どやねん! このまちPart4
SJと此花のまちの○×△な関係
失業率が過去最悪となった関西。「関西経済浮上の起爆剤に」との期待を一身に受け、二〇〇一年三月三一日、華々しくオープンしたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)。
入場者数は初年度目標の年間八〇〇万人を八カ月で達成し、三月三日、一〇〇〇万人を突破した。開から三三八日目での大台到達は世界のテーマパークで最も早く、東京ディズニーランドの初年度入場者を上回った。
強大な集客施設となったUSJは、巨大な経済波及効果を生みだしただけでなく、雇用創出、文化波及、新産業創出などにも効果をあげている。
なかでも、JR西日本と、大阪市内のホテルがUSJの恩恵に浴したとされるが、肝心の地元は? そしてUSJ自体の雇用状況は?USJ探検記をイントロに、順に追ってみた。
USJ探検記 ある懐疑派の声
家族連れでUSJに行ってきた。町全体がアメリカン・スタイルで統一されていて、歩いているとアメリカにいるような錯覚を起こさせる。BGMが絶えず流れ、映画のシーンを思い出せてくれるのもいい。
ストリートにはスヌーピーやウッドペッカーなどのキャラクター人形が歩いていて、子供たちに人気だ。
飲食店はほとんどがファースト・フードかカフェテリア。あまりおいしくもないが、その分高くないのがいい。
しかし、USJがこれから何年にもわたって成功するかというと、ちょっと疑問である。一言で言うと、飽きられやすい施設という気がする。アトラクションもショップもショーも一度行ってしまえば、もう一度行こうという気にはならない。
私は、娯楽施設には「公園型」、「遊園地型」、「万博型」という三つのタイプがあると思っている。USJは「万博型」に近い。確かに六つか七つほど遊園地の乗り物みたいなアトラクションがあって、そこには人気が集中している。けれど、全体のアトラクションに占める割合はわずかなので、あとは「映像」と「音楽」で楽しませるという仕掛けが多く、こういうタイプのものは、一度筋書きや仕掛けがわかってしまうと、すぐ飽きてしまう。
東京ディズニーランド(TDL)だって似たようなものではないかと言われるかもしれないが、TDLは、USJよりは「遊園地型」に近いし、施設の規模も大きい。定期的に新しい催しや目玉となる施設をつくったり、絶えずお客の目先を変えている。
それに、子供の中での人気は、とてもUSJはTDLにはかなわないだろう。アトラクションが凝りすぎている。私の四歳の娘などは「バックドラフト」のアトラクションに入って腰を抜かし、怖がって泣きわめいて大変だった。「ジョーズ」も「ジュラシックパーク」も客をびっくりさせる仕掛けなので、小さい子供には向かない。
USJは、どちらかというと一〇代から二〇代の若者向きである。USJの一番の楽しみは、アトラクションよりアメリカン・スタイルの町をぶらぶらしたり、ショップをのぞいたりすることで、カップルなどに向いている。ところが、この若者という奴らは、意外と無駄なことにはお金を使わない。
USJは、このままいくと三、四年後には赤字になるのではないかと予測する。テーマパークにとって最大の難問である「リピーターの確保」は、USJにとっても簡単な問題ではない。
USJ探検記 ある歓迎派?の声
ユニバーサルシティ駅の改札を抜けると、そこはアメリカンドリーム。真新しい駅舎やカラフルなホテルが立ち並び、殺風景な周囲の風景とのコントラストをつくり出していた。
目についたのは、人気がなくてつぶれてしまったロサンゼルス国際空港のかつての名物レストラン。ロサンゼルスの街並みの写真やショッピングモールを眺めながら、ゲートまで向かう人々の顔は皆、これから始るエンターテイメントに期待をふくらませ、少し興奮しているように見えた。これぞ、有無をいわせずUSJの世界に引き込むアメリカンスタイル。
USJのゲートを抜けると、目の前に
は西部開拓時代のアメリカが拡がる。屋外では、黒人四人組のコーラスグループや集団でのアクションなどパフォーマンスがそこここでおこなわれていた。
USJは、ダウンタウンから車で一時間のハリウッドのUSにくらべて、交通の便は確かに良い。雄大な景色は望むべくもないが、阪神高速の高架もUSJの風物詩と考えればおつなもの。
アトラクションのなかで圧巻は、「ウォーターワールド」である。水上バイクが水しぶきを上げて急ハンドルを切ると、その水は客席にまで運ばれる。普段なら怒るのに、水をかけられて人が喜ぶ姿を見るのは、USJならではといえる。
「ジュラシックパーク」のウォータースライダーは、恐怖感では他を寄せつけない。予測しない加速は、たとえようのない恐怖感をもたらし、思わずキャーという黄色い悲鳴を上げかけた。
「バックドラフト」は、ハリウッドのUSで気に入り、USJでも是非行きたかった。火災になった化学薬品工場の舞台設定で、実際に火災が再現される。ジュラシックパークのウォータースライダーのおかげで全身びしょ濡れになった後だけに、火の暖かみを強く感じた。
USJを出たのは、夜七時を過ぎていた。遅くなると、人影もまばらになる。昼間は三〇分や四〇分待ちのアトラクションも、午後五時を回るとほとんど待ち時間なしで見ることができる。気の短い人には、是非とも夕方以降の見学をすすめる。
帰りの電車は、USJの大きな袋を両手に掲げた家族連れやカップルばかりだった。アトラクションを待っているときに、ふと周囲の話し声に耳を傾けると、博多弁あり、熊本弁あり、また名古屋弁もありで、その多様性はおもしろい。東海、四国、九州などからの訪問客が多くを占めるように思えた。大阪市内のホテルの稼働率が高まるなど、大阪経済に少なからず貢献しているUSJであるが、真の立役者は大きな土産物袋を手にした地方からの来客かもしれない。
地元商店街は元気か?
一人勝ちしていると言われるJRの別の名が「ゆめ咲線」。環状線とゆめ咲線の分岐が西九条の駅である。ここで乗り換えてド派手なゆめ咲線列車に乗るも良し、環状線から直接ゆめ咲線に乗り入れている列車に乗るも良し。いずれにせよ、此花区の西九条の駅が日本全国と、世界と、USJとを結ぶ鉄道派の接点なのである。
今回、編集部は西九条で集合し、ひたすら此花区を歩いて、USJに接近するウォーク戦術を採用した。意外なことに、西九条駅の周辺には、USJを彷彿させる目立ったものは何もなかった。
今回訪ねたのは、五つの商店街。
五十九店の四貫島商店街本通り、十三店の四貫島森巣橋筋商店街、五十一店の四貫島中央通商店街。
さらに北港通りを隔てて、約三五店の此花住吉商店街、西へ一キロほどで約八八店の春日出商店街がある。ほとんどが大きな商店街で、いずれも土曜の昼前後ということもあり、たくさんの人出で賑わっていた。此花区の商店街は元気だ。
それにしてもUSJのニオイは?最初に訪れた四貫島商店街本通りには外形上その影響が認められた。例えば、商店街のアーケード天井近くに吊り下げられたサメの大横断幕が五本ほど。しかしこれは違った。聞いてみると、「五輪ザメ」という飾りで、大阪オリンピック実現への願いを込め、赤・青・黄・緑・黒の五色をあしらったもの。今では「強者どもの夢のあと」か。何やら、古ぼけて元気がない。ただ、オリンピック招致にサメをイメージするのは、やはりUSJを意識してのことだと考えたい。
次に、マスコミでも有名になったジョーズ寿司の「かな寿司」。とてもきれいなお店で、回転寿司コーナーは全品一〇〇円となっている。お店のショーウインドーも中の飾りも、USJ満載。このお店のコンセプトは、しばらくはUSJでいくのだろう。
作業服店のおかみさんによれば、USJが商売に影響したことはないと言う。また「ジョーズ寿司などは比較的、売り上げに関係したかも知れないが、外国や全国の客が続々と言うより、此花区民の客が多いのではないか」とのこと。USJは直接の商売への影響より、商店街が行ったさまざまなUSJイベントを通じて、此花区の区民意識の向上に役立ったと言うのである。
色々と話しを聞いたが、この見方がUSJと地元此花区との関係を一番わかりやすく説明してくれているように思う。ちなみに、その他の商店街にはUSJのUもないという感じで賑わっていた。
USJという施設と地元の関係は、はっきりいえばほとんどないのではなかろうか。車やバスにせよ、電車にせよ、此花区全体は訪問者にとっては通過点にすぎない。しかし作業服店のおかみさんが言うように区民意識の向上のために、USJを活用するというたくましさは、イベント型開発への住民意識の積極的発展の発露と言えるのではないだろうか。
▲賑やかな四貫島中央通商店街
USJで働いてみる?
USJができたことで、地元此花に大きな変化があったわけではないようだが、新たな雇用機会を生み出したことは事実である。
さらにUSJは春以降に見込まれる来場者の増加に備え一月二八日、アルバイト一五〇〇人を追加採用すると発表した。募集業種は、接客や清掃をする運営部門、ショーの支援をするエンターテインメント部門のほか、物販、飲食、セキュリティなど。
何人ぐらいいるのだろうと取材を依頼したが、見事にOUT!発行部数の少ない雑誌の取材はお断り、とのことであった。しかしUSJでのアルバイト経験のあるAさんに話を聞くことができた。
研修内容にもアメリカらしさ
営業日に出勤しているスタッフは、約一万二〇〇〇人も!オフシーズンの冬、来場者数がそれほど多くない日は、従業員の方が来場者より多くなることもある。そんな日には、グループ内の何人かの勤務時間が短縮され、その部部の賃金は半額になるそうだ。ワークシェアリングの実例かも。
スタッフには正社員とアルバイトがいて、アルバイトは「運営」「飲食」「物販」「セキュリティ」「エンターテインメント」の部門別に採用され、さらにレギュラー、カジュアル、シーズナルと勤務日数によってラン区分けされている。時給は職種によりさまざま。最も高くて一二〇〇円、安くて八〇〇円(二〇〇二年二月現在)。時給の良し悪しよりも、ここで働きたいから応募したという人が多い。
採用後まず受けた研修のテーマは「セクハラ」。社内でのセクハラ防止はもちろん、ゲスト(お客さま)についても然り。例えば迷子になっている小さな子どもを抱き上げて慰める―これも許されない。手をとって同伴者を探す時にも、「手をつないでいいですか?」の一言を要する。向こうから親が見ているかもしれないというのだ。その子どもが「お腹減った」「のど渇いた」と泣いても、与えてよいのは水だけ。良かれと思って与えた物でアレルギー発作の要因になっては、と。さすが訴訟の国アメリカである。
USJのお客さんって一体?
オープンして間もない時間帯、ベンチを独り占めして眠りこむおじさん。どれくらい熟睡してたのか、どれくらいここを楽しんでいるのか? 起き上がり、やおらAさんに近づき質問する。「この辺にパチンコないか?」
時には「社長は何やってた人?」「ここはもともとなに?」パーク中央の大きな池を指さし「淡水? 海水?」など、アトラクションやショーに全く関係のない質問をするゲストもいるので、話をUSJに戻すのにAさんは四苦八苦。
西九条あたりで飲んでいたとき、隣のおじさんが「最近こんなところに出没するようになった若い子は、ほとんどがUSJで働いてる子や。これまでは常連客しか来んかったのに」と言うのを聞いてAさんはナルホド.と思った。そういえば東京出身の上司にも、外国人のスタッフにも、「大阪らしいところ、どっか紹介して」としきりに言われる。通勤に使うJR桜島線の乗客も、日によってはほとんどがUSJのスタッフだったりする。
此花を潤しているのは、来場者ではなく、従業員なのかも。
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開業二年目を迎えるUSJの今後の課題は「どう二年後につなげるか」であり、そのための「リピーターの確保」は必要不可欠である。
リピーターを確保し、安定した経営基盤を築くことができたときに初めて、USJは関西経済への貢献・効果を発する存在になると言えよう。
市が運営する天保山渡し。対岸に社宅があるので、USJスタッフの利用も多い。
自転車で、船通勤する外国人スタッフたち。