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阪南中央病院労働組合の要求/見解/主張



水俣病訴訟の最高裁判決から1年 環境省の巻き返しに対抗を
(5月21日「水俣病の今に向きあう集会」基調報告より)
 水俣病訴訟の最高裁判決から1年 環境省の巻き返しに対抗を
(5月21日「水俣病の今に向きあう集会」基調報告より)

水俣病はこの5月1日で公式確認から58年を迎えました。また、昨年4月16日の水俣病認定義務付け訴訟の最高裁判決から1年たちました。
昨年4月16日、故溝口チエさんと故Fさんを水俣病と認定するよう求めた裁判で、最高裁判所は「感覚障害のみでも水俣病と認める」画期的な判決を出しました。判決は、「感覚障害のみの水俣病」を認め、判断基準の見直しを迫る内容でした。しかし環境省は「判断基準が否定されたわけでない」と判決を曲解し、判断基準の見直しを行おうとしませんでした。
さらに10月、患者認定を棄却され不服審査請求をしていた患者(「第二世代訴訟」の原告・下田さん)に対し、不服審査会が最高裁判決の趣旨に従って棄却取消の判断を下し、これに従い熊本県が患者認定するという、これまた画期的なことがおきました。
環境省は追い込まれたかのように見えましたが、今年に入ってから、環境省の巻き返しが進められています。以下、今年に入っての大きな動き二つを報告します

環境省から「新通知」が出される−これでは認定打切りの宣言のようなもの

今年に入り3月、水俣病認定の新「通知」を出しました。
これは昨年の最高裁判決によって対応をせまられた結果作られたものですが、手足の感覚障害だけでの認定も可能とする一方、症状の組み合わせを条件とする「77年(52年)判断条件」は見直さない、過去の棄却処分者の再審査もしない、とこれまでの認定制度を見直さないものです。
それどころか別の条件をあげて、認定のハードルを高くしています。水銀摂取や体内濃度などを証明する「客観的資料の裏づけが必要」としたこと、および発症時期について「水銀摂取後1カ月から1年程度」が目安と例示したことです。
患者に「客観的資料」を出させて水銀濃度の高低の判断として重視する、発症時期に制限を設ける−これでは、今後ほとんど新たな認定はされないだろうと言われています。そもそも、患者に「客観的資料」を求めること自体が無理な話です。この新通知は、認定打切りを宣言したようなものです。

第二世代訴訟、熊本地裁判決−原告8人中5人を水俣病と認めず

3月31日に、熊本地裁で6年3ヶ月争われてきた「第二世代訴訟」の判決が出されました。(「水俣病被害者互助会」の胎児性、小児性水俣病患者9名が水俣病認定と損害賠償を求めた訴訟。原告の一名(前ページ下田さん)は行政認定されたので訴えを取り下げ、原告8名)。
原告は、水俣病が公式確認された1956年前後の53〜60年に水俣市、津奈木町、芦北町、鹿児島県長島町で出生。手足の感覚障害や頭痛、めまいなどの症状を訴え、「胎児期や幼少期に魚介類からメチル水銀を大量に摂取したのが原因。ほかに原因を証明できなければ水俣病と判断できる」と主張し、原告全員を水俣病と認めるよう求めてきました。
判決は、3人を水俣病と認め、その内1人(脳性まひのある胎児性水俣病患者)には1億円の損害額を認めましたが、残る5人の請求を棄却しました。棄却された共通の理由は、家族に認定患者がいない、メチル水銀曝露が高濃度でない、曝露から相当時期が経って発症している、他の疾病が原因の可能性もある、というものでした。

家族に「認定患者」がいないので曝露は低い、という暴論

この判決で特に許しがたいのは、家族に認定患者がいないことを高濃度の曝露がない理由にして、患者と認めないことです。これは、患者を切り捨ててきた認定制度の実態や患者差別の歴史を無視しています。差別を恐れて水俣病の認定申請を出来なかった人がたくさんいますし、認定基準の狭き門に阻まれ、認定患者は申請者の1割にすぎません。しかもその認定基準は昨年の最高裁判決で事実上否定されたものです。誤った認定基準を前提にして、氷山の一角にすぎない「認定患者」が家族にいるかいないかを判断材料にするなど、非科学的であり、患者を切り捨ててきた認定制度の実態や患者差別の歴史を無視するものです。
またメチル水銀曝露から相当期間たってから感覚障害の発症がみられるのを、他の疾病が原因の可能性がある、として否定するのも、第二世代の患者さんたちの多くが、子どものころから症状があったが水俣病と認識していなかった、という実態を見ないものであり、微量汚染の影響や遅発性水俣病を無視するものです。
原告は「われわれの主張を認めた判決とは到底言えない。高裁でもしっかり闘う」と、控訴しました。国・熊本県、チッソも控訴しました。福岡高裁で控訴審が行われることとなります。

小児期の曝露や長期微量汚染の影響、「遅発性水俣病」が焦点に

曝露の影響を過小評価し、発症時期を限定して水俣病患者であることを否定するこの判決は、環境省の新通知の内容に符合するものです。ここから浮かび上がってくるのは、患者に「客観的資料」という無理難題を押し付け、さらに低濃度曝露や発症が1年以上後ならば認めない、という新たな切り捨て路線です。この環境省の巻き返しで、小児期の水銀曝露や長期微量汚染の人体への影響、曝露終了後から遅れて発症する「遅発性水俣病」をどう理解するか、がクローズアップされてきています。第二世代訴訟控訴審、そして新潟で行われている第三次訴訟(第二世代訴訟と同じ世代が原告)で問題になることでしょう。
この新たな「壁」を乗り越えるために、阪南中央病院でも支援の取り組みを積極的に進めていきたいと思います。ます。




(2014年6月10日)

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