明るさの見え方(明暗対比)
色は暗い背景では明るく、明るい背景では暗くなる

眼は不可思議なもので、あとでのべる色彩恒常作用とはうらはらに、物体の色はそれがおかれる背景の明るさや色によって著しく違ってみえる。ちょっと考えたところでは、物体の明るさは、物体の反射率が同じなら常に同じ明るさにみえるように思われるが、決してそうではないのである。

まず図5-5をみていただきたい。四つの図のそれぞれ中央にある小さな正方形にはすべて同じ明るさのグレーが配してある。しかし誰がみても同じグレーには感じられないはずである。つまり一番上にある白バックではもっとも暗くみえ、下にさがるほど明るくなり、一番下の黒バックでもっとも明るくみえ、それらが同じ明るさのグレーであるとはとても信じられないほどである。不信に思う人は紙に孔をあけて四つの背景を同じ明るさにしてみるとよい。背景の明るさが同じになれば、中央の正方形はみな同じ明るさにみえるはずである。

このような眼の特性は明暗対比と呼ばれるが、これは、周囲の明るさに対する眼の網膜の感度変化(順応作用)中央にも広がって作用するものと考えられる。つまり、暗い背景ではその部分の感度が上昇し、その感度上昇が中央に広がって及ぶために明るくみえ、また明るい背景では明るい背景の感度低下が中央に及ぶために明るい背景の暗い色はより暗くみえるというのである。

これは写真に写した場合も同様なのである。たとえば、反射光メーターで露出を測るときに使うグレーカードは反射率が約18%であるが、これを背景の明るさを変えて写してみると右の(1)、(2)、(3)、(4)に示ように、この場合も図5-5の場合とまったく同様にみえる。念のためグレーカード部の濃度を測ってみると濃度はまったく同じなのである。

つまり、視覚的な明るさを支配するのはカードの反射率や濃度にあるのではなく、カードをとりまく周囲の明るさにあるというわけである。 要約していえば、ものの明るさはそのものよりも暗い背景ではより明るくみえ、そのものよりも明るい背景ではより暗くみえるということである。したがって反射率が一定であっても、眼で感じられる明るさの度合いは一定ではないことによほど注意したい。

種々の物体のうち、もっとも明るいのが白であるが、その白さに対する感じ方も背景の明るさしだいで違ってくる。たとえば同じ白いYシャツでも、黒い礼服やダークスーツでは際だって白く感じられるのも同じ理屈である。

また、逆光や、明るい空、あるいは白い壁を広くとり入れた人物が暗くつぶれたようにみえ、舞台の暗い背景にスポットをあびた人物がより明るく浮かびあがってくるのも同様な効果であるが、モノクロプリントのしろの冴え、黒のしまりのみえ方についてもこのような対比作用と密接な関係がある。そのため、背景の選び方、隣接するものの明るさなど画面構成上での明度の取り扱い方が、いかに重要であるかということでもある。

したがって、ものの明るさを取り扱うとき、また写真の画面内の部分的な明るさを取り扱う場合は、反射率や濃度といった物理的な尺度だけでは取り扱えないことを意味する。というのは、このように濃度が等しくても違って見える場合があるのと同様に、濃度が違うにもかかわらず同じ明るさに見えることがあるからである。 ということは逆にいえば、作画にあたっては、周囲の色、隣接する色の明るさを調節してやれば、同じ明るさのものを明るく見せたり、暗く見せたりすることがかなり自由にできるようになるということである。

なお、このように背景によって明るさのみえ方が違ってくるということは、視覚的な判断がある場合にはまったくあてにはならないということを意味する。しかし、それは視覚的判定のすべてがあてにならないということではない。

というのは、同一の背景色のマスク内に比較する両者を併置して観察すると、マスク内では暗い色に隣接した一方の明るい色はより明るく、暗い色はより暗く両者の明暗のコントラストより強調されるために、両者のごくわずかな明暗差や色の差もきわめて明瞭にわかるようになるからである。
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