そもそも、なぜ女性専用車両なのか?

 

「これで女性は安心」――大きな話題のもとに昨年秋にスタートした女性専用車両(平日運行)の現況を取材した。八月現在、大阪市営地下鉄、JR西日本をはじめ関西の主な私鉄は何らかの形で女性専用車両を走らせている。

大阪地下鉄は御堂筋線の全列車で始発から午前九時まで各一両を運行している。昨年一一月から始めた。

JR西日本は、大阪環状線と東海道線や東西線など六線区で、始発から午前九時までと午後五時から九時まで普通車の中間一両を昨年一〇月から実施している。

阪急は京都線の特急・通勤特急・快速特急の二ドア車両に限って終日後ろから五両目一両を運行。昨年一〇月試験導入し、一二月から本格導入している。

近鉄・京阪・南海・阪神は、今年二月ないし三月からスタートさせている。

近鉄は、朝七時から九時のラッシュ時に奈良線の大阪に向かう快速急行、約二〇列車の最後尾の一両。京阪は七時から九時に淀屋橋に着く特急(枚方に停車する)の最後尾の一両。南海は本線と高野線の上り線で天下茶屋に七時二〇分から八時三〇分に到着する急行の四両目の一両。阪神は七時八分から八時一八分に三宮発梅田行の区間指定特急の一両。

全体としては、午前のラッシュ時に、混雑の大きい特定の線に限って実施しており、夜のラッシュ時運行のJR西日本と終日運行の阪急は例外といえる。

「魅力ある鉄道へのサービス向上の一環」(阪急広報室)として女性乗客の要望に応えたものであることには違いない。端的に言えば痴漢被害から女性を守る一方策。それでは、これで痴漢行為は減ったのだろうか。質問してみた。JR西日本の広報室「数字を取っていないので正確には分からないが、被害の届出はかなり減っていると聞いている。警察情報では減っているということだ」。阪急京都線特急はいわゆるロマンスシートで死角も多く、痴漢行為が多い車両と一般的に言われている。阪急広報室は「導入は痴漢対策の意味合いは確かにある。しかし、まだ導入から間がないので減ったかどうかのデータがない」。

大阪地下鉄梅田駅の川内助役は「痴漢被害は確実に減っていると思う」との回答だったが、広報室に問い合わせると「数字で見る限り、その効果は出ていない。地下鉄内での痴漢届出件数は、平成一三年度(一三年四月.一四年三月)二〇三件(御堂筋線一二六件)に対し、一四年度(一四年四月.一五年三月)は二一四件(同一三三件)となっている。平成一四年一一月一一日にスタートしているので、約五ヶ月間は一四年度に入る。減少していてもよいはずだが、むしろ増加している。これだけみると、痴漢対策の効果はみられない。ただし、届け出のない被害が多数と推測され、このデータで結論は出せない。

女性専用車両を利用した女性は確実に痴漢被害からは解放されたが、全体としての痴漢行為は少しも減少していないということだ。考えてみれば当然のことかもしれない。何しろ、女性専用車両の割合は運行している時間帯に限ってもほぼ一割に過ぎず(八両.一〇両編成の一両)、全区間全運行に対する割合は一%にも満たないのである。これでは、圧倒的多数の女性は利用できないということだ。

 

女性の声は? 男性の声は?

 

各社とも、「女性からは概ね好評をいただいている」と評価しているが、今後拡大する計画があるのかと問えば一様に「拡大の考えはない」「当面、この形で」との返事だった。また、女性からもっと拡大してほしいとの声も余り出ていない。その後京阪は、好評につき本数を大幅に増やす、同時に大阪から京都への特急にも導入すると発表した。

寄せられる苦情は男性から「何故、女性だけ優遇するのか」、「男性差別だ」、女性からは「男性が乗っている」の声が多い。これについては、男性に理解を求め、専用車両のPRをよりすすめて行くというのが共通する答えだ。

 

女性の声を聞いた。

「わざわざ乗らない。ラッシュ時の男性の汗臭いニオイは嫌だが、女性の鼻につく化粧のニオイも嫌。駅の出口に便利な車両にいつも乗っている」(二〇代)。

「たまたま乗ったのが女性専用車両。何回か乗ったがいつも男性が一人か二人乗っている。それほど混んでなかったので、別に気にはならなかった」(五〇代)。

「京阪淀屋橋駅で特急に乗ろうとした外国人観光客グループが、『Womens'Only』のサインにとまどっていた。限られた時間帯なのに、その説明が英語ではされていないのは不親切では」(三〇代)。

「女性専用車両には乗らないが、携帯電話オフ車両は快適だったから乗るかも」(四〇代)

 

一方、男性の声は。

「なんで女だけ専用車両つくるんや。男はギューギュー詰めで通ってるのに不公平」(大学生)

「女性専用車両の次は携帯電話オフ車両か。ここに乗りなさいとか、これはダメよとか、大人になっても何でも用意してもらわないと生きていかれへん民族やなあ」(四〇代)

「女性専用車両よりも『警察官立ち寄り所』の看板を全車両に置いたら?」(六〇代)

「外国人はどう思ってるんだろう」(三〇代)

「各車両の目立つところに『先月の痴漢検挙数』を出した方が効果あると思うし、男性の反感も少ないと思う」(四〇代)

 

大阪地下鉄では、五月に数千人規模のアンケートを実施した。九月には集計結果がまとまるとのこと。どんな結果が出たのか注目したい。

 

いずれにしても、鳴り物入りでスタートした割にはその実施規模は小規模すぎ、効果を云々できる段階ではないように思う。「女性客の声に耳を傾けましたよ」のジェスチャーに過ぎないのではないかという感じもしてくる。本気で痴漢被害から女性客を守るというのなら、時間や車両数の限定はあったとしても全路線の全編成で実施すべきではなかろうか。最初は混乱があるだろうが、「電車には女性車両が必ずある」というのが定着すれば、それを常識として社会は受け入れるだろう。

 

更に、乗客サービスというなら通勤通学時間帯のラッシュ緩和と運行の安全第一に注力してほしい。その点でホームでの駅員の少なさは気になるところだ。

構内の全面禁煙や車内での携帯電話やヘッドホンステレオなどの迷惑騒音の解消などを実施してもらいたい。もっとも、これらについては乗客のマナーに負う部分も多いのだが。この点で、阪急が実施している携帯電話電源オフ車両は注目してよい。

もうひとつ、最近増えた車内でのコマーシャル放送や過剰な車内放送。これは見なければ済む中吊り広告と違って、乗客に強制的に聞かせている。聞きたくないものにとっては苦痛以外の何物でもないコマーシャル放送はやめ、車内放送も必要最小限の放送に止め、静かな空間を提供することも重要なサービスではなかろうか。

女性専用車両は鉄道会社と乗客との間でのサービス論議を深めるきっかけにはなっているようだ。

阪急梅田駅で女性専用車両に並ぶ女性達▼