辺見 庸

面   相

へんみ・よう

1944年、宮城県生まれ。『自動起床装置』で

芥川賞、『もの食う人びと』で講談社ノンフ

ィクション賞など受賞。近刊に『単独発言』、

『反定義』など。

 

以前から劣等感をいだいているのだが、どうも私の顔貌にはなにか重大な問題があるらしい。最近、米国に行ってますますその思いをつよくした。ニューヨークのJ・F・ケネディ空港でも、ボストン空港でも、いかなる根拠があってか、保安係員たちがことさらに私を見とがめ、執拗を通り越して異常なまでに、私の身体、着衣、持ち物のすべてを徹底的に調べまくったのである。9・11テロ以降、米国の各所で保安検査が強化されているのは、むろん、知っている。だが、他の乗客がチェックを免れているときでも、私にはかならず保安検査を実行しようとした。他の外国人なら三分で済ませているセキュリティ・チェックが、私には最短でも六分は費やされた。他の乗客に靴の検査をしていないときでも、衆人環視のなか、私には左右の靴のいずれも脱がせ、靴のなかから靴底まで、じつに丹念に調べたのである。

なぜか。

 

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