純正律と平均律と和音

 本には結果だけが書いてある。こんなことでは数学好きは満足しない。どのような数列なのかを考えたが、直ちに平均律は1/12、2/12・・・のような普通の数字の按分ではなく、自然界の感覚に合う対数(10円が倍に増えた子供の嬉しさと、1万円が倍に増えた大人の嬉しさが同じというようなもの;詳しくは数学の本でも開いていただきたい;でも対数がなぜ自然界に合うのかは難しく私には説明不能)での12按分ではないかと思った。昔なら電卓計算や対数表での計算でやる気もしないが、今はパソコンでちょこちょこっと出来てしまう。早速やってみた。本と計算結果がぴったりと一致した。偶然とはいえ音程とは何と都合の良いように出来ていると感じた。

 しかし、これが分かるとすぐに次のような疑問が湧く。前述のように音が気になりだした切っ掛けは、純正律と平均律の調査からなのだが、数学のわかる方なら、平均律が対数で構成、和音が異なる音が「小さな数の整数比対応」ということを聞いただけで、直ちに頭が???になる。なぜなら「小さな数の正数対応」と「均等分割の対数対応」が都合良く一致するはずがないことは直感的にわかるからである。
対数とはこんなものである。
1・2等の数字がある。小数点以下があってもよい。正の数字が10の何乗で表されるかを示すもので、例えば10の0乗=1、10の2乗=100、2は10の0.3010乗のように表される。最近は計算機やパソコンの世の中になり計算は苦もなくなってしまったが、昔は掛け算などをする場合には結構この対数を使っていたのである。
簡単な例だが10と100を掛け算しようとする。1000なのはすぐにわかる。 対数ではこのようにする。10は10の1乗、100は10の2乗、乗のところの1と2を足すと3、対数表で3を見れば1000と出ている。こんな簡単な数字でなくても勿論良い。掛け算が足し算で出来るのである。これも使わなくなってしまったが、計算尺もこの原理で出来ているのである。


 ついでだから管楽器の計算もやってみた。音の速度・管の長さなどを決め、共鳴を考えながら計算してみた。これも大方はわかったが、まだまだ、わからないことがある。金管楽器はピストンで管の長さを変えるだけだからよいのだが、それでもわからないことも多い。ぐちゃぐちゃと弁がついている木管楽器は見当もつかないので、いずれ調べて計算してみることにしたい。今、推測していることは、木管楽器には複雑や特徴のある音を出すものが多いが、それは複雑にあけられた穴にあるのではなかろうか。ある基音をある穴とある穴との間の共鳴で出していても、別にあいた穴間の倍音などで、音に特徴が出るのだろうと思っている。博物館などで木管楽器を見ると、昔のものはシンプルである。多分音も素朴なのだろう。

 純正律と平均律の計算の結果は計算例のようになる。微妙にずれているのである。でも、オクターブが12半音で構成されているので、ずれは極めて小さいのである。文章だけでは、分かり難いから単音や和音や唸りの波形例も示しておこう。私は電気屋だったからこんなものを多く見てきたが、以外にご覧になった方は少ないかも知れない。波のように書いてあるが空気の粗密で「波が高いところは密・低いところは粗」と考えていただけばよい。

 そもそも人間の耳は音程に対し冗長である。平均律というものは、それに加えさらに、短い音なら益々気にならない・少しの唸りなら気にならないというような、人間の耳や感覚の冗長性において存在するものなのであろうか。ピアノ音の減衰は早い、こんなことも平均律を受け入れやすくしているようだ。もし、ピアノ音がバイオリンや管楽器のように長く延ばすことができる音であったならば、平均律は聞き苦しくなるのかも知れない。いや、オルガンやエレクトーンの存在を考えるとそうでもないのかも知れない。電子技術が発達した現在、調を指定すれば瞬間的に純正律に切り替えてくれるエレクトーンなどもあるのかも知れない、などと考えてしまう。

 蛇足だが、最近はピ・ポ・パという音でダイアルする電話機が増えている。変な音だが、これは和音にならない二つの音を混合させている。一つの音では、雑音や声がダイアルに化けてしまったりするからだ。もっと汚い音はモデムの音である。海に行って岸壁にぶつかる波を見ていると、ぶつかった途端に波の相が逆転し戻って行く。こんな単純なものではないが、モデムの音はこんな形なのである。

 こんな考えも思い浮かぶ。
・そもそもボーカルが先か、楽器が先かと言えば、当然ボーカルだろう。
・人間が音程を知ったとき、ボーカルならば、当然人間の感性に合う、平均律で歌い始めただろう。
・和音にも感性で気付いたが、リニアーな声の出せる人間だから、平均律のどのような基音に対しても完全な和音を出すことができる。
・後から、楽器というものが出てきた。笛やラッパのような共鳴楽器(後述)は音程を吹き方で微妙に変えることができ歌うようなものなので、支障はない。共振楽器のバイオリンなどの弦楽器も音の調整はでき支障はない。
・ところが、ピアノのような鍵盤楽器が出てきて、はじめて問題が起こった。ある調での和音が、転調すると濁るのである。こんなところから、平均律が急激に意識されはじめた。
などと考えるのだが、どうだろうか。

 純正律と平均律に関してはいろいろな疑問が湧く。
・上手な人は平均律のピアノに引っ張られることなく純正律で歌っているのかも知れない。
・オーケストラや吹奏楽もそうだろう。
・コーラスや読経などが本当にきれいの純正律和音なのか。
などである。

 金管や木管楽器は共鳴楽器だ。ピストンの管楽器も3つのピストンですべての音が出せることを特に不思議には思わなかった。共鳴や倍音などを知っているので、当たり前程度に思っていた。前述の金管楽器の計算をしている内に、学生時代トランペットの友人がここのポジションで吹くと音が低めに出るので注意しないと、などといっているのを思い出した。計算上もそのようになる。そういえば、トロンボーンは管の長さを連続で使えるのだが、等分で管を移動することが必ずしも正確な音にならず、長い和音の場合、管長を微妙に変える方が合うことを40年ぶりに思い出す。

 ピストン金管楽器も当然平均律で作られていて、本当の100%共鳴は計算上1つのピンポイントであるのだが、実用上の共鳴に幅というものがあり(音程が共鳴ポイントより少しずれても拡声:拡音というのかも知れない:アンプ)に支障がない音程範囲がある)ので、音程は口のしめ具合で多少変えることができ、純正律での演奏が可能であるのだ。バイオリンなども完全に純正律楽器である。純正律にはならない楽器は、ピアノ・マリンバ・ギターなどである。意識的に音程をずらしながら、平均律で調律している調律師さんの能力にも感心する。今の若者の音楽は私にはわからない。少しも綺麗には感じないのだ。しかし、我々がオーケストラを聴くのと同様に綺麗に感じている若者もいるのかも知れない。和音は無限にある、聴く人によって違うのではなかろうか。こんなことを感じている。