NY通信
ヒューマンリサイクル
ニューヨークの街を歩いているとゴミ箱の中をのぞき込んでいる人が目につく。
失礼ながら、身なり風体はあまりよろしくない。何をしているのかこちらもつき
あってしばらく様子をうかがう。どうやらゴミ箱からアルミだかスチールだかの
缶を探しだし、これをビニール袋に詰め込んでいるらしい。脇の別のビニール袋
にはすでに相当な缶が詰められている。
アメリカでは州によって違うが、ニューヨークの場合、ビニールやコーラなどの
缶入りのものを買えば、その場で1個当たり5セントが上乗せされる。つまりビ
ールを12本買えば自動的に60セント余計に払わなければならない。空き缶を
持っていけばその5セントを返してもらえるのだが、大体の人はアパートに備え
付けのリサイクル用の箱に放り込むか、道端で飲んだ後はそのあたりのゴミ箱に
投げ込んでしまう。そういえば、ニューヨークの通りにはやたらとゴミ箱が多い。
街角のゴミ箱に空き缶を捨てる人も、これをある種の人に選別されて集められ、
しかるべく処理されることを前提としている節もある。捨てる側と拾う側の間で
暗黙の了解ができているといってよいかもしれない。リサイクルのルートが自然
に、しかも経済的理論を背景にしてできあがっているようだ。
ところで、冒頭に登場した空き缶集めのおじさんはどの程度の収入になるのだろ
うか。1日にどのくらい集まるのか聞いてみる勇気はないが、夕方などに見かけ
るとスーパーにあるカート(念のため、アメリカのスーパーのカートのサイズは
少なくとも日本の3倍はある)に満杯、それに両肩にでかいビニール袋(どうい
うわけか、まず透明である)にもほぼ満杯。これから察すると軽く200ー30
0本は集めたようだ。ということは、これを空き缶リサイクルを受け付けている
スーパーなどに持ち込めば10ドルないし15ドルが手に入るという計算になる。
たかが10ドル、15ドルではあるが、日本に比べ食料品がやたら安いアメリカ
でその価値は大きい。スーパーで食料品を買えば一番安いのだが、外食でもふつ
うの日本人ではとても食べきれないビックマックセット(ビックマック+日本で
はラージと呼ばれるソーダ+フライドポテト)が6ドル台である。空き缶200
ー300本でお腹がいっぱいになってまだお釣りがくる勘定だ。もちろんこうい
う人は何らかの福祉制度の恩恵にあずかっているだろうから、空き缶集めはアル
バイトに違いない。
筆者が横浜に住んでいたころももちろんリサイクルの必要性は十分認識されてい
たし、ふつうのゴミとは別の場所に空き缶や空きびんを捨てるボックスも設けら
れてはいた。ただし、その経済的効果のほどを知る機会はなかった。市役所にで
も聞けば教えてくれるのだろうが、そこまでする人はまずいない。そこから空き
缶を集めて小遣いにしようというような人はもっといない。
ニューヨークの光景を見て愉快なのは自分が捨てた空き缶がそのおじさんにとっ
て5セントになっていくのだという流れが目に見えることだ。ごみ箱を掃除する
側にしても、すでに一定のリサイクルの作業が終わっているわけだから、便利な
はずだ。見ていてあまり上品とはいえないにしろ、ゴミ箱からの空き缶集めは、
十分に人間臭いヒューマンなリサイクルの姿を作り上げているような気がする。
(了)
Tsukasa Fukuma
次回をお楽しみに