活習慣病の運動療法

 

生活習慣病って?

 飲みすぎ,食べすぎやストレスなど,主に生活の乱れから起こる病気です。代表的なものに高血圧,高脂血症,糖尿病があり,最近増えています。生活習慣病の予防・改善のポイントは食事療法や運動療法です。

※加齢,遺伝的体質などが関係している場合もあります

 

 

運動療法には,どんな効果があるの?

 運動療法はストレス解消,肥満予防にも役立ちますが,中性脂肪の減少や血圧を下げるなどの具体的な効果もあります。

高血圧 :運動療法を続けると,約10週後には血圧が510mmHg下がるといわれています。

高脂血症 :トリグリセリド(中性脂肪)を減らし,HDL(善玉)コレステロールを増やす効果があります。

糖尿病 :筋肉を中心とした末梢組織のインスリンの働きが改善し,血糖のコントロールが良くなります。

肥満 :軽い運動療法を長時間続けることによって効率的な脂肪燃焼が期待でき,疲労感も少なくなります。

 

★ご注意ください!★

運動療法は,必ず医師の指示のもとで実施しましょう。

不適切だと逆効果になってしまうこともあります。

  ↓

運動療法が適さない人:あなたは大丈夫?

○重症な高血圧である→運動が負担になり,脳卒中を起こす危険性があります。

○眼底出血がある→症状を悪化させるおそれがあります。

○高血圧で,心肥大を指摘された→運動により心臓への負担が大きくなりすぎることがあります。

○むくみがある→心不全をおこしやすいとされています。

○冠動脈の異常を指摘されている→狭心症や心筋梗塞を起こすおそれがあります。

○腎臓の機能が弱り,尿たんぱくが多い→運動により心臓への負担が大きくなりすぎることがあります。

 

 

安心して運動療法を行うために

運動前のウォーミングアップや,運動後のクールダウンに,軽い体操やストレッチを行いましょう。思わぬケガを防ぎます。

無理をしないこと。苦しさを感じるような運動はやりすぎです。やや息が弾む程度を目安にしましょう。

体調や環境が悪いときにはお休みしましょう。1日休んでも効果は持続します。

早朝,深夜は避けましょう。身体のリズムをくるわせるもとになります。

 

 

おすすめは「有酸素運動」です

 有酸素運動とは,筋肉に酸素を十分にとりこみながら全身を使って行う運動のことです。やや汗ばむ程度で,人と会話しながら続けられる強さで行いましょう。有酸素運動の効果を得るために,少なくとも120分以上,週35回の運動を目指しましょう。

〜おすすめの有酸素運動〜

○ウォーキング(11万歩が理想。徐々に増やして1万歩に近づけていきましょう)

○軽いサイクリング

○水泳,水中ウォーキング

○踏み台昇降運動(台の目安は2030cm

 

〜避けたほうがよい運動とは〜

 無酸素運動(苦しいのを我慢して行う運動,息をこらえて行うような運動)は避けましょう。血圧上昇を招きます。また,自分のペースでできないもの,関節や腰に負担がかかる運動にも注意しましょう。

○高強度の筋力トレーニング(重量挙げなど)

○短距離走(100メートルダッシュなど)

 

 

1日の運動で,消費エネルギー200300kcalをめざしましょう

 1日に運動で消費するエネルギーは,200300kcalを目安とします。これは運動療法と日常の身体活動を合わせた数値です。運動の種類や方法は医師と相談して決めましょう。

 

〜運動で100kcal消費するために〜

「運動」と生活の中で体を動かす「生活活動」を組み合わせて消費エネルギーを増やします。気軽に取り組めるものから試してみましょう。

100kcal消費するのに必要な運動時間(体重別)

運動

生活活動

50kg

60kg

70kg

80kg

ボウリング

ウェイトトレーニング

(軽・中等度)

普通歩行

階段を下りる

部屋の掃除

57

48

41

36

水中体操

卓球

速歩

自転車

38

32

27

24

ランニング

水泳(クロール:ゆっくり)

階段を昇る

16

14

12

10

※運動時間は計算式で求めた目安の値。安静時エネルギー消費(1メッツ分)を引いて算出。

Med Sci Sports Exerc(Spuppl)S498-504.2000

健康づくりのための運動指針2006「エクササイズガイド2006」より改変

 

疾患別の注意点

高血圧 :息をこらえて力むような筋力トレーニングや,寒冷地は血圧を著しく上昇させますので避けましょう。

高脂血症    :激しい運動は避けましょう。不整脈や狭心症を誘発することがあります。また運動中に胸痛を感じたらすぐに中止し,かかりつけ医に相談しましょう。

糖尿病 :インスリンや経口血糖降下薬治療を受けている場合,運動は食後13時間くらいの間に行いましょう。空腹時の運動は低血糖を起こす危険があります(砂糖やブドウ糖を携帯しましょう※)。

                    ※α-グルコシダーゼ阻害薬を服用している場合は,砂糖ではなくブドウ糖にしましょう。

肥満:足首,ひざ,腰に負担がかかる運動はさけましょう。

 

 

楽しみながら続けるために

○お気に入りのウエアを見つけましょう。ストレッチ(伸びる)素材で,汗の乾きやすいものを選びましょう。帽子やタオルも忘れずに。

○自分の足に合うシューズを:かかとに手の小指の第一関節が入る余裕があり,つまさきに10ミリ程度余裕のあるものを選びましょう。甲が圧迫されていないことも大切です。底に厚みと弾力性のあるものは衝撃を和らげてくれます。

○天候の悪いときは,家の中での軽い体操などがおすすめです。

 

 

日常生活でのちょっとした工夫

 まとまった時間がとれない場合には,通勤中,会社内,家庭内でちょっとした工夫をしましょう。

○エレベーターやエスカレーターを使わず階段を利用しましょう

○電車やバスに乗ったら,目的地の一つ手前で降りて歩きましょう

○買い物は車を使わずに歩きましょう

○電車やバスでは座らないようにしましょう

 

 

運動強度の物差しの一つ「心拍数」

 運動強度の物差しのひとつにボルグのスケールというのがあります。これは,運動中の主観的な感覚を運動強度と結びつけたものです。

 楽,辛いといった感覚が心拍数とほぼ相関関係にあることがわかっています。

いわゆる脂肪燃焼を狙った有酸素運動の場合は,「まあまあ楽」なレベルで,心拍数でいうと1分間に110130の数字に相当します。

 ただし,こうした主観的な感覚がいつも運動強度にあてはまるかといえばそうではありません。暑さ寒さという外部環境やその日の体調などによって,たいして心拍数が上がっていなくても「辛い」と感じたり,またその逆であったりすることもしばしばあります。

 

最大心拍数=210-0.65×年齢)

目標心拍数=最大心拍数×運動強度

運動強度

運動目的

6070

有酸素運動ゾーン

脂肪燃焼

7080

有酸素+無酸素ゾーン

心肺機能の強化

80%以上

無酸素運動ゾーン

競技力の向上

 

 

 

***参考文献***

生活習慣病の自己管理シリーズ「生活習慣病の運動療法」

監修:太田総合病院附属太田西ノ内病院運動指導室室長 藤沼宏彰先生

「運動・食事改善チャレンジノート」

監修:千葉大学大学院 医学研究院 細胞治療学 高脂 横手幸太郎先生

Tarzan2009.3.11号「みんなのランニング」より