色彩恒常作用
物体の大きさや形、それに色も不変であるという心理の働き

以上の順応作用や対比作用は、光と色に対する生理的な自動調節作用ということになるが、この恒常作用は心理的な補充作用ということになる。

眼の網膜に写る像の大きさは、カメラの場合と同様に遠くからでは小さく、近距離では大きく写る。しかし、だからといってある人物の大きさそのものが変わったとは感じられないのは、よく認知されたものについては常に不変であるという、大きさに対する心理作用が働くからである。

形態に対しても同様、高いビルを仰いで写真に写すと上つぼみに写るが、われわれはそのビルが上階にゆくほど細くなっているとは感じない。また、人物に近接して眺めるときも、つき出された手や足が大きくゆがんで見えるということがないのも、よく認知されたものに対してはこのように大きさと形態に対する恒常作用が働くからである。同じ距離から写真に写してみると、手前にあるものはより大きく写って、歪みも生じる。眼の場合も、実際には網膜上には同様に写っているはずだが、眼というより脳がそれを補充しているのである。

このような恒常作用は、物体の色についても働く。さきの図5ー4で示した場合のように、グレーカードからくる光はスカイライトと電灯光では、どちらかといえば反対色であり、あきらかに色味が異なる。しかし、これは比較したときにはじめてあきらかになるのであって、見慣れたものに対しては普段はそれを意識していない。それはちょうど、新調した服の色が光線の色によって変化することを知るのと同様、とくに色が重要で興味の中心になる場合に限られる。

要するに、われわれの生活空間のなかでもっとも主要な光は太陽光であり、その標準的な自然光で見たときの色をその物体固有の色として記憶し、そしてその固有の色は不変であるという心理が働くわけであり、カラーフィルムの発色は光の物理的要素に大きく支配されるが、人間の視覚はむしろ生理的、心理的な要素に支配される部分が大きいのである。いいかえれば、人間の眼はいったん色を記憶すると、光線状態の異なるところでもその色の区別ができる、という本能的な特性が備えられているということができよう。
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