米ゴールドマン・サックスは自らが買収後、法的手続きによる再建を目指していた千葉県のゴルフ場「南総カントリークラブ」の経営権を失った。東京地裁がこのほど南総カントリーに対し、会社更生法に基づく保全管理命令を出したためだ。更生手続きはゴールドマンの経営に反対するクラブ会員らが申請していた。
更生手続き申請代理人であるさくら共同法律事務所の西村國彦弁護士によると、東京地裁は7月6日、三山裕三弁護士を保全管理人に任命し、南総カントリーに保全命令を発令した。これにより経営に加え財産を処分する権利はゴールドマンのマージング・ディレクターでもある桐谷重毅社長らから保全管理人に移された。
ゴールドマンはバブル崩壊後、不良債権化した日本企業所有のゴルフ場を相次いで買収。自らが経営陣に残り再建できる民事再生法の適用に持ち込み債権を大幅にカットし、低コストのチェーン展開で事業を拡大してきた。保全命令はゴールドマンのゴルフ場運営ビジネスにとって誤算となる。ゴールドマンが南総を買収したのは2006年だった。
会員がゴールドマンの再建に反対する理由は、ビジターが増え、会員の優越性が失われ、ひいては会員権相場が下がる−−など。個人会員で会社役員の小野寺智夫(43)氏は、ブルームバーグ・ニュースの取材に対し、「ゴールドマンが再生を担えばビジター中心の運営になり、これまでのクラブライフが楽しめなくなると思った」と述べた。
「株主会員制」の別プラン
会員らによる今回の更生法申請に先立ち、ゴールドマンは1月に東京地裁に民事再生法の適用を申請していた。4月22日に地裁に提出した再生計画案は、会員のプレー権を3割、預託金(債権)を14%までカットし、再建スポンサーのゴールドマンが法的整理後に残った南総カントリーの債務を負担する内容だった。
しかし、ゴールドマンの再生計画は6月23日の債権者集会で否決。これを受け一部会員が対案として旧経営陣は排除される更生法の申請に出たのである。ゴールドマンのゴルフ場再建をめぐる騒動はほかにもある。08年3月には千葉県の「成田ゴルフ倶楽部」再建で一部会員らが決起集会を開くなど反対したが、最終的に過半の債権者が承認した。
西村弁護士は、会社更生法の適用申請に伴い「会員はゴールドマンが南総カントリーをフランチャイズに取り込むことを望んでいない。株主会員制で再生可能なゴルフ場、自分たちの手で再建を目指していきたい」と述べた。成田ゴルフの問題でも一部の会員側に立った西村弁護士は会員が主導する「株主会員制」での再建を強調している。
会員らが決起集会
7月9日夜。降りしきる雨の中、更生手続きによる再建を支援する会員らは都内で決起集会を開催した。和歌山を含む全国から集まった約300人は、西村弁護士らの状況説明に真剣に耳を傾け、自主再建について議論した。参加した都内の会社員、小澤行雄氏(62)は「ゴールドマンは営利主義でメンバーを軽視するのでは」との危惧があったという。
ゴールドマンが買収したゴルフ場の価値は下落する傾向にある。ゴルフ会員権売買の明治ゴルフによると、「サントリー・オープン」の会場で有名だった習志野カントリークラブのゴルフ会員権相場は、03年の約200万円から現在約20万円にまで下落した。
ゴールドマンは買収したゴルフ場をフランチャイズ化して運営するアコーディア・ゴルフを2006年に上場。現在は同社株式の45%を保有する。約130のゴルフ場を運営するアコーディアの株価は06年11月の上場以来、約55%下落している。
米SECとの係争
ゴールドマンは預託金を提供する債権者とプレーヤーの両側面を持つ個人会員らの反対により南総カントリーの経営権を失った。また、反対の理由としてゴールドマンの米当局からの訴訟を挙げた個人会員らもいる。小野寺氏は、「詐欺的行為で提訴されたような会社の下でプレーしたくない」と述べた。
現在、ゴールドマンは、米証券取引委員会(SEC)から債務担保証券(CDO)の組成と販売をめぐり、詐欺的な行為があったとして訴訟されている。同社は米SECと全面的に争う方向で準備を進めている。これまで表面化していない同問題の業務への影響は、日本におけるゴルフ場運営ビジネスで顕在化したことになる。
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