藍生ロゴ藍生7月 選評と鑑賞  黒田杏子


藤浪や夢叶へられゆく予感

(高知県)浜崎 浜子

 あることの実現を希ってきた。それは作者にとっての夢であり、希望であり、生きてゆくその支えともなること。他人から見れば、ささいなことのように思えるかも知れないそのことを作者はずっと大切にして日々励んできたのではないだろうか。藤の花が咲き出して、むらさきの波濤のようにひろがってくる。その生命感あふれる気を享けて、こころに秘めてきた夢が現実のものとなってゆくという想いを静かに噛みしめている人の句だ。




雲のなかに星みえてゐる彼岸かな

(神奈川県)森田 正実

 彼岸の星、即ち春の星である。薄雲の中に輝いている星がみえる。きっとその星はみずみずしい光を放っているのだ。彼岸の頃の暖かさと寒さの交錯するような微妙な時季のその星を眺めている作者のこころもみずみずしくなってくる。無駄なもの、余分なものがすべて削ぎ落され実にここちよい作品世界だ。




霾やわが軍歴に唐土なし
(神奈川県)小見山希覯子

 気象用語では黄砂。春の季節風によってモンゴルや中国北部の黄土地帯で舞いあがった大量の砂塵が偏西風に乗って日本にやってくる現象が霾である。作者は軍医として各地に赴いた人であろう。近年いよいよはげしさを増す黄砂現象の中で、はるかなる昔を振り返ってみている。そう言えば、唐土は踏んでいなかったなあと。長寿者の句ならではの大らかな句、ユーモアもある味わいが魅力だ。



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