2000.01.28
初笑い三人組!?
2000年を期に結成された漫才トリオ・・・ではありません。昨年末の奇想天外な試み、古典落語にヴァイオリンとピアノで色づけをしてみよう、というイベント終了後の三人です。右から古今亭志ん弥師匠、ヴァイオリンの大津純子さん、そして仕掛人の私。
大津さんも鏑木清方の絵に触発されて、着物袴姿での演奏でした。
こりゃ面白い、と少々悪ノリ気味ではありますが、今年は8月に怪談、お化け系の噺を集めてまたやろう、と計画中です。詳細決定次第お知らせします。

2000.02.29
海の上のピアニスト
二週間ばかり「海の上のピアニスト」になっていました。
海が荒れていなくても、船はいつでも多少は揺れます。
きっちりとリズムをキープするときに、この微妙な揺れがどれほどの影響を与えるか、これは経験したものでないと実感がわかないでしょう。たとえば駅の階段が各段ごとに10cmばかり高さが違っているとして、ここを駆け上がるとか駆け下りるようなものです。地面が動かない、あるいは吸う空気がかならずある、なんてことが実はとても貴重なのだということでしょうか。あしたも太陽が昇る、と決まっているのが不思議に思えてきました。

2000.03.31
チェンバロ録音

3月8、9日チェンバロ・ソロ録音完了。
久保田彰氏製作のフレミッシュスタイル二段鍵盤。長さが2m45cm、重さ80kg。スタジオのエレベーターで運ぶことができたのは僥倖というべきでしょう。
しかし弾くたびに思うのですがチェンバロはピアノと全く違う楽器です。ピアノ弾きが気軽に手を出してはいけない、と気づいたときには手遅れ。しゃーない、結果は気にせず楽しもう、と居直ったというわけ。
レコーデイング中にもさまざまな発見がありました。なんだか病みつきになりそう。

2000.04.28
トコちゃんのこと
早いもので、トコちゃん(日野元彦さん)があちらへ旅立ってもう一年になります。
その間に、ドラム、ベース、ピアノというオーソドックスなトリオのライブは二回しかやっていません。優秀なドラマーは何人もいるのに。
みなそれぞれにすばらしい音楽を作ってくれるのは明らかなのですが、当然のことながらトコちゃんとは違うテイスト、組み立てになるでしょう。そうなると私の演奏も変わってきます。どうやら今は、まだどこかで、トコちゃんと作ってきた流れをそのままにしておきたいと思っているのかも。
あとすこしのあいだ、トリオとは別の方向や形をさぐることになりそうです。

2000.05.31

入水のお誘い

5月にライブが少なかったのは、“海の上のピアニスト”をやっていたからでした。
今回はノルウエーのフィヨルドを体験。こういう景色のなかを200km以上も航行するのです。

以前、月の光のなかでは海面と甲板がひとつづきの平面に感じられる、と書きましたが、フィヨルドもまた次第に吸いこまれそうになるあやうさを持っています。

2000.07.03
NEXT CYCLE=富樫雅彦コンサート
富樫雅彦音楽生活45周年(もうひとつ、彼の還暦)を祝うコンサートは、満員の大盛況でした。世話人のひとりとして、ほっとしています。全員が一国一城の主ともいうべきプレーヤー、さらに渡辺貞夫、日野皓正がセクションに加わる超豪華ビッグバンドは、こんな機会でもないと実現しません。照明、音響をはじめスタッフもトップクラス。
富樫さんがわれわれにくれた多くの貴重な音楽体験へのささやかな恩返しができたかな。
次のサイクルではどんなトガシ・サウンドが聴けるのでしょうか。

2000.08.03
IT戦略
IT戦略などと浮かれているどこかの国。
通信にかかわる一切の暗号化、セキュリティーの一番大事なところはどこが握っているのかご存知なのだろうか。メール200万通を居ながらにして一瞬で解析できる傍受システムが、各国に設置したドーム型アンテナと衛星によって全世界を覆う。文字通り「天網」だ。商談、新製品の開発、どんなことでも筒抜けだとしたら、安全保障もへったくれもなかろう。
いまこのページを見ているあなた、奴らに「要監視」と思われたら次の瞬間からあなたのコンピューターが電話回線に発する信号はすべて捕捉されるのだ。
大事な情報はすべて手渡し、話は会ってすること。
私?いちミュージシャンにそれほど重要なことはありません。筒抜けオッケー。

2000.08.28
白色より黄金色
賞味期限を過ぎた、少々腐敗気味の牛乳は腸の掃除に良い、と好んで飲む人達がいるらしい。凝固力の強い腸の持ち主に違いない。そういう腸でも、黄色ブドウ球菌まで凝固させるまでのパワーはあるまい。
私など、新鮮なやつでも時として準急程度の加速をする、まあ適度に感度の良い腸なので、このところ白色飲料は控え、もっぱら黄金色発泡もので水分を補っている。全国版銘柄より、いわゆる地ものを発見したときは嬉しさ百点である。
長野県上水内郡信濃町産、「信濃エール」。これはイケます。

2000.10.03
佐藤 plays カプースチン
くわしくはエッセイで書きますが、ひょんなことから「人前で譜面ものを弾く」羽目になりました。ロシアの作曲家ニコライ・カプースチンの『八つの演奏会用練習曲』第1番というやつ。
このひとの作品はすべての楽想がジャズから生まれていて、しかも構造はまさしく正統的なクラシックなのです。アール・ハインズ〜エロル・ガーナー〜バド・パウエルを柱にラグタイムからチック、ハンコックあたりまでを網羅して緻密に書き込んであり、そのうえ指定速度がやたらに速い!おいおいこんな速さで人間が弾くのかい‥‥というほど。
ところが作曲者自身が弾いたCD『CAPUSTIN PLAYS CAPUSTIN』を聴くと、一点のあいまいさもなく驀進しているではありませんか。
一瞬「挑戦してみるか」と分不相応なことをつぶやいてしまったのが運のつき、というわけです。初公開は9月29日のトリプルピアノ。結果は???

2000.10.25

出合い頭
インプロ系のライブは、出合い頭、つまり初顔合わせがとんでもない盛り上がりになったりするから面白い。10月14日新宿PIT INNもそうでした。Steve Lacy(sax)のトリオで来日中のJean-Jacques Avennl(bass)、 John Betsch(drums)とのセッション。
この日はSteveが他所でソロ・コンサートをするために、ふたりが空き日になる。サトーさん良かったら演ってみない?という、半分消化試合みたいな気軽さで臨んだわけですが、ヨーロッパ方面のミュージシャンは譜面に強いから、多少難し目の曲も選んで持って行きました。予想通り30〜40分のリハで出来上がり。
そういえば故Jean Francois Jenny-Clark(bass)のときもこんな感じだっだったのを思い出しました。そうそう、Calro Actis Dato(sax)も初回盛り上がりでレコーディングにまで発展した。今回のも何かに成長するかも知れません。

かたつむり
宮間利之とニューハード・オーケストラが創立50周年を迎えました。ビッグバンドには冬の時代ともいえる昨今、経営上の御苦労を乗り越えての半世紀。敬服いたします。
1970年代、ニューハードにいろいろ実験的な曲を書かせていただいたことが後に大いに勉強になりました。『邪馬台賦』もそのひとつ。声明に惹かれるきっかけでした。
今回の記念コンサートのために書いた曲は、『邪馬台賦』の30年後、のような形になりました。やはりジャズの常道に逆らうというか、ほとんど無視、あるいは逆手に取っています。まずテンポ。4分間をかけて徐々に加速します。定速というジャズの原則違反。
調性=なし。ハーモニー=一切なし。即興=全くなし。すべて記譜されています。拍子=ほぼ無いのとおなじ。13拍子と7拍子が同時進行している所もあり。
題して『蝸牛楽(かぎゅうらく)』。30年這ってもまだこんな所にいるワタシ、という意味です。

2000.12.04

ひさしぶりのTON・KLAMI
ソウルで開かれた“フィジカルシアター・フェスティバル”は、日韓の若い演劇グループが集う意欲的な催しでした。11月1日、そのオープニング・コンサートで姜泰煥+高田みどり+佐藤が一年半ぶりに再会。姜さんの循環呼吸奏法はますます多彩になり、みどりさんは今回入手した韓国伝統、手作りの分厚いゴングも交えての千手観音状態、私の武器は相変わらずピアノだけ。しかし充実した時間を過ごすことができました。

想々(サンサン)
姜泰煥氏のもとには、インプロヴィゼィションにあこがれて弟子入りする伝統楽器奏者が次第に増えているようです。そのなかの女性三人で作ったグループ“想々”が11月2日、「ストロベリー・シアター」という、日本で言えば往時の「ニュージャズホール」に相当する、きわめて前衛的な小ホールで11月2日にデビューしました。

写真は前列左から許胤晶(ホ・ユンジョン)さん=コムンゴ(雅楽で使われる和琴の祖に近い)、姜垠一(カン・オニル)さん=ヘグム(韓国の胡弓)、柳京和(ユゥ・ギョンファ)さん=ジョルヒョングム(鉄弦琴と書くのだそうです。スチール弦を張った共鳴箱つきの琴。1960年代に考案された新伝統楽器)。
後列左は姜泰煥師匠、右はみどりさん。
そのうち日本でも聴けることになるでしょう。