森林都市構想と情報ネットワーク
〜生活者の視点で循環型社会に向けて〜
講師:澤登信子(株)ライフ・カルチャー・センター代表取締役
企業と消費者の着地点の違いを埋める
この着地点の違いをなんとか埋めていこうと、最近はソーシャル・マーケティング・プロデューサと名乗り、生活者を含めた社会全体から見た企業のあり方を提案していくことに取り組んでいる。今日は、こうした観点から今、一番燃えて取り組んでいる森林都市構想について紹介したい。
男性受難の時代
21世紀は森林化社会へと進んでいくだろう。これを具現化していくには、その社会の枠内に情報ネットワークがあることが前提となる。森林化社会と情報ネットワークの関係について、いくつかの調査データをもとに考えてみよう。
何年か前、暮らしの断面から今日の家庭像をみたアンケート調査を行ったが、子育て後の家庭像はかなりバラけていくという結果が出ている。子育て中は夫も妻もそれぞれの役割を果たし、子供を中心に家族はそれなりにまとまっていたが、子育て後の自由な時間を手にしたとき、それぞれが自分の興味に従って行動するようになり、その結果、家庭の機能は低下し、バラバラになってしまう家族が増えている。
その根底には男女の家庭や仕事に対する意識の違いがある。ある調査では、女性にとってワクワクする時間が趣味やスポーツ、情報収集、仕事など自分のために何かをする時間であり、男性にとってワクワクする時間は一家だんらんとなり、男女がまさに裏表の結果となっている。
こうした調査から見えてくることは、女性は一定の距離感を持って、男性より冷静に家族をみているということである。高齢化の進展により、子育て後の女性の割合が多くなり、団塊の世代を先頭に、自分の世界をキッチリと持っている女性たちがリードしていく社会がやってくるだろう。
実際に各地で、子育て、環境、福祉など女性たちが自分で何かを起こす動きが広がってきている。女性たちの多くはまだ、従来の家庭型・ピラミッド型の意識を持っているが、友だちを見つけて、一緒に仕事をしようという自立型が多くなっている。
その一例を挙げると、子育てタウン誌をつくる女性たちのネットワークが現在、全国に広がっている。今すぐに役立つ本当に欲しい情報がないという不満から始まったもので、企業の情報をそのままうのみにすることなく、自分で体験し、その結果を自信を持って紹介している。
私自身もこのような口コミ情報をネットワーク化によって、全国的に繋げる試みを数年前に、アンテナネットとして福岡、広島、横浜で立ちあげ、オンライン上で情報のやり取りを行う仕事を始めたが、その中で「コミュニティを見直そう」ということで、リタイヤした男性と主婦などが一緒になって交換塾を始めた。
女性のパワーに圧倒されて、男性が一人も出ていかなくなるという現象がでてきて、男性の参加を促すため、それなりの工夫が必要になっているが、テーマを「働く」ということに統一して、自分なりの働き方を模索している。
こうした活動を通して、これまでは男性が女性の社会参加をふさいでいたが、コミュニティに関しては女性が男性の道を塞いでいることが分かってきた。男性と女性の違いを明らかにしてどう融合していくか。これは今後の新たなコミュニティをつくる上で重要な問題になるだろう。
社会参加とネットワーク化
家庭もコミュニティも水平の関係になればなるほど、遠心力ばかりが働き、核がなくなってしまった。かつてはモノを作り出す労働の場が求心力となっていたのが、それがなくなり、家庭もコミュニティも消費の場と化したことによって、空間と時間を共にしながら気持ちを繋ぐものがなくなってしまったのではないだろうか。
高齢社会のキーワードは「健康と孤独からの脱却」だと思う。他人と一緒に社会に参加し、役に立っていると評価されることを人々は求めるようになるだろう。人と人が見えるライフエリアで自分の生命を確認し仲間を確認し合う場が必要とされているのだ。そしてこうしたコミュニティはネットワーク化へと向かっていくだろう。
さらに、高齢社会の住まいを考える視点から見ても、これまでのような都会と農山村の分断された関係は変わっていくだろう。生活圏の利便性と自然環境との共存をどうはかり、ライフサイクルに応じた住まう場所の選択肢をどう多様化していくのか。それほどの困難を伴わずに住む場所を都会や郊外、田舎と変えられるようなあり方が考えられてもいいのではないかと思う。また、個の確立が十分にされていない中で、相互扶助と共有性をどこまでバランスよく入れていけるか、あるいは生活をサポートするシステムをコミュニティの中にどう盛り込んでいくかなど、高齢社会の住まいに関する問題点は山積している。
都会の知恵を山村の活性化に役立てる
これまで述べてきた社会への貢献、自立型の暮らし方、従来型の福祉とは異なる能動的な生き方へのサポート、スパイラルなコミュニケーション、消費から生産の関係へといった高齢社会の新しいコミュニティのあり方として、森林化構想を提案し、それに関連するいくつかのプロジェクトを立ち上げている。 その一つが、循環型社会の実現を目指したグリーン・ベンチャー・プロジェクトだ。これは新しい社会が新しい人の流れのなかでつくられていくという考えをベースにして、都市と山村、男と女という、これまでの閉ざされ、分断された関係ではなく、都会から山村へいく流れを促していくことを狙っている。現に、いま男性たちの間でも農業志向が高まっている。最初に自分流を確立した知識人、技術者が動き始めるのではないか。こういう人たちが組織の中で培った経験や能力が農山村や地方都市を活性化する可能性がある。
こうした人たちが享受するのは、今までのような農村文化ではなく、新しい先端技術を導入し、ベンチャー精神で地場産業を立ちあげ、地域に貢献し、自然環境の豊かなところで生活を楽しめる文化である。これからは都会の中より山村の中のフィールドの方が新しい技術、研究テーマがあるのではないかと思う。
例えば、木の資源でいうと、バイオ技術を活用したハイブリット炭がある。モミガラ、間伐材、廃材などを材料にして、建材をつくったり、水の浄化や電磁波防止に役立てたり、土壌改良剤や防臭剤として利用する。あるいは森林バイオマス資源である間伐材を利用してコージェネを行い、それによって発生した熱を農業に利用するなど、資源の見直しを行う。使われていない資源はまだまだ山村に豊富にあり、新しい地場産業が起きてくる可能性も高い。
こうした「都市文化を山村に」という思いは、小さい波を打ちながら山村と都会の人たちが交流する中で、それぞれを融合していけば質の高い暮らしができるのではないか、と考えて始めたのが、「水の道・風の宿プロジェクト」である。これは、無垢の木でつくったロフト付きの6畳の小屋を飯能の木工所でつくってもらい、1戸、180万円〜300万円で売り出し、特に家の中に居場所のないお父さんたちが地域の人たちと交流しながら、趣味を楽しむための空間として使ってもらうことを狙っている。6畳にした理由は建築許可がいらないサイズだからだ。
散らかしっ放しでいい自分空間で自由を謳歌し、都会に帰ったら家族と共に過ごすという風に、夫婦がそれぞれにやりたいことを認め合うよい関係が築けるのではないかと思っている。実際に小さくても自分の城という形ができると具体的なイメージが次々と沸いてきて、おもしろい経験をしている。こういう暮らし方ができるのも情報通信が発達したからこそであり、シリコンバレーの若者たちも、最近は組織に入るより自分の得意な道で環境のよい場所で仕事をしたいという人が増えている。
先端技術を何のために誰のために使っていくか、この課題をこなすところに新しいエネルギーが生まれ、幅広いジャンルの人たちがつながっていく。SOHOのイメージも今いわれているような狭いものではなく、創造的な仕事をするもっと幅広いイメージが出てくるのではないか。異文化の交流を情報システムが助けてくれるはずだ。
このほかに、MORIMORIネットワークという山村と都会を結ぶプロジェクトも実施しており、森に行って植樹したり、下枝を切ったりといった活動もしている。
森林都市構想は一朝一夕には実現しない。1年、2年先のことも分からないのに、そんな先のことはどうなるか分からないというのではなく、個人の意思によって社会はつくられていくということを肝に命じて、こうした機会を開発していくことこそが必要だと確信している。
(報告:大沢幸子)