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阪南中央病院労働組合の要求/見解/主張



 特集 「医療職場に労働法を!」
〜医療業界を労働法を守って当たり前の世界に変えよう!

[目次](1)
 
はじめに
 序 労働基準法の基本原則
 第一回  労働時間・時間外労働
  【1】労働時間・時間外労働の考え方
  【2】「労働時間」判断基準と具体例
  【3】看護業務と「労働時間」
  【4】新人の残業、教育・研修
  【5】「労働時間」に能力や効率性は一切関係なし
  【6】自己申告制の問題点―過少申告=不払い残業の温床になる危険

 はじめに

 ■相次ぐ問題提起

 組合では、5月から「医療職場に労働法を!」キャンペーンに取り組みます。医師・看護師はじめ医療従事者の過重労働の改善は待ったなしの課題であり、労働組合が先頭に立って現状を訴え、改善の取組みを進めなければならないと考えるからです。
 先月、日本看護協会から「時間外勤務、夜勤・交代制勤務等緊急実態調査」の結果が公表されました。この調査は、昨年10月の2人の看護師の「過労死」の公務災害認定判決(大阪)と労災認定(東京)を受けて、日本看護協会が全国の看護師(1万人)を対象に実施したものです。結果は、交代制で勤務する23人に1人(約2万人)が過労死危険レベル(交代制勤務+月60時間を超える時間外労働)での勤務実態を強いられているという、看護労働者の置かれている深刻な実態の一端を明らかにしました。日本看護協会は、この結果を受けて、患者の安全と職員の健康を守る運動「ナースのかえる・プロジェクト」を提唱しています。
 また医師からは、医師・研修医の過労死・過労自殺が相次いでいる過酷な実態を社会に訴えるため、医療現場における「名ばかり管理職」問題で労働基準監督署に是正指導を求める申告や、労働基準法に反する違法な「当直」の実態を裁判に訴えるという形での告発が行われています。昨年には医師の診療環境の改善を軸に活動する「全国医師連盟」が結成されています。
 医療福祉現場の労働組合は、医療従事者の過重労働改善を求めるこれらの動きに立ち遅れずに、長時間労働と過労の防止の取り組み、とりわけ労働基準法はじめ労働法令を順守徹底させる取り組みを、本腰を入れて取り組まなければなりません。これこそ労働組合が今、真っ先に取り組むべき課題です。
 
 ■医療業界全体の意識改革を

 以前から医療業界は、労働基準法についてのコンプライアンス(法令遵守)意識が弱いと指摘されてきた業界です。これまで、医師、研修医、看護師の過労死裁判がいくつも闘われていますが、被告である雇用者や代理人たちが振りかざすのが「聖職意識」や「専門職意識」です。「医師は聖職だ」「専門職なんだからそれぐらい我慢して克服すべき」云々(労基法なんて関係ないといわんばかりに)。だから過労死・過労自殺の責任は本人の「自己責任」との論法が必ずといっていいほど出てきます。私たち医療現場で働く労働者の中にも、どこか医療の世界は労基法の及ばない特別な世界、などという意識がありはしないでしょうか。しかし当然のことながら、医療は労基法の適用外の「聖域」ではありません。「医療職場に労働法を!」―この呼びかけは、医療現場の一人ひとりの意識改革をも求めるものです。

  ■根本原因は、政府の医療費抑制策

 医療職場に労働ルールの徹底を求める運動は、一病院の経営側に迫って改善できる問題と、一病院の努力では解決できない問題があります。医療機関の多くは、政府厚生労働省の長年にわたる医療費抑制策で、ギリギリの人員で現場を回さざるをえなくなっているからです。特に医師・看護師の人員不足は、長時間過重労働の根本的な原因です。ですから、このキャンペーンは政府厚生労働省に対する、医療現場に労働基準法を守れるだけの予算と増員を求める運動として、ストップ「医療介護崩壊」の運動の一環として取り組みます。
 まずは自分たちの足元を点検・改善しましょう。そして、労働組合が先頭に立って、医療業界全体を、労働基準法はじめ労働諸法令を守って当たり前の世界に変えていきましょう。


 序 労働基準法の基本原則

 個別のテーマに入る前に、まず労働法制の中核をなす労働基準法(以下、労基法)の基本原則を、いくつかのポイントを絞って押さえましょう。

 ■医療従事者も、使用され、賃金を支払われるものは「労働者」である

 労基法は、労働者を使用する事業または事務所には原則としてすべてに適用されます。これは医療機関も当然含まれます(保健衛生業という業種区分)。そして「事業又は事務所に使用されるもので、賃金を支払われる者」は労基法上の「労働者」です(第9条)。つまり、労基法が適用され、その保護を受けるということです。医療従事者も、使用されて賃金を支払われる「労働者」である以上は、当然に労基法をはじめとする労働諸法規の保護の対象です。これは当たり前のことですが、最も大事な出発点です(なお、労働時間・休憩・休日に関する適用除外を受ける「管理監督者」については、後に「名ばかり管理職」を特集する際に触れます)。

 ■労基法は、労働条件の最低基準であり、これを下回るいかなる取り決めも無効である

(労働条件の原則)
第1条 労働条件は、労働者
が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。


 労基法は「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき」労働条件の最低基準です。しかしだからといって労基法に合わせることを理由に労働条件を切り下げてはならず、これを上回るよう努力することを求めています。
 労基法は強行法規、つまり法律関係の当事者の意思に関係なく適用される法律です。この法律で定める基準に達しない労働契約、就業規則、労働協約はその部分については無効となり、労基法が適用されます。労基法は、どのような労使の取り決めや職場のルールもこれを下回ってならないものなのです。このような労基法の効力を「規範的効力」と言います。

 ■労基法違反の多くは刑事罰を科せられる

 労基法は労働条件の最低基準なので、これに違反すると刑事罰が科される条項が多くあります。一番重いのは第5条の「強制労働の禁止」違反。「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」。今回取り上げる不払い残業=第37条違反は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」。違反が発覚し、あまりに悪質であったり、何度是正勧告しても改善がなされない場合には、書類送検や逮捕という事態もあります(労働基準監督官は、労基法違反の犯罪について逮捕権等をもつ司法警察官の職務を行うことができる)。処罰の対象は「使用者」ですが、現場レベルの上司が含まれる場合もあります。
 
 ■労基法を働くものの権利を守る武器に

 労基法は医療業にも適用され、事業に使用されている医療従事者は「労働者」です。労基法は、私たちの労働条件の最低基準であり、これに違反すると刑事犯罪になることもある、最も強い効力をもった労働ルールです。労基法には、変形労働時間制など8時間労働の原則を崩す例外もあり、これはいただけませんが、労働者を保護する基本精神そのものは変わっていません。ですから私たち医療労働者は、自分たちの労働条件を守り、向上させていくために、労基法を武器にすることができます。使用者・管理者に法違反があれば、すぐに是正を求めることができるように、労基法を熟知していきましょう。

 第一回  労働時間・時間外労働

 第一回のテーマは、「労働時間・時間外労働」です。このテーマを第一にとりあげるのは、「労働時間」についての捉え方がルーズなことが、長時間労働や賃金不払い残業を蔓延させ、過労による健康障害や過労死・過労自殺を引き起こす原因になっているからです。

【1】労働時間・時間外労働の考え方

その1 時間外労働は本来、行ってはならない

 まず本来は、時間外労働(超勤、残業)は認められていないものであるということを確認しましょう。

第32条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。


 使用者は労働者を、1日8時間、週40時間を超えて働かせてはならない、これが大原則です。
 しかし例外として、第36条で、使用者と労働組合(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者)との書面による協定(いわゆる36(サブロク)協定)をし、これを労働基準監督署に届け出た場合においては、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができることになっています。36協定を出さずに、労働者に残業をさせるのは、即法律違反です(36協定を出さずに平気で残業させている医療機関もあります。もし転職する場合は必ず確認すること)。

その2 割増賃金は使用者へのペナルティ&警告

 36協定を出しているからといっても、あくまで時間外労働は例外的なものにとどめるべきというのが、労基法の考え方です。法37条では、時間外、休日又は深夜の労働に対して割増賃金を支払う義務を課しています(いわゆる「残業代」「残業手当」「超勤手当」、夜間は「夜間勤務手当」。時間外は2割5分以上、休日は3割5分以上、深夜は2割5分以上)。なぜ割増なのか、それは、使用者にペナルティを課して、時間外・休日、深夜の労働の抑制を図り、過重な労働に対する労働者への補償を行わせるという趣旨です。つまり時間外割増賃金は、時間外労働をなくせという使用者への警告なのです。超勤手当をもらうためだけでなく、超勤を減らすためにも、きちっとつける意識を持ちましょう。
 
その3 時間外労働は減らさなければならない、しかし残業申請をさせないのは違法
 
 時間外労働はあくまで例外的なものにとどめるべきという労基法の精神に照らして、時間外労働が日常的に行われている日本の医療現場はやはり異常といわざるをえません。可能な限り、労働は1日8時間、週40時間以内にするよう労使ともに努力すること、これがまず第一です。
 しかし、それは時間外割増賃金の申請をしない・させない、ということでは決してありません。賃金不払い残業(サービス残業)は法37条違反であり、時間外労働の実態を覆い隠し、長時間労働と過労死の温床となっています。長時間労働・時間外労働の実態をありのままに明らかにし、これを減らすためにも、法令に則った申請と支払いが行われなければなりません。

【2】「労働時間」判断基準と具体例

労働時間は使用者の指揮命令下にある時間

「労働基準法…32条の労働時間…とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによって決定されるべきものではないと解するのが相当である。」(最高裁判決H12・3・9)

 労基法上の「労働時間」は、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」です。しかも、その判断は、労働契約、就業規則、労働協約よりも、「指揮命令下に置かれた」実態をもって「客観的に定まる」ことになります。職場の決めごとよりも、実態優先です。

「当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が指揮命令下に置かれていないものと評価することができる」(最高裁判決H14・2・28)
 
 「使用者の指揮命令下」とは、そばに上司がいて監督している時間というわけではなく、使用者による直接・間接の業務命令があり、それを怠ると使用者により不利益な取り扱いを受けるために、怠ることが許されない時間です。つまり、労働義務や、業務の場所的・時間的拘束から完全に解放されていない限り、指揮命令下にあるといえます。

なにが「労働時間」と判断されるか

 実際に労基法上の労働時間にあたるかどうかが問題となり、裁判となったケースの判例を見てみましょう。(以下のこの項は「働く人のための労働時間マニュアル」(日本労働弁護団)を参照した)

入門と退門
 事業場に到着して入門した時点から、作業服および安全保護具着用のために更衣室まで移動する時間は、労働時間にあたらない。

準備時間(作業服の着替え、保護具の着用など)
 作業にあたって作業服・制服・安全保護具の着用が義務付けられている場合はその時間は実労働時間にあたる。朝礼、体操への参加が、業務のために事実上、強制されている場合はその時間は実労働時間にあたる。参加が自由であり、不参加に何らのペナルティもない場合にのみ実労働時間にあたらない。

後始末時間(作業服・保護具の着替え、整理整頓、洗身)
 作業服・保護具の脱衣脱着時間も実労働時間にあたる。洗身・入浴は、汚れがひどい場合は労働時間とすべきである。

昼当番
 昼休みに、来客・電話対応のため、ローテーションにより居残る場合、居残り時間は実労働時間である。

教育、研修、訓練、小集団活動
 使用者が実施する教育、研修、訓練については出席しなければ不利益が科せられるというような場合は実労働時間である。まったく強制の契機がなく、自由参加であれば労働時間にはあたらない。小集団活動が、自主参加をうたい文句にしても、不参加について理由が問われたり、人事考課上のマイナスに査定される要素となる場合には、事実上の強制があり実労働時間である。

黙示の指示、自発的残業
 労働時間は使用者の指揮監督下の時間であり、黙示であっても指揮監督下であるといえれば実労働時間である。また、労働者が終業時刻以降も就労しており、上司がそれを知って放置しているような場合も指揮監督下の労働となる。

自宅持ち帰り残業
 上司などの明示の命令による場合であれば、労働時間に該当する。上司の明確な指示がない場合でも、翌日までに仕事を完成させなければならず、物理的に事務所が使用できなくなるなどの事情がある場合には、黙示の命令があると考えられ、実労働時間になる。

仮眠時間
 労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保証されていて初めて、労働者が使用者の指揮下におかれていないものと評価することができる。したがって、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には、労働時間にあたる。

【3】看護業務と「労働時間」

 では、医療現場で何が「労働時間」と認められるのでしょうか。

看護師・過労死裁判にみる「労働時間」

 今回の日本看護協会の調査のきっかけになった、2001年に国立循環器病センターで過労死した看護師・村上優子さんの過労死裁判(ちなみに私たちの組合員も原告の立証活動に協力)において、時間外労働と認定された業務を紹介します。阪南中央病院において、組合の啓発や要求によって改善されている点も多々ありますが、そうでないものもあります。検討し改善のたたき台にしましょう。

【それぞれの判断は次のもの】
(1)…2004年10月25日大阪地裁判決
(2)…2003年7月人事院見解
※なお「公務」との表現は国立病院の職員であったことによる。

始業開始前の情報収集
・各看護師が自主的に行っていたと評価できるものはなく、それに要した時間は、当然労働時間として扱うべきものである。(1)
・始業時間前の情報収集については、H3年山形大学農学部の事例で労働時間との判断が出ている。勤務に必要な情報収集であれば当然。(2)

看護研究
・看護研究は看護業務の一環であり、看護研究に要した時間も労働時間に含まれる。(1)
・看護研究でも、施設管理下(施設内)であれば労働時間である。自宅への持ち帰りの仕事であっても、成果物があれば労働時間。(成果とは、自宅での作業結果がわかるもののこと)(2)

プリセプター業務
・(新人)看護師に対する指導は、病棟においては組織的・計画的に行われており、看護業務の一環をなすものということができ、指導に要した時間も労働時間として評価すべきである。(1)

病棟相談会・チーム会
・病棟相談会・チーム会は、自主的な会合ということはできず、看護業務に付随する業務であって、これに要した時間を労働時間として評価するべきものである。(1)

看護計画、退院・転院サマリー
・これらの業務に要した時間を労働時間として評価すべきことは当然のことである。(1)

勤務終了後の看護記録への記入
・記録が自主的業務とは理解できない。(2)

 なお、2008年1月16日の大阪地裁行政裁判判決では、以上の他に次にあげる「本来の看護業務以外の業務に要した時間」が「公務」=「労働時間」として認定されています。なおこれらについて被告・国は自主的に行われている活動であり公務にあたらないと主張していましたが、この主張は退けられました。原告側が主張したもので、唯一「公務」と認められなかったのは、職員互助会の活動であったクリスマス会に要した時間のみでした。(以下、項目ごとに判決文を要約)

消耗品係
 病棟目標「医療物品・消耗品の適正な管理を行う」を達成するために行われているので公務と認める。

教育委員会
 看護研究発表会を主催したり、センター内の看護師の研修を行うなどしており、公務と認める。

クリティカルパス勉強会
 勉強会での成果物が平素の業務で利用され、実際に使用されていた。看護師個人の知識や能力を高める自己研さんと見ることは困難。参加は看護師の自主的な取り組みでなく公務。

研修会等
 公務としての出張扱いとなっている。

大掃除
 病棟において、日程と担当を決めて行っていた。

 判決によると、村上さんの時間外労働時間は月50〜60時間に上っており、この量的過重性と交代制の不規則勤務の質的過重性を認められて「公務災害」と認定されました。しかし、亡くなって遺族が裁判で争って勝たないと「労働時間」と認められないのは、全くおかしなことです。生きて働いているうちに法令に基づいて、これらを労働時間と認め、長時間労働の実態をありのままに把握し、過重労働の改善を適切に行うことが使用者には求められていたはずです(安全配慮義務)。
 私たちが今できること、やらなければならないことは、看護師の過労死を繰りかえさないために、いのちを犠牲にして証明された看護師の「労働時間」を、きちんと「労働時間」として取り扱うことです。

看護協会も未払い残業ゼロの提言
 
 日本看護協会は、4月24日に発表した「時間外勤務、夜勤・交代制勤務等緊急実態調査」結果の中の、「6 未払い残業の実態」という項で、実際行った時間外勤務の約4割しか申告していないという調査結果を受けて、次のようにコメントしています。「未払い残業の問題については、『前残業』『院内研修』『持ち帰り残業』などを、看護職員が『時間外勤務として申告』しない、または『病院が時間外勤務として扱っていない』ため、手当が支払われないという問題があります」。そして、「未払い残業『ゼロ』へ」として「業務上必要な研修は勤務扱いのルールを」と提言しています。(ただし未払い残業問題は「前残業」「院内研修」「持ち帰り残業」のみではありませんが。)
 
 【4】新人の残業、教育・研修

「新人など仕事が未熟として残業をつけさせないのは、明らかに違法」(厚労省)

 例えば1年、半年、3か月などと、つけさせない期間を設けている医療機関が多く見受けられますが、いずれも違法です。こうした指示は、まさに労基法37条違反であり、全く無効なものです。厚生労働省も、これまで「新人など仕事が未熟として残業をつけさせないのは、明らかに違法」との見解を表明しています。労基法からすれば、まったく当然の見解です。
 新人の超勤申請を認めない医療職場がいまだに見受けられるのは、看護協会のアンケート結果からも明らかですが、これは、医療業界において労働法が徹底されていない象徴であり、正さなければなりません。新人といえども、労基法上の「労働者」であり、雇用契約を交わした上でそれに基づいて労務を提供しています。「一人前」であろうがなかろうが、労基法上何の関係もありません。新人エグゼンプション(除外規定)≠ネど、労基法のどこにもありませんし、同じ「労働者」なのですから、経験を理由にした不適用は、差別的取扱にほかなりません。
 たとえ、「研修期間」「試用期間」であろうと、使用者の指揮命令下で労務を提供した実労働時間に対し、労働契約で結んだ賃金全額を支払う義務、8時間を超える時間については割増賃金の支払い義務が使用者にあることは、法律上常識です。
 関西医科大学の「研修医」の過労死裁判で出された判決を紹介しましょう。
「研修期間であっても、使用者との間で業務遂行上の指揮監督関係が認められ、場所的・時間的拘束が認められる場合には、労働者に該当する。」
(大阪高裁H14・5・9)

 
「業務上必要な研修・勉強会」は「労働時間」扱いが当然

 新人であってもそうでなくても、教育・研修については、【2】で述べた原則がそのまま当てはまります。つまり、全く自主的で自由参加の研修(勉強会)ならば「労働時間」には当てはまりませんが、強制参加であったり、建前は自由参加でも、参加しないと評価が低くなるとか、内容からして今後の業務に必要であり、受けないわけにはいかないという場合には、事実上の強制。使用者の指揮命令下にあると判断でき、「労働時間」として扱うべきです。
 「教えられる側になぜ残業代を払うのか」という意見を聞くこともありますが、労基法上の「労働者」に教える側、教えられる側は関係ありません。使用者に、場所的・時間的に拘束される点では教える側も教えられる側も同じです。そもそも雇用関係の下での教育・研修は、学校や塾・予備校とは根本的に性格の違うものです。少々難しい表現ですが、それは、使用者側が労働者の労働力を買い、自由に使うことができる時間内で、労働力を加工し質的に高め、より使いものになるようにするためのもの。客観的にはまずは事業の利益のために施されるものであり、雇用関係の下で単に「あなた(労働者)のため」だけの教育・研修など、原理的にありえません。
 村上さん過労死裁判は、業務上必要な会議や研修・勉強会を、いくら「自己研さん」「自主的活動」と言って「労働時間」を否定しても、法的には全く通用しないことを示しています。「業務上必要な研修・勉強会」は、勤務時間内を原則にすること。時間外に行わざるをえない場合であっても、業務上必要な内容ならば規模や名称に関係なく、日本看護協会も提言するように「勤務扱い」=「労働時間」と認め、時間外割増賃金が支払われるべきです。

【5】「労働時間」に能力や効率性は一切関係なし

 残業代を稼ぐためだけの「ダラダラ残業」は、容認できません。しかし、一生懸命やっているけれど、不慣れや能力の問題で、仕事の効率性が上がらず、時間外労働を行わざるをえないということは、新人はじめ中途採用者、配置替え直後のベテランでさえ、ありうることです。しかし37条の時間外割増賃金支払い義務は、労務を提供している時間、指揮命令下にある時間に、どれだけ成果を上げたか、能率や生産性が高いか低いか、未熟であるかどうか、など全く問題にしていません。たとえいかに効率が悪くても、時間外労働に対し、その時間に応じて割増賃金を支払う義務が使用者にはあることは、労基法の原則上否定することはできません。「残業代は成果給」などといって、残業は能力のないものがするものだといわんばかりに、残業請求を抑制しようとする企業経営者がいますが、とんでもない無理解であり、違法行為です。
 段取りが悪く、時間外労働を余儀なくされた労働者がいたとしましょう。これに対して、管理者がしてはならないことはあなたのせいでおそくなったのだから超勤申請してはだめ≠ニいうこと。37条違反で使用者の責任が問われます。使用者・管理者ができること、すべきことは、残業代を値切ることではなく、できるだけ時間内に仕事を終えるようにするための具体的な指導・助言や業務配分、業務全体の改善を行うことです。

【6】自己申告制の問題点―過少申告=不払い残業の温床になる危険 

 2001年4月、厚生労働省は、増える一方のサービス残業や過労死の増加への対応を迫られ、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」を策定しました。ここでは、労働時間の自己申告制の不適正な運用により「割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じている」と指摘。労働時間記録の原則的な方法を「使用者が、自ら現認すること」又は「タイムカード、ICカード等の客観的な記録」としました。
自己申告制により行わざるを得ない場合は、使用者は、「労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと」「自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること」「労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的」で時間外労働時間数の上限を設定しないこと、「時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因」となっている場合は、改善措置をとることを求めています。
 医療機関では、まだまだ出勤簿に自己申告するところがありますし、タイムカードを導入しても、時間外労働は自己申告にしているところが多いように伺われます。自己申告制の問題点は、もちろん時間外労働のみを自己申告制にしている事業所にもあてはまります。よって使用者・管理者から、申告についての労働者への十分な説明(申告の仕方も含め)が行われなければなりませんし、適正な申告を阻害しないために「労働時間」の正しい理解が求められます。もしも使用者・管理者が誤った認識では、厚労省でさえ注意しているように、自己申告制は賃金不払残業、長時間労働の温床となるでしょう。
 自己申告制の正しい運用には、労基法に基づく「労働時間」の正しい労使共通の理解と「法令遵守」の信頼が不可欠であることを、最後に強調しておきたいと思います。
   (第一回 以上)

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