平成14年4月8日

臨界事故被害者の会

 会長 大泉 昭一 様

 (受付番号 50599番)

 

 

                         株式会社ジェー・シー・オー

                         相談センター長 酒井 聡

 

 

回 答 書

 

拝啓

 貴会からの当社臨界事故に伴う損害賠償請求その他のお申し出につきましては、平成12年3月9日付“申し入れ書”のご提出以来、約二年間に渡り、話し合いを重ねてきたところです。そのような中、当初からの貴会のご請求である“住民の被曝そのものに対する補償”、“住民の健康被害への万全な医療補償”及び“土地財産価値低下等の被害にかかる補償”といった、当社といたしましては対応が困難かつ不可能な問題について膠着した状態が続いておりましたが、貴会からのご提案により、平成139月以降は、個別の貴会会員の経済的損害に関する部分を分離して半年間話し合いを続けてまいりました。その結果、経済的損害のご請求の具体的な内容及び趣旨が初めて明確になったところですが、この度、貴会のお申出内容及びご提出いただいた資料等を踏まえ、慎重に検討いたしました結果を以下に回答申し上げます。

 

1.最初にご請求の内容について確認させていただきます。すなわち、ご提出いただいた資料等に基づきますと、経済的損害としての貴会のお申出内容は次の7項目に整理され、またそのご趣旨は以下のようなことであると思われます。

1)“休業損害”請求

 @4.5日分の休業のケース

  事故により会社が操業停止せざるを得なくなり、それに伴い休業した損害

 A3ヶ月分の休業のケース

  事故により健康被害が生じ、それに伴い3ヶ月間休業したことによる損害

 B事故による操業停止4日分のケース

  事故により操業が4日間停止し、それによって休業することにより生じた損害

 Cマスコミ対応による休業のケース

  事故により報道関係者が押しかけ、その対応に追われ休業したことにより発生した損害

2)“検査費”請求

  事故直後、身体の傷害の有無を確認する目的で行なった初回の検査費用以外に、事故後、健康状態不調のため、原因究明等のため病院や診療科を変更した場合の初回の診療費や、医者から経過観察が必要とされた場合の診療費その他が含まれる。

3)“検査費”に伴なう“交通費”請求

  上記2)の趣旨の“検査費”に伴う交通費の請求

4)“避難費用”請求

  事故に伴なう行政措置により避難を余儀なくされたことによって生じた費用

5)“汚損”請求

  事故により、平均的・一般的な人の認識を基準として、当該動産の財物としての価値か失われたものと認められ、廃棄したことにより生じた損害

6)“水道工事代”請求藷求

  事故により井戸水が使用不能であると判断したことにより発生した、水道工事に伴う諸費用(工事費、加入分担金等)の請求

7)“土地財産低下に対する補償”請求

  事故により所有不動産の財産価値が減少したとの損害請求

 

 

2.ところで、以上の請求内容につきましては、以下の問題点かあり、若干内容を整理する必要があるものと考えます。

1)まず、休業損害は、「行政措置により就労が不能となった場合に、就労不能の状況が解消された時点まで(避難要請が解除きれた平成11年10月2日からの合理的期間経過後まで)に生した給与等の減収」(原子力損害調査研究会による原子力損害調査研究報告書(以下“同報告”と言う))ということですから、事故により健康被害が生じ、それに伴い3ヶ月間休業したことによる損害は、少なくとも休業損害とすることはできません。また、健康被害が生じたことに伴い発生した収入減少とのことであれば、現在お話し合いをしている経済的損害の範疇には入らないものと判断いたします。さらに、事故による操業停止4日分についての休業損害請求につきましては、貴会の口頭によるご説明を含めて考えますと、別途営業損害として扱うべきものであると考えます。

)次に、検査費については、事故直後、「身体の傷害の有無を確認する目的で行なった」(同報告)初回の検査費用とそれ以外のものとは分けて考えるべきものです。すなわち、事故後、健康状態不調のため、原因究明等のため病院や診療科を変更した場合の初回の診療費や、医者から経過観察が必要とされた場合の診療費その他は、本来健康被害請求と言うべきであり、やはり現在お話し合いをしている経済的損害の範疇には入らないものと判断いたします。

)したがいまして、検査費に伴う交通費の請求につきましても上記2)と同様の結論となります。

 

3.さて、以上を前提に、ご請求に対する当社の考えを述べきせていただきます。

1)4.5日分の休業損害の請求について(○○○)

 休業損害は、行政措置により就労が不能となり(事故により会社が操業停止せざるを得なくなり)、就労不能の状況が解消きれた時点までに生じた給与等の減収が対象となるということですから、原則として、平成11年9月30日から10月2日までの勤務日(10月3日は日曜日であり、通常は休日に当たります)である2.5〜3日分の休業による損害が補償の対象であると考えられます。しかしながら、勤務場所が事故現場より350m圏内であり、また休業に関する証明書も堤出されていることを踏まえ、4.5日分の休業損害を認めざせていただくことにいたします。

2)3ヶ月分の”休業損害”の請求について(○○○)

 上記のとおり、事故により健康被害が生じ、それに伴い3ヶ月間休業したことにより発生した収入減少とのことですので、経済的損害の範疇には入らないと判断いたしますが、当初の2日分につきましては、休業損害と認めることができます。

3)事故による操業停止4日分の”休業損害”(営業損害)の請求について(○○○)

 事故により操業が停止になり、それに伴って生じた損害については、通常その操業停止により失った利益分が補償の対象になるものと考えられます。しかしながら、本件お申し出を子細に検討いたしますと、寧ろ委託加工半製品の廃棄損害のご主張であるものと理解されます。もしそうであるならば、半製品を廃棄したことが事実であり、そのことが証明されれば、場合によっては補償の対象になり得ると判断いたします。

4)マスコミ対応による休業損害の請求について(○○○)

 事故により報道関係者が押しかけ、その対応に追われたとのご事情は、ご本人様の判断及び自由意思によるものであり、如何なる意味におきましても、到底事故との相当因果関係を認めることができません。寧ろ、マスコミとお話し合いをしていただくべき筋合いのものであるかと考えるところです。

5)検査費の請求について(○○○)

 検査費については、経済的損害と言い切ることは難しいところですが、事故直後、身体の傷害の有無を確認する目的で行なった初回の検査費用につきましては、これまで他の案件におきましても、事故によりやむを得ず発生した費用として損害と認定してきたところであり、また健康被害の存在を前提としていない損害と考えられますので、今回の補償の対象とさせていただきます。しかしながら、事故後、健康状態不調のため、原因究明等のため病院や診療科を変更した場合の初回の診療費や、医者から経過観察が必要とされた場合の診療費その他につきましては、明らかに健康被害の問題であると考えられますので経済的損害と見なすことはできません。

6)検査費に伴なう交通費の請求ついて(○○○)

 したがいまして、検査費に伴う交通費の請求につきましても上記5)と同様の結論となりますので、事故直後、身体の傷害の有無を確認する目的で行なった初回の検査のために要した交通費のみが補償の対象になります。

7)避難費用の請求について(○○○)

 事故に伴う行政措置により、避難を余儀なくされたことによって生じた避難費用につきましては、相当と認められる範囲で、避難の事実が認められる限り、補償いたします。

8)汚損の請求について(○○○)

 事故により、「平均的・一般的な人間の認識を基準として」(同報告)、当該動産の財 物としての価値が失われたものと認められ、実際に廃棄したことにより生じた損害につきましては、廃棄されたことが具体的に明らかにされる限り、相当と認められる範囲で補償いたします。

9)水道工事代の請求について(○○○)

 お申し出は、井戸水について安全宣言がなされているとの情報を得ることができないまま、事故によりご自宅の井戸水が使用不能になったと判断し、水道敷設工事を実施したとのことですが、井戸水については客観的に安全であり(かつ実際に安全宣言がなされていて)、従前から使用していた井戸水が事故により汚染されておらず現実に損害が生じたとは言えないこと、また水道敷設工事が事故発生から一週間以上経過している時点で工事実施手続を開始され、かつご自宅周辺の他の居住者から同様のお申し出がないことから判断して、事故との相当因果関係も認められないことから、事故による水道工事に伴う緒費用(工事費、加入分担金等)の請求につきましては賠償の対象とすることはできません。

10)土地財産低下に対する補償の請求について(○○○)

 事故により所有不動産の財産価値が減少したとの損害のご請求ですが、「売却予定のない所有不動産の価値が下落したことを理由とする請求につきましては、現実の損害を認めることはできず賠償の対象とは認められません」(同報告)。また、仮に「価格が−時的に下落したとしても将来回復しまたは上昇する可能性があり」(同報告)、「不動産自体の利用可能性は些かも失われていない」(同報告)ことからも、相当因果関係のある損害であるとは認められないところです。特に、「不動産の価格は、取引当事者の取得目的、景気等から大きな影響を受ける」(同報告)ものであって、不動産価格の下落につきましては、「事故による価値の下落分を一義的かつ客観的に把握することができません」(同報告)ことからも、賠償対象とすることはできません。

11)示談後の再請求について(○○○)

 既に、示談書を交わしている案件につきましては、その示談の中で本件事故による損害は既に填補されており、かつ双方の間には債権債務が存在しないことが確認されております。すなわち、当社との間の損害賠償問題は既に終了しておりますので、お話し合いに応じることはできません。

 

4.以上のことから、被害者の会各会員様につきましては、以下のように補償金額を認めきせていただくことになります。

)○○○

 既に、検査費用3,070円は、支払い済みです。

2)○○○

 避難費用45,131円を補償いたします。

3)○○○

 検査費用4,680円、避難費用7,214円を補償いたします。尚、水道工事代金については、事故との相当因果関係のある損害とは認められないため、補償対象とはなりません。

4)○○○

 検査費用及びそれに伴う交通貫の請求とのことですが、上記のとおり補償の対象とはなりません。

5)○○○

 休業損害12,800円を補償いたします。

6)○○○

 事故による4日間の操業停止に伴う営業損害として、利益喪失分168,000円、委託加工半製品の廃棄損害984,000円を補償いたします。

7)○○○

 廃棄損害(汚損)49,200円を補償いたします。また、土地財産低下に対する補償請求については、補償の対象とはならないこと上記のとおりです。

8)○○○

 廃棄損害(汚損)42,700円を補償いたします。 

9)○○○

 休業損害36,000円、検査に伴う交通費960円、廃棄損害38,500円を補償いたします。

10)○○○

 損害を認めることができません。

11)○○○

 ○○○の被害のご請求につきましては、既になされた示談において、その相当因果関係が認められる範囲の営業損害等につき補償されております。それ以上に相当因果関係のある損害が存するとは客観的には認めることはできませんでした。尚、念のため申し添えますが、今回の主要なご請求である3ヶ月分の休業損害のご請求につきましては、上記2の1)、3の2)で述べましたように経済的損害の範疇に入るものではありません。

 

 

 以上、本提示は、貴会よりご提出のあった資料に基づき当社として精一杯のところをお示しいたしました。何卒ご賢察のうえ、宜しくご了解の程お願い申し上げます。

 もし、ご了解いただけますならば、個別の会員の方と示談手続きをお取りいたします。尚、示談書の案文をお示しいたしますので、合わせてご検討いただきますようお願いいたします。また、上記ご不明の点は小職が承りますのでご連絡下きい。

                                      敬具

HOME