藍生ロゴ 藍生11月 選評と鑑賞  黒田杏子


粒選りの砂を集めて蟻地獄

(埼玉県)城田 明子

 その蟻地獄、見てみたいですね。縁の下などの乾いた土砂にすりばち状の穴を掘って隠れ、すべり落ちたアリなどの小動物をやっとこ状の大顎で捕食。ウスバカゲロウの幼虫の仕業。私もこれまでにあちこちで眺めてきましたが、粒選りの砂を集めて…。城田さんの観察眼と表現力に脱帽です。キラキラとしたその砂の粒が見えてきます。傑作です。



唐辛子じぶんの辛さ知つてをり

(埼玉県)はたちよしこ
 ウーン。これは詩人はたちさんの世界。ここまで言って頂いて唐辛子も冥利に尽きますね。私などやりたいように、生きたいように進んできたことは自覚していますが、この唐辛子のように、自分というものを知っているかと問われたら、残念ながら自信がありません。こころに残った一行。



蝉しぐれ母を焼かねばならぬ今

(栃木県)沖山 充弘
 母ひとり子ひとりの生活が続いていた沖山さん。父上を見送られたのちの母上に長らく護られてきて、近年は高校教師として忙しい毎日の中こんどはずっと護ってこられたその母上が旅立たれました。今回、一連の御作の中から、この一行を私は選びました。斎藤茂吉のあの一連の名歌を憶いました。こののちの俳人としての沖山さんの前進を祈ります。


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