人子一人の生活も終って、時間が経過しています。……立ち上がれずに花を待つ。まこと正直、率直な句でしょう。沖山さん。母上様に悪いですよ。「藍生」の方々でこの沖山さんのあり方に、アドヴァイスして下さる方はおられませんか。ご意見を事務局成岡さんにお届け下さい。事務局経由で沖山さんにお届けします。投句作品に記されるほどですから、病状は深刻でしょうね。皆さま、どうぞよろしくお願いを致します。



うららかやマスクはいらぬ妻と我

(石川県)小森 邦衞
 いい句ですね。ご夫婦ふたり暮し。いかにも小森さんの句。小森さんも七十七歳。ますますお忙しい日々のようですが、輪島に暮らす漆芸家のアトリエ。愉しく豊かな生活空間が浮かんできて、嬉しくなります。



マスク越し言葉減らして春に老ゆ

(長野県)大工原宏牟
 この句にも感心しました。実に冷静にご自身を見つめておられます。八十八歳になられた大工原さんの尊厳の出ている一行ですね。


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