デジタル画像のトータル カラー マネージメントシステム

銀塩+デジタルの究極の色再現システム
                                 脇 リギオ(多摩美術大学*)

                               *発表当時 / 現在多摩美術大学名誉教授


パソコン用グレイバランスシステムの提案
(1996年6月16日開催の日本映像学会第22回大会で提案。その会報用下原稿より)

一昨年、映像学通巻53号に”現代写真術を検証する”・・・を書いたあと、パソ コン画像の入出力をはじめてみると、フィルムスキャナでのネガの取り込みからプリ ントアウト、いや、そもそもモニタ調整からして、”色のトラブル”の続出を体験。 そこで、前回同様(注1)、ここは遠回りしても、まず、きちっと色が出せるシステ ムづくりをと作品集づくりを後回しに解決策を練った。案ずるより生むがやすし、今 回の映像学会間際にそのパソコン用カラーマネージメントシステムの第一版(注2) ができあがり、実際にお使いいただけるかたちでご報告し提案できることを大変嬉し く思う。


1. デジタル以前の問題点

高精度デジタルカメラはきわめて高価、しかもラチチュードがリバーサルの半分とい うのが現状であるとすれば、現状では撮影は銀塩に限る。しかし、そこから実際に高 画質デジタル画像を望むとなると、銀塩プリント同様あるいはそれ以上に数々の困難 に直面しなければならない。
1)撮影時の問題点(問題点1) ほどほどに写っていればよいというのではなく、 厳密な画像を得るには、適正なる露出が必要だが、TTL自動露出では明るいものは 暗く、暗いものが明るく写ってしまう。画像の明るさ(濃さ)のトラブルのはじまり である。
(問題点2)もう一つは、銀塩ならプリントするとき、デジタルではスキャンすると きの調整基準の問題である。撮影画面で自動調整すればカラーフェリア、デンシテイ フェリアが避けられず、しかしフィルム一本分をスキャンして調整すれば少しは改善 できる模様だが確実性がない。人間にやらせれば感覚差、個人差が避け得ない。 要するに、撮影者が意図する効果を自分自身で決定するには、ゼロ点調節ともいうべ き明確なプリント基準が必要であり、それがない従来の自動調整や感覚調整はトラブ ルの原因をつくる。
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以上の1)、2)問題は、すでに拡散板(RWDF)(注3)をカメラの撮影レンズ に装着し、カメラを光源に向けてそのままTTLオートでシャッターを切って得た照 明光記録部をプリント基準、スキャン基準とする方法ですでに解決ずみである。フィ ルムスキャナでおこなってみれば、その正当性が即座に証明できることである。
2)撮影フィルムはどれか デジタル時代はネガかリバーサルかという問題は、はっ きりネガである。ラチチュードが広く失敗がほとんどなく、ミニラボで30分仕上げ ができ、画像調整の幅も広い。通常の方法ではサービスプリント同様に変な色の取り 込みになってしますが、グレイバランス取り込みなら、これがネガかと驚くほどの美 しい画像取り込みができる。

3)銀塩プリントの問題点(問題点3) 先に指摘したように、従来の自動プリント はカラーフェリアやデンシテイフェリアが、手焼きでは感覚差、個人差が生じ、焼き 増しの度に色が違ってくるが、このシステムでは照明光ネガを基準に、濃度を(一般 には反射濃度0.7に)指定してグレイバランスをとるので正しい撮影結果が得られる 。ただ、これまでは多くのミニラボのプリンターはデータを固定してプリントできな いのが障害となっていたが、APS対応の多くのプリンターが、従来ネガを含め、デ ータ固定が可能になっているというから、グレイバランスプリントがミニラボレベル で解決できる方向にある。
APSは、小型化軽量、操作簡単のほかにあまりメリットがないようにみえるが、グ レイバランスプリント、いいかえれば、”正しい操作をすれば正し撮影結果が(本来 は当前のことがやっと)可能になる点で画期的なのである。”従来システムの完成を 放置しての新システム開発は反対”と書いた私だが、従来カメラでも可能にした展開 はかねてから私の主張するところであり、それによって、色環境が大きく改善できる 可能性が出てきたことがAPS登場の最大のメリットではないかと思う。私も、それ なりに努力しなければならないと考えている。

2. パソコン画像処理での問題点

以上述べたように銀塩プリントではAPSの登場で急遽、色改善の方向性がでてきた がデジタル画像はまだまだ問題が山積している。

1)フィルムスキャナにおける問題点(問題点4) フィルムスキャナはプレスキャ ンで画面全体の色が自動的に灰色方向に調整されるため、背景色を変えるとものの色 と明るさが変わってくる。その関係は一般のサービスプリントの自動調整と大体同じである。だからユーザーは被写体色を想像しながら、ああでもないこうでもないと、スライダーを動かしながらモニタと格闘し続けることになる。
ある時、プールで撮影した少女の同じネガを6人の学生たちに調整させたところ6種 の色見本ができた。どれ一つとして正しいものはない。モノサシなしだから当然とは いえる。(問題点5)
そこで、照明光ネガでグレイバランスを試みたがスキャナがプレスキャン時に画像と して認知せず、グレイバランス取り込みができないという困った事態に直面した。し かし、これも解決できた。

2)画像のカラーバランス・明るさ・コントラスト調整(問題点6)
次は取り込み後である。取り込みが正常におこなえれば、モニタでの調整は不要の筈 だが、通常は先の例のように補正は不可欠となるので、誰でもできる、試行錯誤しな いですむ調整法が欲しい。

3)プリントアウトでの問題点(問題点7) プリントアウトでは、いかにすればオ リジナルあるいはモニタ像により近くできるかという問題は、照明とモニタの関係が きちっと調整されていない限り絶対に解決できないにもかかわらず、モニタ調整も照 明条件もいい加減では、愚かな堂々めぐりを繰り返すしかない。だから、このままい けば、地球規模でのインキと紙の膨大な無駄遣いと環境破壊が世界的に大問題になる ことは間違いなく、そのためのノウハウ開発はきわめつけの急務といわなければなら ない。

4)イメージスキャナによる取り込み(問題点8) そして、反射原稿、更に透過原 稿の取り込みでは、グレイスケールを使っも、合理的なノウハウがないとここでも限 りない試行錯誤の繰り返しが要求される。また、モニタ調整には皆がどうすればよい か思案する。

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以上がそれほどおおげさではなく、異論のない困ったデジタル画像処理の現状である と思う。箇々の機械の”おせっかいな自動化”による解決というのではなく、総合的 にひっくるめて解決可能なトータルなカラーマネージメントシステムが望まれる所以 である。

3. 究極のシステムの問題点の解決法

1)撮影(問題点1.2) 被写体だけを写せばよいという考え方がアマイことはす でに証明済みであり、銀塩もデジタルも、撮影時に撮影光源を記録し、かつ適正露出 を与える以外に確実な方法はないようだ。つまり、現状ではTTLカメラレンズに光 拡散板(RWDF)を装着して撮影光源を適正露光して照明光記録部をつくる。

2)銀塩プリント(問題点3) プリントでは、照明光記録部の濃度をグレイサンプ ルで指定(通常は反射濃度0.7の7番を添付)してグレイバランスプリントを発注 、あるいは自家プリントすれば、露出、フィルター効果を含め正しい撮影結果がプリ ントに得られる。
一般のミニラボプリンターはデータのホールド機構がないのが多いようだが、グレイ バランスのチャンネルをつくれば実施可能である。APS対応プリンターならホール ド機構の使用でグレイバランスプリントが全国のミニラボで実現できることになる筈 である。
更に、新型フィルムには、一部に基準光を露光済とした”フォーマットフィルム”の 登場により、また新型カメラには入射光測定部をもうけ、プリンターで自動読み取り ができるようにしさえすれば、無人プリンターでも撮影者が望むきちっとしたプリン トが無人プリンターで可能になるわけだが、以上は急展開で解決の可能性はある。

3)フィルムスキャナによる取り込み(問題点4) 通常は取り込めない照明光ネガ は、これを読みとらせるマスクの開発(注4)で解決できた。画像を読みとらせるマ スクを重ねてプレスキャンをおこなえば、スキャナが照明光ネガで瞬時にグレイバラ ンスをとるので、そのまま被写体画像を取り込めば、カラーフェリア、デンシテイフ ェリアのない、カラーバランスについてはほとんど調整不要の実に美しい画像取り込 みが可能になった。取り込み革命である。

4)画像のカラーバランス調整(問題点5、6) いわゆる画像の色かぶりは、画面 内に無彩色にするべき部分があればそれをもとに、すっきりできる。その方法は、無 色にすべき部分をコピーし、無彩色を中央においてRとGを多段階に変換した、等し い明度(L値)のカラーガイドの上にこれをペースとして等色させるか、同じデータ を見出して、フォトショップでのRG調整値を見出すという方法であり、厳密なグレ イバランス調整が手っ取り早くできる。

 5)プリントアウト(問題点7) 本システムでは反射型グレイスケール(反射濃 度15段階)とソフト(合計24種)を使用する。方法は、多様な明るさ、コントラ ストに変換したスケールのチャートをそのままプリントアウトし、結果をスケールと 照合することにより明るさとコントラスト調整値を、またカラーバランスはすでに説 明した無彩色を軸に各L値ごとにRとG(LabモードではMとY)を多段階に変換 したカラーガイドをプリントアウトしてグレイ部分を見出すという独自の方法(注5 )により解決している。ハーフトーンだけでなく、ハイライト、シャドウ調整も可能 であり、それほどうるさく言わなければ数回のテストプリントだけで大体のカラーバ ランス、明るさ、コントラスト等の基本調整値が見いだせる。

6)フラットスキャナでの取り込み(問題点8) ここでもグレイスケールとソフト を用い、取り込んだスケール像をスケール対応のチャートとモニタ上で比較参照しな がら調整値を見出す。
また、透過原稿の取り込みも同様に、透過型グレイスケール(銀塩フィルムによる透 過濃度15段階)とそれに対応したソフトのガイド(注6)を使用することにより、 明るさ、コントラスト、カラーバランス、トーンカーブなどの基本の取り込み条件が 容易、迅速、確実に得られる。また照明光ポジによりカラースライドのグレイバラン スを確実にとる方法も提案している。

7)モニタ調整(問題点9) 最後になったが、実はこれが最初のカナメであった。 これがうまくいかないと、モニタとプリントアウトの色が近似する筈がない。 本システムでは5000度K内外の色評価用蛍光灯を使用し、ここでも先のグレイス ケールとグレイスケールに対応したソフト(注5)を用いてモニタの明るさと色を調 整可能にしてプリントアウトと近似するカラーマッチングの方法を提案している。

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システムづくりを終えたあと、問題点の多くは銀塩カラープリントと同じ方法論で一 挙に解決可能という当初の予測は当たっていた。そして、幸運にも予想よりはるかに 充実したものができたと思う。
このカラーマネージメントシステムは、これからはじまるマルチメデイア時代の、騒 音公害ならぬ騒色公害の改善策、防止策として、また環境保全にも威力を発揮するこ とになると自負するのであるが、忌憚のないご批判ご意見ご教示をお寄せいただけれ ば幸いである。

(注1)=RWカラーバランスシステム(株)ケンコー発売。
(注2)=RWプロスキャン-7(マック・フォトショップ3.0対応)
(注3)=RW適正露出判定用デイフューザー
(注4)=RWプロスキャンAセット(ミノルタQS35対応)
(注5)= 同Bセット(注6)= 同Cセット
                       1996ー7ー10

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