甲状腺の病気

 

甲状腺とはのどに手をあてて声をだしたとき、振動するのがのどぼとけで、その下に位置するところが甲状腺です。大きさはたて3〜4cmくらいで、重さはおよそ18gくらいの小さな器官です。

甲状腺からでている甲状腺ホルモンは食事によって取り込んだエネルギーを全身の細胞に届け必要な物質に変える新陳代謝の働きを担っているホルモンです。つまり、このホルモンのおかげで、体中の細胞がいきいきと活動することができるので、いわゆる「元気のもと」とも言い換えることができるでしょう。

甲状腺の病気とは機能もしくは形のどちらか一方に異常が起こる場合と、両方ともにおこる場合があります。今回は、主として機能に異常がおこる代表的な病気としてバセドウ病と橋本病をとりあげましたが、他にも一部にしこりができる結節性甲状腺腫などがあります。

 

1、バセドウ病とは?

2、バセドウ病とはどのような症状がでるのでしょう?

3、バセドウ病になると皆、眼球がとびだすの?

4、バセドウ病の治療法にはどんな治療法があるの?

5、バセドウ病の薬をのまないと、どういう症状があらわれるの?

6、バセドウ病の薬にはどういう副作用があるの?

7、橋本病とは??

8、橋本病とはどのような症状がでるのでしょう?

9、橋本病の治療法にはどんな治療法があるの?

10、橋本病の薬には副作用はないの?

11、橋本病は放っておくとどうなるの?

12、食生活で気をつけることは何かあるの?

13、甲状腺薬をのみながら妊娠はできるの?

14、甲状腺薬をのみながら授乳はできるの?

 

1、バセドウ病とは?

バセドウ病は甲状腺ホルモンが必要以上につくられてしまう病気で、甲状腺機能亢進症の代表的なものです。男性よりも、女性に多く、患者の半数以上を占めるのは、20〜30歳代の女性です。60歳以上も発症しますが、もともと高齢者は加齢によって甲状腺自体が変化していますので、若い人とはちがった症状がでます。また、男性がバセドウ病にかかると、女性よりも重症になる傾向があります。   

 

2、バセドウ病とはどのような症状がでるのでしょう?

症状は大きく3種類に分けられます。1つは甲状腺が腫れる甲状腺腫、2つめは眼球突出、3つ目は動悸、指の振るえなどの甲状腺ホルモンが過剰になることによっておこる症状です。また、疲れやすくなったり、暑がりになってよく汗をかき、体重が減少します。(他には、イライラしたり、下痢になったり、尿から糖がでたりすることもあります。)

上記3つともの症状がでる人は少数で、症状の出方や程度には個人差、年齢差があります。一般に、甲状腺の腫れは若い人のほうが多く、60歳以上になるとあまり目立たない傾向にあります。体重減少は高齢者の方によくみられます。子どもの場合は集中力が低下し、イライラしやすくなります。

 

眼球突出 動悸・頻脈 発汗 手のふるえ

 

3、バセドウ病になると皆、眼球がとびだすの?

誤解です。眼の症状はすべての人におこるわけではなく、20〜30%の人におこることがあります。眼球自体が大きくなるわけではなく、眼の奥の筋肉や脂肪組織の量が増えるため、眼球が押し出されたり、まぶたが腫れたりする症状で、バセドウ眼症といいます。

なぜバセドウ眼症が起こるのかは原因不明です。しかし、タバコを吸う人は眼の症状が強いという傾向があるので禁煙するほうがよいでしょう。

 

4、バセドウ病の治療法にはどんな治療法があるの?

バセドウ病の治療には、薬物療法、放射性ヨード治療、手術の3つがあります。薬物療法では、発病1年以内で、甲状腺の腫れが小さい人には効果が高いと言われていますが、長年薬をやめられない人や、再発を繰り返す人もいるため、他の治療と比べて、効果は低いとされています。放射性ヨード治療では、治療効果が比較的短期間で得られ、再発がほとんどない、といわれていますが、特殊な設備を必要とするため、日本では受けられる施設にかぎりがあります。また、治療後10年すると、甲状腺機能低下症が起こる可能性もありますし、妊婦や授乳婦は対象外とされています。手術では、甲状腺を切り取って小さくするので、治療効果は早く、確実ですが、熟練した医師の技術が必要とされます。また、高齢者の方は、体力的な負担が大きいので、あまり勧められません。

 

5、バセドウ病の薬をのまないと、どういう症状があらわれるの?

バセドウ病になって、甲状腺機能亢進状態のまま放っておくと、最も多い合併症として、心臓への負担が大きくなります。甲状腺ホルモンは元気のもと、とも言い換えれるホルモンなので、それが出すぎている状態は、常に体を激しく動かしているのと同じ状態にある、といえます。ですから、心臓に負担がかかり、不整脈や、心房細動、心不全がおこる可能性が考えられます。

また、男性では、手足がマヒして、力が入らなくなる「周期性四肢マヒ」がおこることがあります。安静にしていると治まりますが、くせになることもあります。

きわめてまれですが、ケガや感染症で細菌やウィルスが体内に入ると、発熱や、嘔吐、意識障害などを起こす、甲状腺クリーゼという状態になることもあります。重症では、生命にもかかわるので、きちんと薬をのんで、治療しましょう。

 

6、バセドウ病の薬にはどういう副作用があるの?

抗甲状腺薬の注意すべき副作用のひとつに、無顆粒球症という副作用があります。無顆粒球症は白血球の中の、細菌の感染 を防ぐ顆粒球が極端に減ってしまいます。薬の服用開始後2週間〜3ヶ月以内に起こりやすく、症状はのどの痛みや腫れ、高熱など風邪に似た症状が出てきます。放っておくと危険ですので、「風邪だろう」と自己診断しないで、必ず医師の診察をうけるようにしてください。   

 

 

 

7、橋本病とは?

橋本病は免疫の異常によって、甲状腺の炎症がおこる病気です。慢性甲状腺炎ともよばれます。橋本病は初期では甲状腺の腫れだけですが、炎症が進んでいくと甲状腺機能低下症が起こることがあります。患者は圧倒的に女性が多く、女性の30人に1人の割合で発症するといわれています。また、甲状腺機能低下症は橋本病の約3割の人にみられます。

 

8、甲状腺の機能が低下すると、どのような症状がでるのでしょう?

橋本病は、元気のもとである甲状腺ホルモンが不足してしまうため、心と体の元気が枯れてしまうような症状があらわれます。また、橋本病もバセドウ病と同じ様に甲状腺が腫れますが、橋本病の腫れは“びまん性”といい、比較的小さいため自分ではなかなか気がつかないことがあります。

症状としては、エネルギーが足りないので、動作がゆっくりになり、何をするにもだるくなります。体を熱で燃やすことができないため、寒がりになったり、全身がむくんだり(ただし圧迫するともとにもどるのが 腎臓のむくみとちがうところ)、体重が増加します。気力や集中力も衰えて、心身ともに元気がなくなってきます。                                                   

 

 

 

 

 

9、橋本病の治療法にはどんな治療法があるの?

橋本病と診断されたすべての人に治療が必要というわけではありません。逆に、自覚症状がなくても、甲状腺の機能低下のある人、また、機能が正常でも甲状腺の腫れが大きい人は、薬物治療を行います。治療は、足りないものをおぎなってやる、という考え方で、人工的に合成された甲状腺ホルモンを用いておこなわれます。服用後は、血液検査で甲状腺ホルモン濃度を測りながら、少しずつ薬の量を増やし、正常なホルモン濃度に近づけていきます。

 

10、橋本病の薬には副作用はないの?

体の中にある甲状腺ホルモンの成分と同じなので、副作用はありません。ときどき、動悸が激しくなり、甲状腺機能亢進症のような症状がおこったり、骨のカルシウムが減少したりすることがあります。この場合は薬の量が多すぎるのが原因と考えられるので、薬の量を見直していきます。

また、代謝が活発になるので、エネルギー消費が進み、体重が減少することもあります。

 

11、橋本病は放っておくとどうなるの?

橋本病を放っておくと、心臓の働きが悪くなったり、肝機能が低下したり、高コレステロール血症になったりします。 内臓の働きが全体的に悪くなるので、全身がむくんで粘液水腫とよばれる状態になります。しかし、むくんだ部分を押しても元に戻るのが、腎臓によるむくみとちがう点とされています。

 

12、食生活で気をつけることは何かあるの?

甲状腺機能低下症の人は、アブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリー、かぶ、等)と納豆などの大豆製品は極端に食べ過ぎないようにしてください。それらの食品に含まれるゴイトロゲンという物質には、甲状腺ホルモンの分泌を妨げる働きがあるのです。

また、甲状腺機能が亢進している人は、とうがらしやアルコールなどの刺激物はとらないほうがよいでしょう。機能が亢進しているときにお酒をのむと、 動悸が激しくなり、具合が悪くなることもあります。機能が正常になるまでは、控える方がよいでしょう。

 

13、甲状腺薬をのみながら妊娠はできるの?

甲状腺機能に異常があると、月経不順になることがありますが、不妊になることはありません。

ただ、注意しておきたいのは、甲状腺機能が亢進していると、流産や、早産のリスクが若干高くなる、ということです。しかし、きちんと治療したうえで甲状腺機能が正常での妊娠なら、なんら問題はありませんし、薬は胎盤を通りにくいので胎児に影響することはありません。

 

14、甲状腺薬をのみながら授乳はできるの?

橋本病の人がのまれる、甲状腺ホルモン薬は、体内にあるホルモンと同じものなので、授乳中にのんでも、まったく影響はありません。しかし、 バセドウ病の人がのまれる抗甲状腺薬は、一部の薬で母乳に分泌されるものがあるので、医師に相談し、薬を変えるか、母乳と人工栄養の混合乳を考えることになります。

さしつかえない薬・・・チラージン (甲状腺ホルモン薬)

             チウラジール、プロパジール (プロピルチオウラシル)

授乳を制限する薬・・・メルカゾール(チアマゾール)

             ヨード剤