HYUVÄÄ YOULUA

(ヒュバー ヨウルア)

(MERRY CHRISTMAS)




フィンランドに暮らし始めて3回目の冬がやってきました。
10月の初旬にすでに雪が降って、今年は去年よりもっと寒くなるのかしらと、これから先の長い冬の暮らしのことを考えて、ちょっぴり憂鬱になりました。
というのも、去年の12月、1月はとても寒くて、マイナス20度前後は当たり前。
一番寒い時はマイナス36度を記録しました。
それが、それが、また暖かさが戻ってきて、11月、12月はまったく雪が無い状態が続いていました。
「雪が無いクリスマスなんてクリスマスじゃないわ!」と、フィンランド人の嘆きを何回聞かされたことか。
車の運転をする私にとっては、雪が無いほうがとても有り難いのですが、私も雪景色が恋しくなりました。
冬の間は日照時間がとても短くなるフィンランド。
10時ごろに明るくなり始め、午後の
3時には暗くなります。
太陽もたまにしか顔を出しません。
出したとしても、地平線から指4本分ぐらいの位置にしか上がりません。
街はどんよりとした暗さに覆われます。
それが、雪がふると、雪の白さで街は明るく変わります。
雪が一緒に光も連れてきてくれるみたいです。

 

 1222日の午前中、私は友達の運転する車でHELSINKI(ヘルシンキ)の長距離バスステーションに向かっていました。
昨日から雪が降り続き、車はまるでぬかるんだ泥の中を進んでいるみたいです。
雪にタイヤが捕らわれて、立ち往生する車もあちこちで見かけます。
信号が青に変わっているというのに、一向に前に進みません。
「普通だったら、もうとっくに駅に着いているはずなのに、今日はこんな最悪な天気でしょう。ごめんね、あなたの乗ろうとしていたバスに間に合わないわ」
TUULI(トゥーリ)が助手席に座っている私の肩をさすりながら言いました。
「大丈夫、これに乗り遅れても、次のバスが1時間後にあるから。でも、これで、皆が望んでいた通りに、クリスマスには充分すぎるくらいの雪があるわね。」と、私は彼女の大きな瞳を見て言いました。
 
 彼女の明るい瞳を見ていると、バスに乗り遅れることくらい、なんともないことに思えてきます。
彼女はHELSINKI(ヘルシンキ)の郊外に農業を営むご主人、そして子供二人と生活しています。
彼女は幼稚園の先生。
小柄で、長い栗色の美しい髪と、大きな瞳を持った、可愛い人。
私は学校の休みの度に決まって、TUULI(トゥーリ)の家を訪ねます。
彼女の息子MIRO(ミロ)が私が滞在している間、部屋を貸してくれます。
TUULI(トゥーリ)は料理をしたら、とっても独創的な美味しい料理を作るのに、
いつも料理をするのは好きじゃないみたい。
私はちゃんとした物を朝、昼、晩と三度きちんと食べたいので、TULLI(トゥーリ)の家に居るときは、私がご飯を作るほうが多くなります。
それと、食器洗い。

ご主人のPETE(ペテ)と子供たちは、お世辞に、私が来るとキッチンはいつも綺麗に片付いているし、日本料理が食べられるし、いつまでも居てほしいと言ってくれます。
今回も学校がクリスマス休みに入った18日からTUULI(トゥーリ)家族を訪ねました。
この時期、HELSINKI(ヘルシンキ)の街はクリスマスの買い物をする人で賑わっていました。
私もクリスマスマーケットに出かけました。
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階建ての大きな木造の建物の前に、小さな建て看板が出ていました。
“クリスマスバザール開催中”と書いてあります。
五、六段の階段を上がり、重い扉を開けると、中は沢山の人々で賑わっています。
一階の大きなフロアーには、畳3畳分ぐらいのスペースのお店が40店舗くらい出ています。
蝋燭屋さん、ニット屋さん、ガラスのアクセサリー、木工製品、ピクルス、マスタード、ハーブティー等など、様々な手作りのお店がありました。
 私はそこで、友達へのクリスマスプレゼントと、自分用のニットの帽子とマフラーを買いました。
東京では帽子など被ったことが無かったのですが、ここでは必需品です。
それと、思わぬくらい、見事なデザインの帽子が見つかります。
フエルトで作られた帽子は本当に豊富。
色もデザインも独創的な物が見つかります。
猫の耳のような物が頭の端に付いている帽子を被ってみたいのだけど、ちょっと私には勇気がありません。
 一軒、一軒、ゆっくり見て廻っていたら、時間があっというまに過ぎて行きました。
隣りのカフェでGLÖGI(グロゥギィ)とYOULUTORTE(ヨウルトルテ)でしばしの休憩。
GLÖGI(グロゥギィ)は林檎、ブラックベリージュース等の中にシナモン、カルダモンなどのスパイスが入った温かい飲み物です。好みで、干しレーズンとアーモンドのスライスを入れて飲みます。
YOULUTORTE(ヨウルトルテ)は星型のパイです。真ん中にプルーンジャムが乗っています。
これを食べると、もうすぐクリスマスがやってくる!と言う気持ちになります。

 
 TUULI(トゥーリ)とバスステーションで別れた後、私はPORVOO(ポルボー)行きのバスに乗り込みました。
HELSINKI(ヘルシンキ)からは一時間くらい、古い街並みの残る、小さな街です。
 3年ぶりに会う友達、ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)とMATTI(マッティ)に、この街で待ち合わせをしていました。
クリスマスに彼女のお母さんの家に招待してくれたのです。
でも、その前にPORVOO(ポルボー)を一緒に観光しようと言う話になりました。
 約束の時間より1時間遅れて、私たちは待ち合わせの場所で会いました。
ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)は赤いニットの帽子を被っていました。彼女の透き通るような白い肌と、柔らかな金髪の髪にとても似合っています。
その後ろから、ひょろっと背の長いMATTI(マッティ)が笑いながら現れました。彼は飄々としていて、私はムーミン谷のスナフキンをいつも思い出します。
そして、ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)のお母さん。今回初めてお会いしました。
私がまだ流暢に話せないフィンランド語で挨拶をすると、英語で答えが返ってきました。
とても綺麗な英語を話されます。長い間銀行にお勤めしていたそうで、英語は仕事に必要だったとの事。
 降りしきる雪の中、旧市街に集まっている小さなお店を見て廻り、アンティークなカフェでお茶を楽しみました。
 今日の夜の献立の鮭を途中で買って帰るので、私たちは早めにPORVOO(ポルボー)の街を後にして、KOTKA(コトカ)に向けて出発しました。
 KOTKA(コトカ)はフィンランドの南に位置する港町です。
ANNA−KAARINAのお母さんの家は町の郊外の住宅地にありました。
平屋のテラスハウスで、二つのベットルーム、居間、キッチン、書斎、そして、サウナとシャワー、洗濯室、こじんまりとした静かな家です。
 途中の魚屋さんで買った大きな燻製の鮭と茹でたじゃがいもにアボガドとクリームのソース、そしてサラダを夕食に頂きました。
フィンランドの食事は素朴だけれど、どれも美味しいものばかりです。
食事の後は皆で居間に座って、話をしました。
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年ぶりに会ったのですもの、話は尽きません。
私用に書斎に作ってもらったベットに入ったのは、夜中を過ぎていました。
 翌朝、キッチンの物音で目が覚めました。
時計を見ると、もうすでに11時過ぎです。お母さんが朝食の準備をしていました。
「ああ、こんなに遅くまで寝ちゃって・・・」と言いながら起きていくと、「休みだもの、寝たいだけ寝ていていいのよ」とお母さんは言いました。
ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)とMATTI(マッティ)も、まだ起きてきません。
 日本人だからなのか、それとも、私の性格なのか、人の家に泊めてもらって、朝寝坊をするなんて恥ずかしいと私は思っていたのです。
 お母さんを手伝っている間に、二人も起きてきました。
ポリッジに牛乳、ライ麦パン、パンに載せて食べるチーズ、ハム、きゅうりとトマトのスライス、ヨーグルト、ゆで卵。こんなに一杯食べられるかなと思っていたのですが、お腹がすいていたみたいで、みんな食べてしまいました。もう、食べ終わった時は1時ちょっと前でした。
 
 午後は、ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)とMATTI(マッティ)と共に、クリスマスの買出しに行きました。
お店は24日の午後から26日までお休みになってしまうので、その間の買い物をしなければなりません。
 スーパーマーケットの駐車場は沢山の車で、停める所がなかなか見つかりません。
何回もくるくる駐車場の中を廻って、やっと駐車できました。
店の中も、大きな買い物カートを押した人で一杯です。
みんな手に買い物リストを持って、次々と必要なものをカートの中に入れていきます。
私たちは、カートを缶詰の棚の前に置いて、3人別々に必要なものを探しに行き、カートに入れに戻ることにしました。そうしたほうが、人混みの中、カートを押して買い物をしているより、効率的だと思ったのです。
1時間も買い物に費やしました。車のトランクの中、そして後ろの私の座席の横まで、
食料で埋め尽くされました。
 これで、準備万端。お腹もすいたし、家に帰ろうとしたとたん、ANNNA−KAARINA(アンナ カーリナ)が重大なことに気がつきました。
「肝心のKUUSIPUU(クーシプー)を買わなくっちゃ!!」
クリスマスツリーのことをすっかり忘れていたのでした。
でも、もうツリーを乗せるスペースが無いので、一度家に帰ることにしました。
 夕食後、ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)とMATTI(マッティ)はクリスマスツリーを買いに行きました。
私は家でお留守番。一緒に行きたかったのですが、私が車の後ろの席に座ってしまうと、ツリーを乗せられなくなってしまうので。
 買ってきたツリーは3メートル近くはあるかな?部屋の天井に木の天辺が付きそうでしたから。
一番下の幹の部分を平行に鋸で切って、クリスマスツリーホルダーに立てます。クリスマスツリーホルダーとは、直径30センチ位の円盤型の鉄板の真ん中に、同じ鉄製の筒が直角に付いています。その筒の中に木の幹を入れて支えます。
 色々迷いましたが、ツリーの場所は居間の大きなソファーの隣りに落ち着きました。
ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)とお母さんが戸棚から、クリスマスの飾りを出してきました。
赤い帽子を被ったTONTU(トントゥ)人形達、窓に下げるステンドグラス製の天使、金の糸で編まれた大きな星などなど。家の中がそれらで飾られていきます。
クリスマスの雰囲気が部屋の中にもやってきました。
そして、ツリーからは青々した清々しい香りがしてきます。
 クリスマスツリーの飾りつけは明日の24日にやるそうです。
明日が楽しみになってきました。

 
 24日のクリスマスイブは朝食後、みんなでクリスマスツリーの飾り付けをしました。飾りはみんな金色で統一されていました。ハート型の飾りと、丸いボール型の飾りをバランスを見ながら付けていきます。木の一番天辺に銀色の大きな星を付けました。
多くの家は豆電球を蝋燭の変わりにツリーに付けますが、ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)の家は本当の蝋燭を12本蝋燭ホルダーに付けて飾りました。
 4時から教会のクリスマスのミサに行くので、その前にサウナに入ることにしました。
クリスマスにはサウナに入って、身を清める習慣があるのです。
 私はANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)と一緒にサウナに入りました。
VIHITA(ビヒタ)でお互いの体を叩きあいました。
VIHITA(ビヒタ)は白樺の枝を何本か束ねた物で、乾燥されています。使う前にお水に漬けて柔らかくします。サウナに入りながら、この枝で体を叩きます。そうすると、白樺の香りがサウナ中に広がるのと同時に、皮膚からも白樺のエキスが吸収されて、体をリフレッシュさせ、風邪などに罹りにくくなる作用もあります。
 すっかり身も清められ、私達は教会のミサに出かけました。
 教会の後はお墓参りに行きました。
ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)のお父さんが眠るお墓に蝋燭を灯して祈ります。
どの家庭もこの日にお墓参りに来るようで、墓地は蝋燭の灯りで一杯でした。
 帰って家のドアを開けると、お母さんが朝から用意していたKINKU(キンク)の美味しそうな匂いが漂ってきました。
クリスマスツリーの蝋燭に火を灯して、皆でディナーの準備をします。
キッチンのテーブルの上に食器を並べ、蝋燭に火が灯されて食事が始まりました。
フィンランドではクリスマスにKINKU(ハム)を食べます。
豚の固まり肉に塩、胡椒で味を付けて、オーブンで何時間も焼きます。
焼きあがったら、その表面にマスタードを塗り、それからシナモン、砂糖をまぶします。
私たちは3キロの固まり肉を買ってきました。
大きなお皿の上に、そのKINKU(キンク)を盛って、各自が好きな分だけナイフで切って自分のお皿に取り分けます。
 でも、焦ってはいけません。メインの前に美味しい前菜があるのです。
蒸したジャガイモにイクラとみじん切りの玉葱のクリームソース。
イクラとクリームという組み合わせに最初戸惑いましたが、これがとっても美味しいのです。日本ではイクラはご飯と一緒にたべるのよと言うと、驚かれました。その反応ももっともだと思います。
 スモークサーモン。
 SILLI(シッリ)(鰊)の酢漬け。これもさっぱりしていて美味しい!私はレシピを聞いて、家に帰ってから早速作りました。今、冷蔵庫で出来上がりを待っています。
 ROSOLLI(ロゾーリ)サラダ。茹でたビーツ、人参、胡瓜、ピクルス、玉葱をそれぞれサイコロ型に切って混ぜたサラダ。
 ジャガイモと人参のポタージュスープ。
そして、メインに移ります。でも、前菜だけでもすでにお腹一杯。
前に紹介した、KINKU(キンク)。これにはマスタードを付けて食べます。
PERUNALAATIKKO(ペルーナ ラーティッコ)マッシュポテトのオーブン焼き。
LANTTULAATIKKO(ラントュ ラーティッコ)日本の蕪に形は似ているのですが、もっと大きくて、黄色い野菜。それをマッシュしてオーブンで焼きます。
 そして、デザート。MARIJARAHKA(マリヤラハカ)。ホイップクリームとサワークリームを混ぜて、そこに砂糖とベリーを加えます。この日のベリーはイチゴでした。このデザートはクリスマスの日に限らず、日常的にフィンランドではよく食べます。簡単に作れて美味しいので、私も良く作ります。夏の間に森で摘んだブルーベリーやリンゴンベリーを冷凍しておいて、それを解凍してボールに入れ、お砂糖をまぶし、マッシャーで全体の7割くらいまで潰します。3割ほどつぶつぶのベリーが残っていた方が、食感が私好みなのです。そして、ホイップクリームとサワークリームの中に混ぜて出来上がりです。
美味しいディナーを堪能した後は、JOULUPPUKI(ヨウルプッキ)の登場です。
JOULUPPUKI(ヨウルプッキ)は日本でいうサンタクロース。
みんなクリスマスツリーの周りに集まりました。
お母さんが隣りの部屋から大きな麻の袋を引きずって来ました。
JOULUPPUKI(ヨウルプッキ)から届けられたプレゼントが中に入っているのです。
袋からプレゼントを全部出してツリーの下に置きましたが、沢山あって、たちまち大きな山が出来ました。
お母さんが代表して、みんなにプレゼントを配ります。自分の名前を呼ばれる度にわくわくします。包みを開く度に、喜びの歓声が上がります。親戚からもプレゼントが贈られるので、沢山のプレゼントになるのですね。私はマリメッコのショルダーバックと縞々ソックス、オリーブ石鹸とボディローション、蜜蝋のキャンドル、そして、大きな箱入りチョコレートを頂きました。

フィンランドのクリスマスは外は氷点下で震えるくらい寒いけれど、人々の心の中はとても温かです。
 25日のクリスマスの日の朝食は特別な物を食べます。
RIISIPUURO(リーシプッロ)お米のポリッジ。牛乳で焚いたおかゆみたいなものです。それにお砂糖、シナモンをまぶして食べます。甘いご飯に牛乳だなんて、絶対に美味しくないと思っていましたが、なかなかいけます。このポリッジの中には一粒だけアーモンドが入っています。アーモンドが自分のポリッジのお皿の中に入っていたら、その人はラッキーな人。自分の望みが実現する良い前兆です。そのラッキーなアーモンドはANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)のところに巡ってきました。ANNA−KAARINA(アンナ カーリナ)おめでとう!
 明日26日はMATTI(マッティ)のご両親が住むPORI(ポリ)に出発します。

荷造りを終えた私のバックは沢山のクリスマスプレゼントではちきれそうです。そして、温かな思いでも一杯詰まっています。





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