YMC三原色における問題点
さきほど、YMC三原色に要求される条件として、Yは-B、Mは-G、Cは-Rとして他光を吸収しないというのが理想のYMC三原色であると書いたが、これはあくまで理想であって、現実にはそのような理想の色材はない。カラー写真の発色色素、印刷インキもその例外ではない。さきにYMC三原色の説明に、CCフィルターをもちだしたのもそのへんの説明がやりやすく、また理解しやすいからでもある。

さて、どのように違うかを、CCフィルターを例にとって説明しよう。あるいは、もうすでに気づいている人も多いと思うが、さきに示したCCフィルターのグラフ(図3-6)を見るとわかるように、Yフィルターは必ずしもB光だけの吸収体ではない。MとCフィルターについても、MはG光、CはR光だけではなく、かなり他の色光をも吸収していることが一目瞭然である。この望ましくない呼吸作用が有害分光吸収と呼ばれるもので、とりわけMとCについてこの有害分光吸収が強いことがわかる。

例に50Y、50M、50Cのフィルターをとりあげよう。図3-7の上例は各フィルターのブロック平均透過率である。これを見ると50YのフィルターはB光を約65%吸収し35%を透過させているが、GR光をも若干呼吸している。斜線がその有害呼吸部分であるが、3色のなかではそれがもっとも少ない。このように全般的にみてY色素は3色素のなかで理想にもっとも近い性質をもっているとされる。

しかし50MはB光75%、G光37%、R光84%を透過させ、50CはB光84%、G光71%、R光37%を透過している。このように斜線部分をみてもわかるように、MとCの有害吸収はかなりのものである。

フィルターを2枚以上重ねたときの透過率の計算は、透過率のかけ合わせである。そこで各Y+M、Y+C、M+Cを組み合わせたときの透過率を各BGRについて計算してグラフにすると、上から2段目のように、左からY+M=RではR光が、またY+C=GではG光が、またM+C=BではB光の透過が大きく、たしかにBGRが合成されたことになる。しかし、詳しく分析すると、二つのフィルターの有害吸収分が加算されることになる。

もし、この有害な吸収(斜線部の)がなければどうなるかを示したのが下段である。つまり理想のフィルターということになるが、これと比較してみると、フィルターであるかぎり界面反射の光損失は避けられないから、各BGR光が100%になることはあり得ないとしても、それと比較すると有害吸収により全体に明度と彩度が低下しているとともに、たとえば合成された赤Rや緑GはB光吸収が若干強くなるため、いくらか黄味がかるといったように、色相にも影響が生じる。

手っ取り早くいえば、色がくすみ、色に歪みが生じるということである。これは、三原色で色を再現的に合成するカラー写真やカラー写真印刷では非常に重要な問題であり、このような原色ひずみを匡正しないと、あざやかでかつ正確な色の再現はできない。カラー写真の製版ではそのためのマスキングがおこなわれるが、現在のネガカラーフィルムがオレンジ色を呈しているのも、実はカラーフィルムのこのような有害分光吸収を匡正して、色再現性に優れかつあざやかなカラープリント(あるいはカラースライド)をつくるために、フィルムそのものにオレンジ色のマスクができるようになっているのである。詳しくはオレンジ色の秘密を参照していただきたい。
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