開催日:平成30年4月21日(土)14:00〜16:00
講演・講師:「乳がん術後の生活について」井上記念病院 乳腺外科医長 椎名伸充先生

乳癌術後の生活
手術と手術後経過について

術後疼痛について
  • 乳房切除後疼痛症候群(PMPS)
  • 胸から脇、腕にかけてのヒリヒリ、チクチクとした痛み
  • 手術、放射線治療、化学療法による神経障害と言われる
  • 10年を経過しても約20%の患者さんでみられる
  • 神経障害性疼痛の一つ

〔治療〕
  • 国際疼痛学会では抗うつ薬、抗けいれん薬が第一選択薬
  • 日本ではプレガバリン(リリカR)が保険適応となっている
  • 当院では術後にロキソニンRを内服しているが、効果がない痛みの場合はPMPSの可能性があり、リリカRを試してみても良い

放射線治療中のスキンケアについて
@ 放射線治療中は日焼けをした時と同じように皮膚が乾燥し、かゆみを伴います
A こすったり、掻いたりなどの刺激はやめましょう
B 下着はやわらかいものを着用しましょう
C 感染予防のため清潔にしましょう
D 入浴中マーキングが消えないよう強くこすらないようにしましょう。
E 皮膚が熱をもったり痛みを感じるときは水でぬらしたタオルややわらかいアイスノンを当てて冷やしましょう
F 乾燥する時は乳液やローションで保湿を(軟膏は注意)
G 色素沈着は数か月から2年くらいの間に徐々に消失していきます

ホルモン療法について
@ 閉経前の方はタモキシフェンを内服します。再発を半分近く低下させることができます。内服期間中避妊が必要になります。
A 閉経後の方はアロマターゼ阻害薬を内服することでタモキシフェンよりさらに数%再発率を低下させます。

〔副作用〕
  • ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ、動悸、発汗、不眠)
  • 子宮への影響(筋腫、内膜症、子宮体がん)
  • 骨密度の低下、筋肉痛、関節痛
  • 精神への影響(落ち込み、イライラ)
ホルモン療法の副作用対策について
@ ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ、動悸、発汗、不眠)
  • 香辛料の強い食品を控える
  • 温度調節がしやすい服装にする           
  • 汗を吸収しやすい下着を着用する
  • 漢方薬や鍼治療、自律神経などを調節する薬剤
  • 別の薬剤に変更する(閉経後の方)
A 子宮への影響(筋腫、内膜症、子宮体がん)
  • 子宮体がんは過度に心配する必要はありません(800人に1人が2人に増える程度)。
  • 不正出血があれば受診を。
  • 膣炎は増加。
B 骨密度の低下
  • 定期的な運動、カルシムやビタミンDの摂取
  • 定期的な骨密度測定
C 筋肉痛、関節痛
  • マッサージや鎮痛剤の使用
  • ストレッチやウォーキング
D 精神への影響(落ち込み、イライラ)
  • リラックスが出来る時間をつくる
  • 生活リズムを整える、夜更かしせず睡眠をきちんととる
  • カウンセリングや漢方、精神安定剤など


      *カルシウム*
       (骨を作る)



            乳製品etc

    小魚etc

           小松菜etc

      *ビタミンD*
 (カルシウムの吸収をよくする)




               鰻etc
     鮭etc
化学療法について
  • 化学療法によりホルモン陽性乳がんの10年後の再発を全体で8%程度改善することができます。
  • 副作用は出現する時期が異なります。
化学療法期間中の副作用対策
@ 嘔気、食思不振
  • 投与前日は十分に睡眠を
  • 当日はしめつけるような衣服は避けましょう
  • 香水などにおいの強いものは避けましょう
  • ゆっくり時間をかけて少量ずつ食べられるものを
  • 刺激が少なく消化の良いものを(もち、うどん、プリン、ヨーグルト)。
  • 脂っこいもの、においの強いものは避けましょう
  • 冷やしたり、さまして食べるとよいでしょう
  • 栄養補助食品でカロリーや栄養素を補うのも良い
〔嘔気が出たら〕
  • 冷たい水でうがいしたり、深呼吸、腹式呼吸をしてみましょう
  • 室内の換気をしたり、音楽を聴いたりしてリラックス
  • 脱水予防のため水分補給(OS-1、スポーツドリンク)
A 脱毛
  • 髪や爪は短くしておきましょう
  • ウィッグは事前に準備を。脱毛は投与後2週間後から
    (必ずしも医療用ウィッグでなくてOK)
  • 帽子はやわらかい素材、深いものがおすすめ
  • ウィッグ、帽子選びも「似合って気に入ったもの」がベスト
  • シャンプーは低刺激のもので爪を立てずやさしく
  • ドライヤーは低温、ブラシも軟らかく粗めのもの
  • 脱毛が始まると痛みやかゆみが起こりやすい
  • 手ぬぐいを枕にまいたり、ガムテープで簡単にお掃除
B しびれ
  • 手袋や靴下を着用し保温しましょう
  • 靴下は足を締め付けない、滑りにくいものを
  • 手を握ったり開いたり、丸めたタオルやスポンジボールを握ったりなどの運動
  • 気持ちの良いと感じるならマッサージも可
  • ゴム手袋、温水で家事。カット野菜など
  • ボタンの少ない、はめやすい服を着る
  • 化学療法後も数か月から1年続きます
  • 重症化すると症状が長引くため、治療期間中も無理をせずに主治医に相談を
当院では、サージカルグローブの着用を導入をしています。
    日本で考案され、効果が証明されている方法です。
食事の重要性
乳がんの場合、発症や再発リスクに食事が関わります。
〔良いとされているもの〕
  • 乳製品(肥満をまねかない程度)           
  • 大豆食品(イソフラボン)(納豆、とうふ、豆乳、ゆば、おから)
  • ビタミンDを含む食品(青魚、紅しゃけ、しらす、きくらげ、しいたけ)
  • 魚類(EPAエイコサペンタエン酸 DHAドコサヘキサエン酸)
サプリメントの形で多量に摂取する効果と安全性は不明なので
食事からとることを基本としましょう。
〔リスクとされているもの〕
  • 肥満
  • アルコール
  • 肉類
運動の重要性
〔効果〕
  • 運動は乳がんの再発(25%減)や死亡リスク(35%減)を下げます
  • 全ての病気による死亡リスクも40%も改善させます
  • 身体のあらゆる症状、不安や抑うつも低下させる
  • ケモブレイン(抗がん剤による記憶力、思考力低下)に有効
  • 家族や友人と良好な関係を保てるというデータもある
〔方法〕
  • 少し汗ばむくらいのウォーキングや軽いジョギングがおすすめです
  • ストレッチバンドを用いたチューブエクセサイズ
仕事について
乳がんになっても仕事は継続できます。気が紛れたり、日々に張り合いが持てるメリットがあります。周りに迷惑をかけるからと言ってすぐ辞めたりせずに、上司や産業医に相談し、勤務時間や作業環境の調整をしましょう
〔具体的な調整方法〕
@ 就労規則(私傷病休暇の活用)や福利厚生制度の確認。
A 復帰までのおおよそのプランを職場に伝えておく。
B 手術後、事務仕事は退院後より可能です。身体を動かす仕事は日常生活に慣れてから再開しましょう(退院後1-2週間経ってから)。
C 放射線治療中は勤務時間の調整で対応。
D 化学療法中、投与後1週間は重要な仕事を入れない(体調が悪い時、無理せず休める環境に)。
「周りに迷惑をかけているかもしれない。」という考えはかえって焦ってストレスや疲労を感じてしまいます。治療期間中は周囲の支えに甘えて大丈夫です。元気になったら逆に困っている人を助けてあげてください。
大豆製品
心のケアについて
  • 落ち込んだ心は次第に元に戻ってきます。しかし落ち込みや不安からなかなか立ち直れない場合、主治医に相談してください。







  • 過去に気持ちを取り直した方法を思い出してみましょう。
  • アロマテラピーや音楽など自分がリラックスできる方法を試してみましょう。
  • 頼って話せる医療者や家族、友人、患者会など自分の病気を理解できる人に話を聞いてもらいましょう。→ももはな会を利用しましょう。
  • 精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)の紹介と診察により、薬物療法や気持ちに寄り添う支持療法、ネガティブな考えを修正していく認知療法、リラクゼーションなどの治療があります。
日常を取り戻しましょう
  • 乳がんを治療し、身体の変化、家族や友人との関係、仕事への取り組み方など色々なことが変わったと思います。
  • ただ乳がんになったらからといって、ずっと「病気(気を病んで)」でいることはありません。
  • 治療が終わったら徐々にいままでの生活を取り戻していってください。
  • 家事や仕事や友人関係、趣味など今まで支えてきたもの、支えられてきたものを再び感じて下さい。
  • きっと新たな発見があることでしょう。「きっと悪いことばかりじゃないと思う」のです。
  • ももはな会では少しでも早く皆さんの笑顔が見られるように、また人生の深い何かを一緒に感じられるような企画をしていきたいと思います。
  • 会を盛り上げていきましょう。これからも宜しくお願いします。
2018.11.20 ももはな会事務局