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日本の脳性麻痺の医療が新しい段階へ(2002年5月)
―第39回日本リハビリテーション医学会学術集会と第29回日本脳性麻痺研究会に参加して―創風社 千田 顕史、高橋 亮

 2002年5月9〜11日(東京)で開催された上記の2つの学会(同時開催)はこの20年間、いろいろ模索されてきた脳性麻痺医療に対して、基本的な方向を明確に示したようです。
 今までは脳性麻痺をリハビリ(訓練)で治療するという考えが中心だったので、脳性麻痺研究会はリハビリ学会の一部として開催されてきました。しかし2002年の2つの研究会は次のような内容でした。

1 リハビリ学会の会長の三上帝京大教授は「今までのリハビリは訓練中心に行われてきた。医師としての治療に欠けていた」とあいさつし、リハビリを訓練から医療へという方向を示した。

2 脳性麻痺研究会はこの3年間、厚生省が研究費を出して約5つの研究班が脳性麻痺の訓練と手術の効果を評価する研究を行ってきた成果を発表した。その1つは信濃医療福祉センターの朝貝先生の班で、「早期発見・早期訓練で脳性麻痺を克服するというボイタ法は効果がなかった」と3年間の研究成果が発表された。会場からは当然ボイタ法を中心にやってきた人から「私たちのやってきたことは何だったのか」という質問が出ていた。
 同じ厚生省の研究班松尾隆先生のグループからは「選択的に痙縮をとる整形外科手術」の4人の報告があり、特に側彎手術に関しては、革命的といえるほどの前進との報告があった。痙縮をどう捉えるのか、神経学と整形学のちがいはどこかなど松尾先生の研究をめぐって分野をこえた討論があった。

3 日本リハビリ学会としては、初めてといえる「脳神経外科的痙縮の治療」についてのパネルディスカッションがあり、約200名の参加者があり、討論が行われた。堀智勝(東京女子医大)先生が座長で、バックローフェンのポンプ使用、神経縮小術、脊髄後根手術などが初めて訓練中心のリハビリ医へ公開された。とねっこ保育園の秀一郎を最初の患者とする神経縮小術もすでに110例をこえていた。この3年間の進歩を感じることができた。11日の脳性麻痺研究会でもこのテーマは議論になった。

4 訓練で脳性麻痺をこう治療したという報告は2つの学会ともゼロであった。具体的に脳性麻痺の術前・術後の評価をして、ビデオ写真、理論を示したのは脳神経外科と整形外科では松尾班のメンバーだけだった。

5 脳性麻痺の2次障害として、20才〜50才の間にどのように身体機能が低下していくか2つの報告があった。1つは北海道、1つは宮城県。脳性麻痺者はどんどん機能が低下して、上半身の痙縮は50%以上の人におこり、呼吸機能をうばい、死に至ることが報告された。第30回脳性麻痺研究会を「第2次障害の研究」と決めて会は終わった。

以上が概略ですが、整理しますと

A 脳性麻痺は早期発見、早期訓練で治す。(ボイタ法やドーマン法)
B 脳性麻痺は訓練で治る部分と残る部分がある。(全部は治らない)
C 脳性麻痺の原因の中心の痙縮は訓練では治らない。痙縮を脳外科的、整形外科的医療でとって、リハビリは筋肉を育て、身体の動きをよくするため(堀智勝先生や、松尾隆先生)

A,B,Cの考え方が今でも社会全体にあり、AとBが現場では圧倒的多数です(90%以上か)。医学会はAを否定し、Bを中心にして、Cに移りつつある感じです。
 医療を進歩させるには研究者だけではできません。我々は20年間の経験から、松尾先生、堀先生に協力してもらいながら、Cの立場を深め、広めることをしながら、子どもたちを育ててきました。Bの立場はAに近い人と、Cに近い人に分解していますが、結局Bの人たちは、Aの立場を合理化し、Cの前進を妨げる役割も半分担っているように見えます。二次障害を考えますと子どもの生命と家族の生命(家族は介護の負担で60才をこえられない人も多い)、人生をより豊かに生きることを考えてCの内容がより前進(特にリハビリ面で)できるよう、これからもやっていく必要があるようです。日本中がAとBからなぜ脱することができないかというのは、「脳性麻痺を訓練で治す」という考えのもとに装具や訓練に関する保険医療費が計上されていて、その評価にかかわる問題をふくんでいるからとも考えられます。保険医療費は障害の軽減のより科学的進歩の方向に使われるべきではないでしょうか。アメリカ、フランスより、約10年おくれで新しい時代になったようです。
 医学の内容は創風社よりリンクされている松尾先生、堀先生、平先生のホームページ、堀先生のホームページにリンクされているアメリカのホームページ、創風社の松尾先生の本、『母の決断』などに詳しくでています。
 脳性麻痺の痙縮の問題は、脳卒中や頭部外傷からくる身体の硬化の問題と同じものです。この医療の前進はさまざまな障害に応用されていきます。