この半年で一番大きな発見は「ローゼン・クランツ（カイザー・サウンド）」のインシュレーターとの出会いです。私が今まで最高だと感じていた「熱研・ブラックメタル」が「不要な響き」を完全に消してしまうのに比べて、この「ローゼン・クランツ」のインシュレーターは「響き」を残すのです。今まで、私は「響き」が残る「音作り」は必ず音楽を作り替えてしまうので「絶対に良くない」と考えていました。しかし、「響き」を消せば消すほど、音楽の鳴り方がクールになり客観的になるのは否定できず、「響き」を抑え音を研ぎ澄ませば研ぎ澄ますほど、「心地よさ」と「緊張感」が両立しなくなる「ジレンマ」に悩まされていました。

　この問題を「一挙に解決」してくれたのが「ローゼン・クランツ」のインシュレーターです。このインシュレーターは「響き」を残しながらも、その「響き」を音楽に色を付けない「無害な響き」に変換してくれるのです。　ローゼン・クランツ製品の試聴結果をご報告しましょう。「音楽」を試聴に用いることは「好き嫌いの判断にしかならないのでダメだ」ということは何度も説明してきました。そこで、最近は「環境の音」をテストソースに用いますが、中でも「せせらぎの音」は大変良いテストソースになります。「水の流れる音」や「鳥の声」は、何万年も前から私達の体に染みついていますので、ほんの少しの音の変化も十分に感じ取ることが出来ますし、どんな人に聴かせても「ほぼ完全に評価が一致」します。なぜなら好き嫌いとは無関係に「自然か？」それとも「不自然か？」そのどちらにしか評価が分かれないからです。

　私が最良にセットしたオーディオセットで、この「せせらぎの音」を聴くと「凛と張りつめた空気の中を清流が流れている」イメージが湧いてきます。非常に研ぎ澄まされた山奥の渓流、それも身が切れるような冷たい水の流れる川のイメージです。「ブラック・メタル」に変えて「ローゼン・クランツのインシュレーター（全製品に一貫した音作りがなされていますので絶大なる信頼を感じています）」を使用すると、まず「川幅と回りの空間」が穏やかに広がっていることに気がつきます。「響き」が増えるのですから「情報量」も増えて当然です。そして、川の水が「磨き抜かれた清水」から「柔らかみのあるミネラルウォーター」に変化します。季節が晩秋から初春に変わる感覚です。ふと気がつくと、「客観的に川を観察していた自分」が、いつのまにか「河原に立っている」ことに気づきます。これほど自然な音のバランスは今まで知りませんでした。肩の力が抜けて、心が生き生きと活動を始めるではありませんか！たった、インシュレーターで音が大きく変わるのは知っていましたが、これほどまでに「音のバランスが完璧に揃う」というのは初めての経験でした。これで、「心地よさ」と「緊張感」を両立させるジレンマに悩まなくてすむでしょう。

　しかし、音の変化に対する論理を組み立てられなければ、いつまで経っても感覚だけで音を聴かねばなりません。それは、職業柄私には許されません。「感覚」のみでは「量産設計への導入」や「正確なアドバイス」が出来ないからです。「謎」を説くべく、毎日毎日ずっと頭の隅でこの出来事を反復し考え続けました。いくら考えても良い説明方法が浮かばなかったのですが「車のデザインに関する記事」を読んで、目の前の霧が晴れるようにインスピレーションが閃きました。そこには「直線を生かすには柔らかな曲線」を「曲線を生かすには鋭い直線」を用いればよいと書かれていたのです。これこそ、今まで悩み続けた「音作りのジレンマ」を解決する魔法の呪文です。私はシャープさを重視するあまり「曲線」を嫌いすぎていたのです。「直線的な造形」を主体としすぎると、音楽はクールに客観的になってゆき、逆に「曲線的な造形」を主体にすると「緊張感」が殺がれてしまうので、両立は不可能と考えていたのです。

　磨き抜かれたすばらしくシャープな「ＡＩＲＢＯＷの造形」に、ローゼンクランツ製品は「たった一本の曲線」を描くことで「緊張感を更に際だたせながら、安心感や温かさ」を付け加えてくれるのです。ローゼン・クランツとＡＩＲＢＯＷの組み合わせは、間違いなく史上最強のコンビだと実感しています。

　謎が解けた後では「非常識？」と感じたほどの高価なインシュレーターの価格を十分に納得出来るようになりました。なぜなら、「無機質な音楽」に「命」を吹き込む「芸術」には代価を支払ってしかるべきです。もし「ローゼン・クランツ製品」を高価にお感じになられるなら、「ＡＩＲＢＯＷ製品」だって恐ろしいほど高価な工業製品かも知れません。しかし、ＡＩＲＢＯＷ製品を高価すぎるとお感じになられないなら、きっと「ローゼン・クランツ製品」の価格も十分に御納得いただけるはずです。