真空管アンプとトランジスタアンプの音質と性能比較リポート アンプはコンポーネントの心臓部。当然、その選択はとても難しく、また楽しいことでしょう。 今回は、実際に使用される状態に近い負荷をかけてテストしました。 使用機材をご紹介いたしましょう。
比較したアンプ
概要 特徴
概要 特徴
概要 特徴
概要 特徴
概要 特徴 低域再現能力テスト 真空管アンプとトランジスターアンプの最も大きな違いは、「アウトプット・トランスの有無」です。「アウトプット・トランス」とは「磁気結合により信号を伝える」ことを示しますが、この方式では「周波数が低くなればそれに比例して、出力の低下・歪みの増加」が避けられません。 従って、「能率の低い小型スピーカー=アンプの駆動力を必要とするスピーカー」を駆動することが理論的には難しくなります。 低域再現能力は、真空管シングル(300B/859)<真空管プッシュ(V20)<トランジスタ−(C7i+M7i/VA80)となるはずです。 まずアンプの出力を一定にするため、CDからホワイトノイズ/−20dBを入力してスピーカーを駆動して(音を出しながら) ずいぶん、小さな音のように感じられるかも知れませんが、CDの録音レベルによっては「静かなリスニングルーム」で時としてボリュームを下げなければ周りが気になる位の音量は出ます。この設定は、通常家庭で使用される程度の音量です。
この表は実際に0dBの各周波数の正弦波を入力し、測定したスピーカー端子の交流電圧(単位はV)をテスターで測定した簡易な実験ですが、アンプのスピーカー駆動能力のある程度の傾向はつかめるはずです。また、この程度の実験なら誰でもできる(追試も可能)と思います。 「音源」は、テスト信号が録音されたCDソフトを使用しています。この装置で発生させる「20−20KHz」は、DACの開発時に、きちんしたデーターがとられており、簡易ではあっても「信頼できるテスト音源」になり得ます。 一番上の行にある、「−20dB」は、ホワイトノイズ−20dB入力時の出力電圧です。LUXMANのみ電圧が異なるのは、ボリュームがアッテネーター方式であったため、同一にできなかったものです。 出力電圧は、ほぼ出力音圧(音の大きさ)に比例しているとお考えいただいて差し支えありません。実際の聴感もこの表とほぼ同じでした。電圧が低いと言うことは出力が小さいと同時に、「歪みも大きい」ことを示しています。10KHzを越える、高い周波数ではどのアンプも出力電圧が低下していますが、これは「スピーカーのインピーダンスの上昇」によることも大きいと思います。この辺りは「テストベンチ」では、決して再現しない現象です。 ウッドハムの公称・出力周波数特性 10Hz−50KHz(+3dB−3dB)という数字は、ぎりぎりの線だと思われます。ただし、フィードバックをかけない(無帰還)のシングルアンプであることを考えれば納得できます。 低域の再現を他の4台は、だいたいクリアーしています。トランジスターアンプ2台の特性がよいのは当たり前ですが、V20の低域の出力低下の少なさが目を引きます。 実際の低音や音質はどうでしょうか? テストに際して、すべてのアンプは「5時間以上」ヒートアップされています。ただし「300B」だけが「十分にエージングを完了している」とは言えない状況であったことを前もってお断りしておく必要があると思います。 チェンバロのソロ(エディット・ピヒト・アクセンフェルト/バッハ:パルティータ全集/カメラータ:20CM−464−5)
最初の項目、「各弦の分離」でアンプの解像力が判ります。この項目の評価が高ければ、細かな音が聞こえることになります。 次の項目、「直接音とエコーの分離」で微少信号の分解能が判ります。この項目の評価が高ければ、「交響曲のフォルテ」で十分に音像が広がり、空間が広く取れると判断できます。しかし、組み合わせるスピーカーやCDプレーヤーでこの結果は変わりますのでご注意下さい。 「直接音とエコーのバランス」で「音楽全体への色づけの度合い」を判断できます。 「右手と左手の分離」で「低域と高域のバランス」が判ります。この項目の評価が高ければ「全体のバランスがよい」と判断できます。しかし、分離が悪いということは、「ある種独特の一体感」を生むのでポイントにはまれば、非常に魅力的な音作りができるでしょう。 「全体のバランス」。これは個人的なイメージです。評価が高ければ「正しく音楽を聴ける」と判断して下さい。 また、このテストは「優劣」の判断基準ではありませんし、テスト結果は「あくまでも感覚的な印象」に基づいています。 教会での女性の歌声(アカペラ・ソロ)(カンターテドミノ/PRCD7762の10曲目です)
真空管アンプは、それぞれ「独特の艶」がのります。この「艶」が好みの分かれるところです。 しかし、この「独特の艶」こそ真空管アンプの持てるすべてであるといっても過言ではないはずです。時として「刺激過ぎる音」を真空管が和らげ「あたかも包み込むような一体感を音楽に与え」て心地よい世界に誘ってくれるでしょう。緊張感を殺ぎ、一体感をかもし出し、あなたをリラックスさせてくれるでしょう。 コンサートの座席に例えるなら、真空管アンプは「一階席中央から後ろより」ないし「2階席の中央」辺りに例えられるでしょう。音はやや濁るかも知れませんが「ホールとの一体感」が心地よい座席です。比較してトランジスターアンプは「一階席前より」ないし「二階席・ベランダ席最前列」辺りの音です。楽器のきしみ、いわゆる「松ヤニの飛び散るような音」を出すことができますが、「CDの録音や演奏がまずい」と、その「傷」をカバーしてくれる優しさは持ち合わせていません。ただし、その「厳しさや正確さ」の中にこそ「音楽の神髄」が隠されているのです。音楽から何かを「強く学び取ろう」とされるなら、良くできたトランジスターアンプが有利です。 リスニングルームを「コンサートホールのどの座席にするか?」 タイタニック・サウンドトラックより15曲目
最後の締めくくりに、最新版「タイタニック」のサウンドトラックより15曲目を聴いてみました。このサウンドトラックは「PMCのモニター」を使って本当にお金をかけて作ってある音です。また、電子音と人間の肉声、アコースティックな楽器の音がミックスされていますが、それぞれ良く考慮されお互いの良さを引き出すよう作製されています。 このソフトを「心地よく」再現することはさほど難しくありませんが、このソフトを「正確」に再現するには「音の精度=物理特性」も高くないと駄目なのです。 出だしの「低音部」は50Hz以下の「低音再現性」のテストに最適です。B&W802S3ではぎりぎりの線です。この低音を量感豊かに再現できれば「低音の量」は確保できているといえるのですが「音階・音程」が明瞭に聞き分けられなければ「量があっても歪みが大きい」といえるのです。 V20はその代表例です。「量は確保」できていますが「低域のダンピングが不十分」で「音階が不明瞭」です。もっとも再現性が高いのは「ラックス」ですが、このアンプは中高域が「やや粉っぽくなる」という、ハイパワー・トランジスターアンプに共通する欠点をかかえています。しかし、この結果は「あくまでも、「B&W/802との組み合わせにおけるテスト結果」です。スピーカーを変えれば、結果は変わることもあります。 次に「女性の声が長いエコーを伴って」聞こえてきます。このエコーの長さで「アンプの聴感上のS/N感」が判断できます。 つまり、300BとV20はアンプ内で「何らかのエコー」が付加されたとご理解下さい。 「声の表現」は、そのまま「アンプの色気・艶っぽさ」に通じます。この項目の評価は、そのアンプの「音楽に対する表現力」であるとお考えいただいて差し支えありません。 もう少し曲が進むと「リード楽器」と「笛の音」が入ってきますが、この二つの音をどれだけ分離できるかで、そのアンプの「異なった音の楽器の分解能」の高さが判ります。なぜなら「どちらの楽器も管で音が共鳴します」がその音波の発声が「根本的に違う」からです。「リードは鋭い音の成分」が強く「笛は柔らかい成分が多い」のです。 リードと笛の分離が悪いと、アンプの音の立ち上がりが遅く「多くの楽器が重なったとき、音が混濁する可能性が高い」ことを示しています。このテストで300BとV20の評価が低いのですが、逆に「きつすぎる音を和らげてくれる=音が柔らかい」と評価することもできます。 「バックと笛の分離」の項目は、「似通った楽器の音の分離」を示しています。この項目での評価が低いと、「楽器の数が増えたとき分解できなくなる可能性」が高くなりがちです。やはりこの項目での評価が低い300BとV20は、どちらのアンプも「ある種の混濁感」が存在することを示めしています。しかし、「混濁感が強い」ことは「楽器の響きに一体感がある」と評価することもできるのです。善し悪しの問題ではなく、ステージから「300Bの座席が一番遠く」ついで「V20の座席が遠い」ことを示しているとお考え下さい。 その他の項目はご覧いただいたとおりです。「全体の抑揚」が大きいと「音楽の躍動感」は大きくなるでしょう。 総括コメント 今までのすべてのテストは「できるだけ好き嫌いを交えず」公平に行ったつもりです。そして、すべての項目での評価は「アンプの性能や音質を決定付ける」ものではないことをご理解下さい。 評価が高ければ「音や音楽への色づけが少ない」ことは間違いありませんが、評価が低いことは「音が悪い」のではなく「個性的な音作りがなされている」とお考え下さい。 完璧な「再生装置」などあり得ません。また「人によってその完璧=求める音」もまったく違うのです。お皿で料理の味が変わって感じられるように「オーディオ機器も外観の好き嫌いで音が違って聞こえる」かも知れません。 いずれにしても「組み合わせるスピーカー」によっても音は変わるでしょうし、これだけのテストで「ある程度の指標」は示せると思いますが、「実際にアンプをお選びになるときには必ず試聴の上ご確認」を御願いしたいと思います。 「あなたが聴く」ものは、「あなたが選ぶ」それが「趣味」のすべてなのですから。 追記 98年12月5日に、Woodham 300Bを2台使って、「モノラル」での試聴を行うことが出来ました。 帯域が広がり、繊細さが増し、立ち上がりが早くなり、力感が増し、癖がとれてバランスが良くなり・・・ このアンプは、本来「モノラルで使用」することを念頭に設計されているに違いありません。 また、モノラル・ステレオにかかわらず、「プリアンプ」を必要とするようです。 2台の販売価格を考えると、手放しではおすすめできませんが、「Woodham-300Bをモノラル」使用すれば、「300Bファン」のあなたの期待を、決して裏切らない、「透明で品位の高いウエスタン300Bの音」を聴かせてくれる「本物の300Bアンプ」であると断言できます。 |
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