その実際的な色彩計量法としての提案 脇 リギオ(多摩美術大学*)
(1975年7月写真工業より)
一昨年の6月に、このCCフィルターを利用したカラーシステムの原理と方法の概略を、<RWカラーシステム=YMC法の提案>というパンフレットにまとめて関係方面に細々と送り始めた。といっても個人のやることだからその範囲は知れている。もちろんいまだもって知らない人のほうが多い。それとは別に、この種の色ものは活字や図だけではどうにもならない。具体的に手にしてみる現物なしには、理論というものは空論に終わってしまうもののようだ。もちろんそれ以前から試作を重ねていたが、とうとう下の写真のような色のものさし<RWカラースケール>を、自費出版と同じようなかたちでつくり始めることになった。そのことを本誌の読者諸氏に伝えることができるのはほんとうにうれしく思う。
まさに病膏肓(こうもう)というべきかもしれないが、なぜこのような色のものさしづくりを始めることになったかというと、カラー写真、色印刷物をはじめ、その他あらゆる物体色を含めて、実際には色ははかれないでいる現状に、一石を投じてみたかったといってよいかもしれない。
はかるという計量法の定義をあてはめると、色の場合もメートル法と同様に、ある一定の大きさを基準としてある色がその何倍あるかを見いだし、色のタシ算もヒキ算も可能でなければならないことになる。
ここでマンセル表色系を持出すのは比較がおかしいかもしれないが、従来の身近な視覚的表色系はだいたいにおいて心理的体系だから、マンセルの場合は任意の色(反射色に限る)の色相(H)、明度(V)、彩度(C)がいくつであるかを色票から見いだすことができるが、物理的な量は見いだせない。
また、国際照明委員会が制定したCIE表色法は物理的な測色を行うが、そのためには分光光度計あるいは光電色彩計といった、高価な測定装置を必要とする。この方法は色の絶対値を得るためには必要不可欠であるが、視覚的な取扱いができず、もっとも必要と思われる減法混色が見いだせないので、実際的な身近な色のシステムとはいいがたい。 そのため現状では、ある色とある色を加算したとき、あるいはある色からある色を差引いたときに何色になるか、あるいは希望の色にするには何色をどうすればよいかは、特定の分野の特定の名人芸を有する職人にしかできないでいる、といってもさしつかえないのではないかと思う。
さらに問題をさかのぼれば、3原色の時代に3原色を知っている人も意外に少ない。色彩科学が遅れているといってもよいのかもしれない。百科事典にしても教科書にしても、その多くはいまだもって”光の3原色”にも、”色の3原色”にも同じ言葉(青と赤)が用いられている始末であるから、理解できないほうが当然なのかもしれない。はじめに”ものさし”あり。それもこれも、視覚と理論との密接な関連をもって、だれにでも合理的に理解しは握できる色のシステムとものさしが、欠けているからにほかならない。こう感じたことが、この色のものさしづくりの動機であったといってもさしつかえないだろう。
なお、色を視覚的に取扱おうとしたのはこれが初めてではなく、最初は光の色である。光色は色温度の尺度だけではとらえられない。実際的にいえば、LBフィルター以外にCCフィルターを使用しなければ、完全なというより、よりのぞましい補正はできない。多くの光源はタングステン・ランプのような規則的な変化をもたないからで、そのために光色を判定する視覚式のカラーメーターをつくった。
このカラーメーターは基準光としてDタイプ(5500°K)とBタイプ(3200°K)の光をつくり、それに対してはかろうとする光源(撮影光源)の光を隣接させて比色し、基準光との色質の差から発色するであろう色の崩れを見出す。そして外光の色質を変化させて基準光に合致させることにより、撮影で補正のために使うべきフィルター(LBおよびCC)を見いだすようにした、視覚式のカラーメーターである。これについてはいずれ機会があればくわしく説明したい。
◆RWカラーシステム(CCフィルターによるつくり方)
フィルターとその性質
カラーシステムの説明に入る前に、まずCCフィルターの性質を説明しておこう。
CCフィルターのCCはColor Compensatingの略で、色補正フィルターである。光学系にも用いることのできる、精度のよいゼラチンまたは薄膜フィルターで、主な製品にはコダックとフジフィルターがある。色の種類には色の3原色に相当するイエロー(Y)、マゼンタ(M),シアン(C)の3種以外に、ブルー(B)、グリーン(G)、レッド(R)があるが、カラースケールではコダックのYMC3種を用いている。
各YMCフィルターには、最も淡い025から05、10、20、30、40、50がある。このCC数値はピーク濃度で示されており、これは最も吸収の大きい波長の透過率から割出した透過濃度(透過率の逆数の常用対数値)の、小数点以下がCC20といったかたちで表示されている。
したがって、CC20Yというフィルターの色濃度は、概略的にいえば0.20Yということであるが、正確な色の取扱いには各フィルターの分光透過率(各社のパンフレットに表示されている)をもとに計算を行なう。
透過色のつくり方
フィルターは本来光をこすために使うものだが、ここではフィルターそのものを透過色として扱う。各YMCフィルターはそれぞれ7枚しかないが、これを組合わせると, Y MC各原色は025、05、075(05+025)、125(10+025)、15(10+05)、175(10+05+ 025)、20、225(20+025)、25(20+05)〜、といったように2枚重ねまたは3枚 重ねにより、025単位で濃度の高い色をつくっていくことができるので、1.00まででは約40段階の原色をつくれる。つまり、YMCそれぞれに40ずつの目盛りができるということである。
ご承知のように、フィルターの重ね合わせは減法混色であり、その組合わせによりY+M=赤(R)、Y+C=緑(G)、M+C=青紫(B)が得られる。これら2色ずつの組合わせでできる色は40×40=1600色ずつあるから、2色系の組合わせだけで、おおむね4800色がつくれる。これらはいわば無彩色を含まない純色であるから、さらにこれらに等しい割合のYMC(等YMC)を与えていくと、等YMCも40段階に変化できるので、だいたい19万色という、ぼう大な色をつくれるということになる。
しかし、透過色は1.00まででは十分ではないから、さらに高濃度フィルターを別個に与える必要があるが、フィルターを追加すればほぼ無数の透過色をつくることができるようになる。
反射色のつくり方
フィルターを白い紙などの反射色ベースの上に密着すると、光沢ある反射色として扱うことができる。これはカラープリントの色と同様な状態にあるということができる。カラースケールでは、反射色ベースとしては日本色彩研究所の標準色票V9.5の白を、フィルターの最下部に自在に位置できようになっている。反射ベースとしては白以外に無彩色票(グレースケール)を活用し、その他有彩色票、あるいは印刷物を利用するなど、目的に応じて使い分けて、なるべく重ね合わせるフィルター枚数を少なくする。反射色の場合は、表面反射、内面多重反射の影響が避けられず、高濃度になるほどその問題は大きくなるので、いわゆるゲタをはかせるようにするのがのぞましいわけである。スケールではグレースケールは用意してあるが、有彩色のベースはまだ供給していない。
◆RWカラーシステム(CCフィルターによる色のはかり方)
以上のようにすれば物体色の2つの種類、つまり透過色と反射色の両方がつくれるというわけだが色をはかるには、はかろうとする色と同色になるようなフィルターの組合わせを見いだす。カラースケールでは、比色マスクにある長方形の比色窓の左側に試料を位置させ、それに隣接して右側にフィルター色がつくれるようになっている(下図)。透過色の場合はカラー写真判定用の質のよいライトボックス上でフィルターだけを用いるか、または適当な透過色ベースを併用して等色させる。反射色の場合は色質のよい照明光(できれば標準光源)を用い、フィルター下に白色面ベース(WHITE)を用いて両者を等色させる。厳密な測定には、はかろうとする色に近似した明度の無彩色の背景色マスクを使用し、かつ衣服や天井などからの表面反射光の防止のために透視板を使用するなど、視感比色上の注意を十分に考慮する必要がある。
色の記録と表示
等色したフィルターの記号と数値、反射色の場合はさらに反射色ベースなどをメモしておけば、後日その色を再現してみることができ、その数値により色の伝達が可能になる。たとえば、いま私の手元にあるニュータイプのカラーネガのオレンジベースの色は、60Y+40M+10Cであるといえば、スケールをもっていない人にもその色の伝達が可能である。その数値のフィルター(EK)を重ねてみてもらえばその色を再現できるからであり、EKのフィルターは世界中にあるから、ロンドン、パリ、ニューヨークいずれにでも電話1本で伝達が可能になる。反射色の視覚標準(色票)はあるが、透過色にはないので、この実際的な方法はきわめて有効ではないかと思う。ただし観察するときの照明光の色質による色のみえ方が問題になる。そのため厳密には判定したときの光源の種類も併記すべきであろう。
物体色の構成要素の分析
方法1(CC濃度による概略的なとらえ方)
概略的なとらえ方としては使用フィルターのCC数値をそのまま使用する。上記カラーネガのベースの色はB光の吸収体であるYが60、G光の吸収体であるMが40、R光の吸収体であるCが10としてとらえればよいだろう。つくった色のYMCフィルターを分解してみれば、各色の濃度をじかに目でみながら、その構成要素を分析してみることができる。つまり視覚的にYMC量を見いだすことができる。
方法2(より厳密なとらえ方)
CC数値はピーク濃度であり、これにはフィルターの有害分光吸収が無視されているので、色を分析して正確な色濃度を得るには、ブロック法を用いる。つまり各フィルターの分光透過率の400〜500、500〜600、600〜700nmの間の平均値を見いだして、そのデータをもとに計算する方法である。下表はEK社CCフィルターの平均透過濃度であるが、これをもとに上記カラーネガのベースを計算してみると、つぎのようになる。
B光濃度 G光濃度 R光濃度
400〜500 500〜600 600〜700
60Y=0.583 0.114 0.084
40M=0.112 0.362 0.071
10C=0.054 0.063 0.120
---------------------------------------------------------------------------------
合計=0.749 0.539 0.275
したがって、この色の正確な透過濃度はYが0.749、Mが、0.539、Cが0.275であることがわかる。これを透過率に換算してみると、B光透過=18%、G光透過=29%、R光透過=53%であることが見いだせるので、色の3原色量YMCと、光の3原色量BGRの両方を見いだすことができ、光の性質と色の性質の両方をとらえることができるようになる。BGRの両方を見いだすことができ、光の性質と色の性質の両方をとらえることができるようになる。
YMCとBGRの両者の関係は、下図のようになるわけだが、この図を横割りにしてみると、この色の中に含まれる有彩色部分(純色量)と無彩色部分(無彩色量)を見いだすことができる。つまり無彩色量は0.275であるから、全体からこれを差引いた残り、すなわち純色量はYが0.474、Mが0.264といったように、このシステムではYMC量、BGR量および無彩色量と純色量を見いだすことができることになる。
cc数値 | B/Y | G/Y | R/Y | B/M | G/M | R/M | B/C | G/C | R/C |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
05 | 0.092 | 0.046 | 0.041 | 0.055 | 0.081 | 0.043 | 0.051 | 0.052 | 0.079 |
10 | .126 | .047 | .041 | .064 | .122 | .047 | .054 | .063 | .120 |
15 | .218 | .093 | .081 | .120 | .203 | .091 | .104 | .115 | .199 |
20 | .213 | .052 | .041 | .079 | ..199 | .056 | .062 | .088 | .208 |
25 | .306 | .098 | .082 | .135 | .280 | .100 | .112 | .140 | .286 |
30 | .294 | .057 | .041 | .095 | .278 | .063 | .065 | .105 | .284 |
35 | .387 | .103 | .082 | .150 | .359 | .106 | .116 | .157 | .362 |
40 | .371 | .061 | .043 | .112 | .362 | .071 | .070 | .125 | .357 |
45 | .463 | .107 | .083 | .168 | .444 | .115 | .121 | .178 | .435 |
50 | .457 | .067 | .043 | .125 | .435 | .079 | .074 | .145 | .435 |
55 | .551 | .112 | .083 | .180 | .516 | .122 | .125 | .197 | .513 |
60 | .583 | .114 | .084 | .189 | .558 | .125 | .128 | .207 | .554 |
65 | .676 | .159 | .124 | .245 | .638 | .169 | .178 | .259 | .633 |
70 | .670 | .119 | .084 | .204 | .635 | .134 | .135 | .232 | .642 |
75 | .762 | .164 | .125 | .260 | .714 | .179 | .186 | .284 | .721 |
80 | .752 | .123 | .084 | .220 | .714 | .141 | .139 | .250 | .719 |
85 | .845 | .169 | .125 | .275 | .795 | .184 | .190 | .302 | .799 |
90 | .827 | .127 | .085 | .237 | .799 | .150 | .145 | .270 | .791 |
95 | .921 | .173 | .125 | <.292 | .879 | .193 | .195 | .322 | .870 |
100 | .914 | .133 | .085 | .250 | .870 | .157 | .148 | .289 | .870 |