眼のレンズと絞りとフィルム
眼は精巧なカメラにたとえられるが、その構造はおおむね図5ー1のようにできている。眼のレンズは水晶体といわれているが、光は前面にある角膜によりまず大きく屈折され、房水をとおって水晶体に入る。この水晶体のレンズは、球面をもった均質な写真レンズとは違って、約2200個のたまねぎの皮のような薄膜からできているとされ、その弾力性のあるレンズは毛様体と呼ばれる筋肉の調節によって、図5ー2のようにピント調節される。

カメラの場合は、レンズ系全体を前後させてピントを合わせるわけだが、眼は自動的にレンズ(水晶体)を薄くしたり、ふくらましたりして、レンズの曲率をかえることによってピントを合わせ、しかもそのピント移動は無限遠の風景から鼻先へと、瞬時にできる機能をもっている。

眼に入る光の量は、その水晶体レンズの前にある虹彩が、大きくなったり小さくなったりして瞳孔の大きさを調節する。そして網膜上には、カメラの場合と同様に倒立像ができるわけだが、これは脳で修正される。

眼のフィルムである網膜は、多層フィルムのようにいくつかの細胞層から多層的に構成されているが、その網膜後部にある視細胞には、まっすぐで細長い形をした桿状体(柱状体)と、まるっこい形をした円錐体(錐状体)と呼ばれる2種類の視細胞がある。このうち、桿状体は主として明るさにのみ感じる、いわば色盲の視細胞で、これは網膜全体にだいたい一様に分布している。そして、円錐体は感光色素を含み色を識別できる視細胞だが、これが網膜の中心部(中心窩)に密集しており、中心から離れるほど分布が荒くなっているとされる。

このように、網膜はフィルムと違って視細胞の分布が一様でないために、網膜全体にはシャープなピントが合わない。最高にシャープに見えるのは、円錐体の密集している中心窩だけである。まっすぐ見たときに結ぶ像の位置である。そのため、ものをよく見るには多様な方向に視線(眼球)を動かすことになる。

ところで円錐体は、暗いところでは働かなくなる。つまり暗くなると、円錐体から明暗にのみ感じる桿状体にバトンタッチされるという。しかし、その中心窩には、桿状体はほとんどないので、暗くなると役に立たない。そのため、薄暗い場所でものを捜すときは、眼をはすにかまえて見る方がよく見えるように、中心部より周辺部の方が見えやすくなる。また、たそがれ時のように、光が昼間から夜間にきりかわる時期が一番見にくく、車の運転もやりにくいのは、中心窩の感じ方がにぶくなり網膜の中心部が見えにくくなるとともに、桿状体の順応が十分でなく、まだ桿状体がフルに働かないからだとされる。

網膜に入った光は、そこで電気信号に変えられて脳に送られるわけだが、その眼球と脳をつなぐコードの出口、つまり視神経の出口の部分では光をまったく感じない。一般に盲点と呼ばれる部分である(図5ー3参照)。だから、眼ではこの盲点に入ってまったく見えない部分が生じているわけであるが、普通はこれを両眼が互いにおぎなっているわけである。
次の項目