藍生ロゴ 藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


春めくと思ふ誰にも言はず思ふ

(東京都)石川 仁木
 石川仁木さんの投句に再会。東京の桜が満開となった日のこと。「藍生」には再入会されていたのですが、五月号の投句ハガキの中に、独特の筆蹟を見出した時、感動しました。大隅優子さんと共に明治大学で故川崎展宏先生のゼミに参加。展宏先生が「二人ともめったに居ない若者。頼もしい会員が居て、羨ましいよ」とおっしゃって下さったのでした。ともかく、石川さんは独自の俳句学習法を開発。歳時記に載っている季語をひとつひとつ題詠として、作品を作っては塗り潰してゆくのです。向島百花園で私が主催しておりました勉強句会で、その歳時記を出席者に回覧して下さったことも。ある日、「私の残る人生は一人のいのちの鎮魂のために捧げます」との封書。角川俳句賞の有力候補に何度もなったりされたのですが、句作の筆を折り、「藍生」とも無縁に。一月に黒田の写真展に来られ、写真集を購入された記録がありました。私が生きて、「藍生」の選句を継続中に復帰されたこと、よかった。と思います。こののち四十八歳の石川仁木さんの作品に毎月対面出来る。私にとってこれ以上の励ましはありません。



世心地や一日早く春立ちぬ

(東京都)牛嶋 毅
 世心地などという日本語を句に持ちこむ人は牛嶋親分位でしょう。広辞苑を引くと、「よごこち」世にはやる病気・流行病・疫病・世の中ごこち。などとあります。ということで博学、物知りの牛島さんの二〇二一年の名句となった次第です。



春暁の孔雀が言へり忘れなさい

(大阪府)森尾ようこ
 面白いだけでなく、秀句ですね。この作者の句として残りますね。見事です。


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