藍生ロゴ 藍生3月 選評と鑑賞  黒田杏子


その人の心となりて秋惜しむ

(千葉県)田中 修明

 秋惜しむの句として異色の作品である。その人とはどういう人なのか。誰なのか。しかし、この句にあふれている優しさはともかく大変なものである。田中修明という人の生き方、人生観をあらためて知らされたという想いがする。年輪を重ねてこのようにゆたかに人に対し、自然に向かうことが出来るようになれるのであれば、希望が湧いてくる。



妻に茶を点てて勤労感謝の日

(石川県)小森 邦衛
 作者はいま休む間もない過密ダイヤともいえる多忙な仕事の日々を送っている。上京することも多く、自身の作家活動に専念できる時間がどんどん減ってゆくという。弟子を育てることも重要な仕事であるから、夫人の忙しさも加速している。勤労感謝の日、作者はアトリエを出て、和室で夫人のために一服差し上げた。静かな能登輪島の冬紅葉に囲まれて。



消炭の壺に問ひかけ己が道

(香川県)中川 満佐美
 満佐美さんは茶人である。高松から京都まで稽古に通っていた人である。夫君が亡くなられ、悲しみを乗りこえてゆくとき、長年打ちこんだお茶の道は大きな支えとなってくれた筈である。四国遍路吟行が満行となってからは逢うこともめったになくなり、茶道その他の話を伺う機会もなくなっている。この句に出合って、中山満佐美健在と知らされた。消炭の壺に問ひかける句友を誇りに思う。


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