藍生ロゴ 藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


十三夜しまひ忘れし琴の爪

(静岡県)伊藤 花枝

 伊藤さん九十八歳。毎回見事な筆跡。お目にかかったことはありませんが、その作品かたその人となり、豊かな人生を想います。〈曾祖父の和とじの医書を曝書せり〉の句も。この句、十三夜の季語のあっせんがすばらしい。樋口一葉の名作「十三夜」なども想われます。寂聴さんも現役作家。伊藤花枝さんもまぎれもない現役俳人。「藍生」の誇り。



秋日燦生き甲斐と言ふ仕事われに

(石川県)小森 邦衞
 秋日燦。この上五がすばらしい。人間国宝の小森さん、七十五歳となられました。その昔、輪島から日経俳壇に投句されて以来の句縁。日本橋高島屋での個展のご案内を頂き、六十歳定年を迎える直前の私は会場に出向き、漆の句を拝見していたこの作者にお目にかかったのでした。この一行に解説は不要。能登輪島の秋日。小森さんの人生こそ「燦」。凄い句です。



小鳥来て弾む新車の車椅子

(大阪府)名本 沙世
 沙世さんも五十四歳。弾む新車の車椅子。これこそ絶唱。生涯の伴侶である車椅子。小鳥来て。という上五も巧い。小鳥来る。ではありきたり。この人の句は毎月読み飽きることがありません。作品のバラエティ抜群。


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