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島崎 隆(一橋大学)

 現代を読むための哲学
――宗教・文化・環境・生命・教育――

46判上製 292頁 本体 2000円

発売中

日本図書館協会選定図書に選ばれました。(04/11/26) 

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 私の研究している哲学は、現実問題の認識にたいしてどのように寄与できるのか。とくに複雑多様に変化する《現代》にたいし、哲学ならではの観点をどう付け加えることができるのか。現実の問題理解に何らかの意味で役に立たなければ、哲学という膨大で仰々しい知識も無用の長物ではないか…。この本は、そうした危機意識のもとに書きつがれてきた過去の論文をまとめたものである。ここで取り上げられた現実問題は、オウム真理教などの宗教問題(第一章)、多文化・異文化の問題(第二章、第三章)、環境と自然の問題(第四章)、断食と生命の問題(第五章)、教育と人間形成の問題(第六章)、などであり、各章のあとにひとつずつ「書物と対話する」というかたちで、書評を付加した。………補章にヘラクレイトスの弁証法的な世界観や認識論を置いたのは、私が一方で現実問題と格闘しつつも、他方でやはり私が哲学史や弁証法的方法にこだわっていることを示したいがためである。そのうえ、哲学的営みには、かならずしもリアルな現実に密着しない認識論などの側面もあり、教養形成の点でそれもまた重要であるということを示唆したかったこともある。しかし、このように哲学的境地に遊ぶということは、大学法人化のもとでますます延命困難となってきたといえよう。こうした状況のなかで、日本の精神文化がますます貧困になっているのではないかと強く危惧する。

目次


まえがき

第一章 近代合理主義のゆくえと現代社会の位相

──オウム真理教を中心に

†書物と対話する──見田宗介『現代社会論』岩波新書

第二章 近代的価値観から多文化的共生への歩み

──テイラーのヘーゲル論を手がかりにして

†書物と対話する──杉本良夫『日本人をやめる方法』ちくま文庫

第三章 《相互文化哲学》とヨーロッパの自己批判

──新しい哲学の可能性をめぐって

†書物と対話する──ローティ『哲学と自然の鏡』産業図書

第四章 自然哲学は環境問題とどう関わるのか?

──人間−自然関係の持続的発展を目ざして

†書物と対話する──戸田清『環境学と平和学』新泉社

第五章 断食の思想と科学

──新しい生命観を目ざして

†書物と対話する──森岡正博『生命観を問いなおす』ちくま新書

第六章 現代の教育問題を哲学から照射する

──教育基本法「改正」問題を念頭に置いて

†書物と対話する──経済同友会報告『若者が自立できる日本へ』

補章 ヘラクレイトスの《リヴァー・パラドクス》

──哲学史からの眺望