藍生ロゴ 藍生9月 選評と鑑賞  黒田杏子


ちがふ夢ちがふ狂気や罌粟ひらく

(東京都)小池 啓子

 二人の人間の夢、そして二人の人間の内にある狂気というものが異るという句です。小池さんは病気の進行する夫君を看とられて長い。東京例会には毎回参加されているので、「大変なんでしょう」と申上げたところ「ええ、でも二人で頑張っていますから」とほほえまれた。罌粟ひらくの季語のあっせんは凄いと思う。小池さんはたしかアーティスト。昔、この人の描いたイラストレーションを拝見した記憶もあります。静かな表情で句座に着いておられる小池啓子さんのこの句は圧倒的な存在感を示して私達に迫ってきます。この人にとって俳句は祈りであり、救済でもあるのでしょう。この句が私達に与えてくれる衝撃に学ぶべきだと思います。



キャベツ噛みしめ生きてきたやうに生き

(京都府)河辺 克美
 河辺さんの作品は刻々進展しています。この人の句にもしも自己模倣があったら、それは困ってしまうのですが、一切それは無いのです。生きてきたやうに生き。と言い切れる人生は勁い人のもの。キャベツ噛みしめも動かない。言葉あそびからこのような句は生まれません。常に自己革新。自分に挑戦しつづけている人ならではの作品です。



黄金週間湖に犬泳ぎ

(山梨県)朗善 千津
 千津さんは山中湖畔に棲んでおられます。湖と霊峰富士と、真冬の寒さは厳しいでしょうが、五月ゴールデンウィークの頃の心地よさは格別でしょう。愛犬も湖水にとび込む。黄金週間の四文字が効果をあげています。


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