単純疱疹と帯状疱疹

 

単純疱疹

単純ヘルペスウイルスの感染あるいは潜伏ウイルスの再活性化により,皮膚あるいは粘膜に小水疱を生じる疾患です。
接触により感染するウイルス感染症であり,性感染としての一面がありますので,他への感染を防ぐため患部の接触を避けるようにします。神経節に潜伏感染し再発しますので,紫外線曝露や過労,感染症にかからなように注意します。

 
症状
口唇,陰部などに熱感,疼痛,違和感などを伴った比較的限局した小水疱の集まりが見られます。

治療
軽症では外用,中等症〜重症では内服あるいは点滴静注で治療します。
再発を頻回に繰り返し,前兆が自覚できる人はあらかじめ前駆症状の段階で内服を開始します。35日間の内服で再発予防,治癒期間の短縮効果が期待できます。

帯状疱疹

水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって起こります。水痘・帯状疱疹ウイルスの初感染は,ほとんどの人が小児期に罹患する水痘として発症します。水痘に罹患すると,皮膚の表皮細胞で増殖した水痘・帯状疱疹ウイルスが知覚神経を伝わって三叉神経節や脊髄後根神経節のサテライト細胞に感染します。ここで水痘・帯状疱疹ウイルスは数年から数十年にわたりDNAの状態で潜伏感染を続けます。様々な誘因より再活性化すると,再び知覚神経を伝わって支配領域の皮膚に達し,回帰感染として帯状疱疹が生じます。再活性化の誘因としては,過労やストレス,老化,外傷,悪性腫瘍や自己免疫疾患,重症感染症などの疾患,免疫抑制剤や抗腫瘍剤などの薬剤,放射線療法などが考えられています。
最近の特徴は患者の若年齢化と複数回罹患患者の増加です。その原因として少子化やライフスタイルの変化に伴い,生活環境の中で水痘・帯状疱疹ウイルスに曝露される機会が減少し,追加免疫効果が減弱しているためと考えられます。

 
症状・後遺症
帯状疱疹は通常,痛みや違和感が現れ,その後,片側性の皮膚症状が帯状に現れ,激しい痛みを伴います。皮膚症状は,浮腫性の紅斑→紅斑上に小丘疹→小丘疹は小水疱になり疱疹(ヘルペス)が形成されます。皮疹の新生は5日間ほど続き,水疱はやがて痂皮を形成して乾燥し,全経過2〜3週間で治ります。帯状疱疹の一番の特徴は疼痛を伴うことで,発症時期から前駆痛(皮膚に先行して生じる痛み),急性痛(皮疹の出ている間の痛み),慢性痛(皮疹が消失しても残る痛み)3つに分類されます。前駆痛と急性痛とをあわせて急性期帯状疱疹痛といい,慢性痛を帯状疱疹後神経痛といいます。
前駆痛は無い場合や,あっても軽度の場合ですが,急性痛は軽いものから耐え難いほどの強い痛みまで様々で,通常,皮疹が出てから10日前後でピークを迎え,皮疹の治癒とともに3〜4週間で消失します。帯状疱疹後神経痛は高齢者に残りやすく,3ヶ月ほどで消失することが多いですが,中には数年以上にわたって痛みが持続することもあります。急性期帯状疱疹痛はウイルス感染による炎症性の疼痛ですが,帯状疱疹後神経痛は神経因性疼痛や心因性疼痛などが複雑に絡み合った疼痛です。

治療
急性期の疼痛を和らげ,皮疹の再上皮化を促進するとともに,後遺症である帯状疱疹後神経痛の発症を予防することです。
抗ヘルペスウイルス薬は発症初期に近いほど効果が期待できるので,早期(皮疹発現後3〜5日以内)に服用を開始することが望ましいとされています。免疫機能の低下がない人では経口薬が治療の基本となり,免疫機能が低下している人や重症な人では点滴静注が用いられます。腎機能が低下している人は抗ヘルペスウイルス薬の高い血中濃度が持続する恐れがあるので,投与間隔をあけて減量するなどの注意が必要です。
帯状疱疹後神経痛予防のためにも痛みは我慢せずに,急性期から積極的に鎮痛薬(非ステロイド性鎮痛薬,ステロイド薬)を併用します。また,保険適応外ですが抗うつ薬を服用することもあります。これらの鎮痛薬等を早期に服用することにより帯状疱疹後神経痛を予防することが確認されています。

 ☆ポイント
抗ヘルペスウイルス薬の効果を実感できるのは服用して2〜3日後からです。それまでは皮疹が拡大する場合もあるので,ただちに効果が現れないからといって自己判断で服薬を中止しないことです。痛みがあるときしか鎮痛薬を服用しないのではなく,痛みがなくても鎮痛薬を飲み続けることが後遺症を防ぐために大切です。これは,痛みのない状態を続けることで,痛みの記憶が減弱し心因性疼痛を防ぐことにつながります。
治るまでは患部を冷やさないようにすること,入浴は痛みの軽減と後遺症の予防になるので積極的に行います。
帯状疱疹から帯状疱疹を引き起こすことはありませんが,水ぶくれが破れると,細菌による二次感染が起こりやすくなるので,患部にはできるだけ触らないようにします。
皮疹が乾くまでは,水痘に未罹患の乳幼児に水痘を引き起こす可能性があります。過去に水痘に罹患した人は免疫があるので感染しません。