藍生ロゴ 藍生10月 選評と鑑賞  黒田杏子


みささぎの七つありけりほととぎす

(大阪府)長 晴子

一読胸がひろがるここちがする。わずか一行十七音字、その時空は限りなく大きく広やか。関西に暮らす人の句だと思う。ほととぎすのその啼声が天空をひびきわたる。みささぎのみどり。その囲りには水もある。読み手にはその歴史的な場所を俯瞰しているような臨場感も与えられる。長年にわたって各地に仲間と吟行を重ね、「すきやねん藍生」の会報を出し、「あんず句会」が寂庵で開催されていた期間ずっと事務局を担当。俳句作者としての研鑽を積んできた人の秀吟である。




梅雨に入るオーヘンリーをもう一度

(徳島県)瀬戸内敬舟
しゃれた句である。敬舟さんのはにかんだような笑顔が浮んでくる。オー・ヘンリーはアメリカの短編小説家。ニューヨーク庶民の日常生活などをユーモアと哀愁で描いた。やや平板な筋に対し、意想外の終り方が特徴。梅雨に入るの上五がこの作者の力量を示していて巧いと思った。



梅雨に読む新書憲法とは何か

(東京都)二宮 操一
さきの敬舟さんは75歳。二宮さんは85歳。それぞれにその人らしい作品を投ぜられていると感じ入った。新書で出ている「憲法とは何か」を求めて、いまあらためて読もうとしている作者は東大法学部卒。朝日新聞社につとめておられ、定年を前に「朝日カルチャー・センター新宿」の講座部長。たまたま「働く人と学生のための俳句入門講座」という黒田の土曜の夜学クラスに参加された。「藍生」創刊から今日に至るまで一貫して私たちの結社を支え、導いてきて下さっている二宮さんのいよいよこの若々しい情熱に、いま私はあらためて敬服する。


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