中国の少数民族・トン族の鼓楼と風雨橋（３）　　中国広西壮族自治区三江トン族自治県

　肇興鼓楼

三江は広西チワン族自治区のなかでは北西に位置し、ほとんど貴州省に接している。もちろん貴州の町へもバスが出ていて､■川沿いに従い従江に行く便と､山を越えて黎平に行く便とがある。富永氏の地図を見ると、黎平に行く途中の町・肇興に数基の鼓楼が建っているようだ。朝７時３０分の黎平行きのバスに乗った。肇興までの料金は１５元。ちょっと不安にある。というのは､今までで一番時間のかかった独峝行きが５元で、２時間半バスに乗っていた。今回はその３倍の料金ということで､日帰りは無理かもしれないと思ったからだ。

バスは三江の町を離れ、川沿いを西に向かう。さすがにこの川は川幅が広いため風雨橋は架けられていない。それどころか普通の橋さえ見当たらない。地元の人は渡し船を利用しているようだ。川向こうにも集落が幾つか見受けられるが、鼓楼らしきものには、お目にかかれない。

平坦な道を約２時間走ると､分岐点の高安に到着する。ここから北上すれば黎平、そのまま西へ向かえば従江だ。バスは支流沿いの道を北へ向かう。ゆるやかな坂道を３０分走ると､右手にちらりと風雨橋が見えた。地坪の村だ。もうここは貴州省に入っている。さらに３０分行くと、道路が人々で埋め尽くされている。どうやらマーケットが開かれているらしい。町の名は龍額。わりとスリムな鼓楼が一基、集落の中心に建っている。道路にあふれる人､人、人。そして家畜､トラクター､出店が邪魔で思うようにバスが通れない。やっと町を抜けると､今度は延々坂道が続く山越えだ。もう時計は午前１１時をまわっている。約１時間、やっと峠を越え九十九折の坂道を下って行くと､大きな集落が見えてきた。肇興の町だ。スリムな鼓楼も見える。数えてみると５基も建っている。

肇興は町のど真ん中を道路が通っている。道の両側には商店が並ぶ街道の町､宿場町といった感じだ。やはりトン族の木造民家で町は埋め尽くされている。周りを山々に囲まれた盆地の町だ・集落の中にニョキニョキと鼓楼が建っている様は壮観だ。町の中を小さな浅い川が流れていて、子供達が水遊びをしている。ここにも風雨橋が架けられているが、鼓楼が立派な分、ちゃちな橋だ。内側には､三国志､西遊記といった物語の、きわめて素朴で下手な絵が描かれている。諸葛孔明の遠征と､それに対する地元トン族の面々といった図柄もある。肇興の鼓楼は、文化大革命の時に､一度すべて打ち壊された。現在建っているのはその後再建されたものである。馬胖の鼓楼や程陽の風雨橋は１９２０年頃に建てられたとガイドブックには書いてあったが、こちらも文化大革命の時はどうだったのだろうか？町の路地を歩きながら建物や人々の生活を垣間見ていると､いつの時代にいるのかわからなくなる。どうやらバスもなさそうだし、宿もあるようなので、ここで一泊してもいいかという気持ちになる。曇り空なのが残念だが、「省都・貴陽は、太陽の光が貴重なのでその名がついた。」と言われるほど快晴の日は稀なようだ。

山の斜面を歩いて集落と鼓楼を見下ろすアングルを探す。東側の斜面に登っていると、北の方から坂道を下ってくるバスが見えた。黎平から来た龍額行きのバスだ。やはり三江に戻ることにする。午後一時過ぎ､バスに乗る。

龍額からはバスはなく、マーケットに来ていたトラクターに乗って地坪へ、ここで風雨橋の写真を撮る。さらに別のトラクターに乗って高安に出る。しばらく待って従江発、三江行きのバスをつかまえ、三江にたどりついたのは、午後８時をまわっていた。

風雨橋、鼓楼を訪ねる旅を終え、バスを乗り継ぎ、北の湖南省に向かった。途中いくつかの風雨橋らしき橋をみかけたが、普通の橋に建物を付け加えたものや、ただの屋根付き橋といった代物しかなく、全く魅力を感じなかった。やはり風雨橋に関しては、三江近郊の村々の橋が美しい。鼓楼については、個人的には馬胖タイプのものよりは、高定や肇興で見たスリムな鼓楼に魅せられる。

日本に戻ってきて、知人から貴州省の木造建築に関する本を見せてもらった。それには私が訪れた肇興の近くの村々の写真が載っていた。そしてそこには民家の間から､すくっと聳え立つ鼓楼が写っていた。どうやら貴州側のトン族の村には、高定タイプの鼓楼を建てるようだ。天候に関しては曇りか雨と恵まれず、そのうえこういった鼓楼の存在を知った以上、木々の芽吹く､晴天の期待できる春、四月にもう一度トン族の郷を訪れようと思っている。

　肇興鼓楼

　肇興風雨橋