橋本病(慢性甲状腺炎)

 慢性甲状腺炎と橋本病は同じ病気の別の呼び方です。近年は外国でもHashimoto's Thyroiditis(ハシモト甲状腺炎)で通りますので橋本病と覚えてしまう方がいいように思います。

 どんな病気なの?
 病気のことをきちんと理解し、注意をしていれば決して恐ろしい病気ではありません。女性には非常に多く認められる病気で男性の20〜30倍の頻度です。くだけた言い方をすれば甲状腺が普通の人より大きくホルモンの乱れやすい体質と思って付き合っていただくのでよいと思います。
 人間の体は、体に害となるものを覚えてやっつける力があります。一度かかった病気に次はかからなかったり、かかっても軽く済むのは一度体に入った敵を体がしっかり覚えこれをやっつけるように働くからです。この作用を免疫と呼びます。ところが原因はわかりませんが、体が自分の甲状腺を「敵」と勘違いして覚え込んでしまうことがあります(自己免疫)。こうなると自分の免疫が自分の甲状腺を徐々に(=慢性)壊していってしまいます(炎症)。
甲状腺が破壊されても痛みは無く、「甲状腺がすこし腫れているかな」と感じる程度のことが普通です。しかし、甲状腺は体の新陳代謝を調節する甲状腺はホルモンを作り、さらにそれを貯蔵するという大切な働きをしています。甲状腺があまり壊されるとホルモンが十分作れなくなってしまいます(機能低下症)。この様な場合は不足するホルモンを薬で補ってやらねばならなくなります。橋本病の約半分の人は一生の間のどこかで薬が必要になると想像されています(一時的に必要なだけのこともあります)。
 有名なバセドウ病と橋本病は親戚のような病気で、橋本病の人が途中でバセドウ病になったりすることもあります。また、血のつながった方の中にバセドウ病か橋本病の方がいることが稀ではありません。

 どんな症状がでるの?
 橋本病自体の症状は甲状腺を触ると腫れている程度で他にはほとんど感じられません。
 ホルモンが不足すると新陳代謝が低下します。すると「食べないのに太る」、「寒がりになる」、「便秘」、「手足の皮膚がかさかさ乾いた感じなのにむくみっぽい」などの症状がでてきます。しかし、ホルモンが徐々に不足した人は体が慣れてしまい何も感じないことがたくさんあります。ひどくなると心臓の働きが落ちて苦しくなったり、物を考えるのが遅くなり痴呆と間違われたり、さらには全身がむくんでしまう粘液水腫と言う状態になったりします。
 逆に甲状腺が壊れて一時的にホルモン漏れ出て過剰となることもあり、この場合は「イライラする」、「動悸がする」、「下痢」、「やせる」等の症状がでます。症状はバセドウ病とそっくりですが治療は全く異なりますので専門医による診断が必要です。

 治療
 ホルモンのバランスに乱れが無ければ治療は不要です。ホルモンが不足した場合はホルモンを不足する分だけ飲み薬として補います。薬は甲状腺の働きがもどれば中止できますが、一生服用しなければならない人もたくさんいます。橋本病の人に生じるホルモン過剰は多くの場合自然に治りますのでホルモンを下げる薬は使いません。

 生活上の注意
 ホルモンのバランスの乱れは自覚症状のみでは見逃される可能性が高いため、ホルモンが正常でも半年から一年にいっぺんホルモンの検査(血液検査)を受けて下さい。出産後などは特にホルモンが乱れやすいので、妊娠したことが分かったら一度専門医に相談して下さい(きちんと管理された橋本病は妊娠出産にはなんら悪い影響はありません)。また、急に甲状腺が大きく腫れたり、痛みが出たりした場合や症状のところで述べたような全身の症状が気になる場合もホルモン検査にいらっしゃって下さい。生活上の注意は有りません。強いてあげればヨードを含む海草類(特に昆布)をとりすぎないようにすることくらいです(無理して制限する必要はありません)。ヨードは甲状腺ホルモンの合成を低下させる働きがありますので取りすぎると機能低下になりやすいのです。(ヨード不足を心配する方がいますが日本人の食生活でヨードが不足することは無いと言ってしまって良いでしょう。)

川上診療所
千葉大学第二内科 内分泌研究室



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