大阪の地下鉄は本当に赤字か3

企業債に頼ってはいけない

 

企業債の残高は八一三八億円

 

大阪市が地下鉄を建設するために借り入れた「企業債」の残高は二〇〇〇年度末(二〇〇一年三月現在)で八一三八億円である。その内訳は、証券発行債九〇一億円、財務省借入金二六三六億円、総務省借入金二〇九一億円、公営企業金融公庫一八四八億円、大阪府一九億円で、大部分が国からの借入である。

そして、大阪市はこの巨額の借入金の利息として二〇〇〇年度だけで三五七億円を支払っている。企業債は三〇年償還が多く、借り入れた年により利率が異なるが、残高に対する支払利息の割合で見れば、平均利率は四・四%である。超低金利の今、平均四・四%もの利率はいかにも高いが、これは、一九九一年以前に借り入れた企業債の利率が六%から七%と非常に高く、その後も一九九五年までは四%から五%を推移していたからである。これに対して二〇〇〇年以降に借り入れた企業債は利率がすべて一%台である。

このように、大阪市の地下鉄会計は、高金利時代に借り入れた企業債を中心にして毎年三〇〇億円以上もの利息を支払っていることがわかった。とすれば、われわれ個人が高金利時代に組んだ住宅ローンの借り換えを行うように、大阪市の地下鉄会計も超低金利を生かして低利資金への借り換えを行うことはできないのだろうか。

借り換えは可能である。企業債のうち政府資金と公庫資金(つまり証券発行等により金融市場から借り入れたものを除き)については「繰上償還補償金」を支払うことにより繰上償還を行うことができる(『改訂公営企業の実務講座』五四九頁)。先に見たように、大阪市の地下鉄会計の場合、企業債の大部分は政府資金と公庫資金であるから、低利資金で借り換えを行い繰上償還するのが得策と言えるだろう。

一九九〇年代の企業債残高の推移はグラフ1のとおりである。九四年に七五〇〇億円まで減少したが、九五年と九六年に急増し八四〇〇億円に達した後、九八年以降は八一〇〇億円台が続いている。大阪市は、九〇年代を通じて毎年三〇〇億円以上を企業債償還金として返済しているが、その一方で、グラフ2のとおり、それを上回るほどの新しい企業債を起こし借入を行っているため、いっこうに企業債の残高が減らないのである。いわゆる「自転車操業」状態である。特に九五年と九六年の二年間は返済した額よりも新規の借入額の方が二〇〇億円以上も多く、急激に企業債残高が増加した(グラフ1)。

このように、大阪市が毎年三〇〇億円を超える新規の企業債の借入を続けている理由は、新線建設工事費をはじめとする巨額の「建設改良費」を賄うためである。

 

新線建設に毎年企業債借入

 

たとえば、現在工事が進められている第八号線井高野.今里間建設工事には、二〇〇〇年度だけで一九四億円が注ぎ込まれている。大阪市は、一九八九年五月に出された運輸政策審議会答申(第一〇号)に基づき、森小路大和川線、敷津長吉線、長堀鶴見緑地線延伸、千日前線延伸の四路線を「交通事業の設置等に関する条例」(一九八九年一一月改定)の計画路線に組み込み、全体計画九路線一五〇kmの路線網を整備する方針を明らかにし、第八号森小路大和川線(井高野.湯里六丁目)のうち井高野.今里間はすでに二〇〇〇年三月に着工、二〇〇六年度開業を予定している。

地下鉄会計では、建設改良費は企業債償還金とともに「資本的支出」とされ、これを賄うための「資本的収入」は企業債借入金と国や大阪府、大阪市一般会計からの補助金のほか、「損益勘定留保資金」が充てられる。「損益勘定留保資金」とは、前回前々回の本稿で説明したように、地下鉄の運賃収入から人件費や支払利息などの費用を支出した後に残る現金である。このような損益勘定留保資金は、九〇年代を通じて毎年二〇〇億円前後に上っている。なお、これだけ現金があっても、公営企業の会計原則により、減価償却費用を差し引くと、「収益的収支」(資本的収支を除く収支)は赤字ということになっていることも前々回に述べたとおりである。

グラフ3を見れば、九〇年代に急増した建設改良費を賄うために企業債が急激に増加したことと、それでも不足する建設改良費の財源として毎年二〇〇億円前後に上る損益勘定留保資金が注ぎ込まれてきたことがよくわかる。大阪市民は、このような地下鉄会計のあり方について、はたしてこのままでいいのか真剣に考える必要がある。年間三〇〇億円以上の利息を支払ってもなお毎年二〇〇億円前後の「損益勘定留保資金」という名の黒字が出ているのに、大阪市民は「毎年大赤字」で「累積赤字二七〇〇億円」等の不正確な情報による誤った固定観念を植え付けられている。

そして、毎年二〇〇億円前後の「損益勘定留保資金」という名の黒字はそのすべてが新線建設工事費等の「建設改良費」に注ぎ込まれ、それでも不足する「建設改良費」の財源に充てるために、毎年三〇〇億円を超える新規の企業債借入が行われ、いつまで経っても企業債は減らず、毎年の運賃収入の二〇%が利息の支払いに充てられている。

 

新線や既存線延伸は中止し、市民の判断を

 

はたして、現在計画された工事が進められている新線や既存線の延伸などは本当に必要なのか。

地下鉄でなくてもバス路線の拡充改善で対応できるのではないか。今までどれだけ真摯な検討がなされたのか甚だ疑問である。

大阪市は新線の建設と既存線の延伸はすべて中止したうえで、市民に対し地下鉄会計についての正確な情報を提供し、工事の続行や着工について市民の判断を仰ぐべきである。

 

累積赤字はゼロにできる

 

そして、大阪市民に対し最も大きな誤解を与えている「累積赤字」すなわち当期未処理欠損金については、次のように考えるべきである。大阪市は、毎年「累積赤字」ばかりを仰々しく発表するが、それ以上の勢いで増えている「資本剰余金」については一切市民に対し説明しない。九〇年代における両者の量的関係はグラフ4のとおりであり、一貫して資本剰余金の方が上回っており、二〇〇〇年度末においては実に剰余金一四六九億円を計上しているのである。

資本剰余金とは、公営企業会計に独特の制度で、建設改良工事に対する国や大阪府からの補助金及び大阪市一般会計からの補助金収入が「資本剰余金」としてカウントされ、貸借対照表上では「資本」の一部として計上されるものである。そして、「累積赤字」すなわち当年度未処理欠損金もまた、貸借対照表上では「資本」の一部である「剰余金」として計上されるものである。

したがって、たとえば、二〇〇〇年度を例にとれば、同じ「剰余金」という勘定の中で、資本剰余金が四一九六億円、当年度未処理欠損金が二七二六億円となっており、差し引き一四七〇億円が剰余金の決算額である。これを、「資本剰余金が一四七〇億円、当年度未処理欠損金がゼロ」としたとしても、差し引きが一四七〇億円であることに変わりはない。

両者はこのような関係にあることから、当年度未処理欠損金を処理するために、議会の議決を得て資本剰余金を取り崩すことが許されているのである(地方公営企業法施行令二四条の三)。

大阪市は、次の決算時には、必要なだけ資本剰余金を取り崩して当年度未処理欠損金を全額処理する会計上の処理を行い、大阪市民に対し「累積赤字はゼロになった」と発表すべきである。