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私たちの訴えと取組み

一緒に考えよう、家族同意だけの「脳死」臓器摘出
 
法改正で急増する「脳死」臓器移植
  改正臓器移植法が全面施行され、1月で半年がたちました。15歳未満からの提供はまだないものの、大人からの臓器提供は、すでに30例を超えています。これまで年間平均10例にも満たなかったのに比べ急増しています。このままだと年間60〜70例に届きそうな勢いです。 重篤な疾患に苦しんでいる人々の快復を願い、救ってあげたいと思うのは、自然な思いでしょう。「命のリレー」の美名の下、「脳死」臓器移植が進むことはよいことでは、と考えている方もいるかもしれません。しかしながら、「脳死」臓器移植は臓器を提供する「脳死」患者と、臓器をもらう患者の二人が関係するため、通常の医療とは異なり、深刻な問題をたくさんかかえています。まず何より「脳死」とは、臓器移植のための「新しい死の基準」であり、臓器移植なしには人の死としての「脳死」という概念は存在しなかったことは前提として押さえておきたいものです。臓器移植法成立までは、不可逆性昏睡とされていたものが、臓器を取り出すために、新しい死、「脳死」とされたのです。
 当院で業務上、直接「脳死」臓器移植に関わることはないのかもしれません。しかし、自分自身や家族がそのような事態に直面する可能性はゼロとはいえません。改正臓器移植法が施行され、医療現場で今どのような事が起こっているのか、「脳死」臓器移植とはどのようなものなのか、良く理解し深く広く考えておく必要があります。

臓器移植法の問題点
 そもそも臓器移植法は、「脳死」患者からの臓器提供を可能にした法律であり、1997年に成立し施行されました。旧臓器移植法は、強い反対の声に対し、「脳死」患者の人権に一定配慮した法律であったため、「脳死」患者本人が生前臓器の提供意思を書面(ドナーカード)で表示し、家族の承諾のある場合のみに限定されてきました。しかし、この本人の書面(ドナーカード)による同意を臓器移植法の条件としていたために、移植推進派の人たちから、「これでは『脳死』臓器移植は増えない」と批判が出され続けたのです。それにより、2009年7月4法案が検討され、最悪のA案が可決成立しました。「本人の同意がなくとも家族が承諾すれば「脳死」臓器移植ができる」というものです。これにより、家族の承諾さえあれば、15歳未満であっても移植が可能となりました。衆参両院での審議時間はわずか16時間にしかすぎません。この法改正で、「脳死」臓器移植が格段に増え、助かる患者も多少増えるのかもしれません。しかしそれは一方で、救命治療よりも移植最優先で、家族同意だけの「脳死」者も作られていくのです。人の死を決める法律に、時間もかけず臓器不足解消のためだけに改正された臓器移植法には断固反対します。

「脳死」臓器移植、この半年間の実態
 1月17日時点での「脳死」臓器移植は31例です。本人の意思表示は1例のみ。15例が家族からの提供申し出、14例が病院からの提供説明、1例が非公表となっています。また、15歳未満の対象者は、少なくとも11人おり、6例については、病院からの提供説明に家族が拒否、残り5名については、虐待の可能性や警察が介入した例など、子どもの臓器移植の難しさを浮彫りにしました。
 このことからも、わかるように移植件数は増えていますが、「脳死」臓器移植に同意している患者が増えたわけではありません。本人の意思とは関係なく、家族の同意で臓器提供「脳死」者とされ、救命救急もそこそこに、臓器保存のための処置に切り替わります。そこには「脳死」者に対する命の尊厳などありません。すでに「脳死」者の臓器は本人だけのものではなくなってしまいました。
 今回の法改正で、「臓器提供しない」と書面による意思表示をしていない人は、すべて臓器提供の対象者とみなされます。「脳死=人の死」といえるのか、「脳死」判定は間違っていないのか、家族同意による「脳死」臓器摘出、などについて、今後も疑問を投げかけて行きたいと思います。
(組合ニュース5154号 2011年2月9日より)

(2011年2月9日)

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