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私たちの訴えと取組み

キューバを知る会通信第二号より

 「キューバを知る会」は、今とても注目されているキューバを知りたい!資本主義的大量消費でない「持続可能な社会」に挑戦し、医療福祉教育が手厚い社会主義国キューバの本当の姿を知り、みんなに伝えたいという人たちが呼びかけてできた会です。
今回はキューバの医療にスポット

 去る9月30日に「キューバを知る会」の第2回目の集いがもたれました。1回目よりは少なめでしたが、28名もの職員が参加してくれました。まず、テレビ朝日が今年の3月10日に放映した『幸せの指標 医療大国 知られざるキューバ!』のDVD版を見ました。その後、「キューバの医療に世界が注目」と「キューバの高齢者の医療・福祉の紹介」という2つの報告がありました。いずれも、日本との比較では目を見張る内容ばかりで、学ぶべきことが山ほどありました。最後に、参加者から「自由発言」があり、キューバを襲ったハリケーンへの支援活動等を確認したあと、散会しました。参加者の何人かにはキューバの国民的ビール(ブカネロ)が記念に渡されました。

「キューバの医療に世界が注目」

 世界がキューバ医療に関心を寄せるのはなぜ?

 「社会主義キューバには、自慢できるものが三つある。治安の良さと教育レベルの高さ、そして無料の医療だ」(毎日新聞)というように、キューバの医療が世界的な関心を集めています。なぜでしょうか。世界の福祉・医療の現状を、所得と乳幼児死亡率で表すと、「金銭的に豊かな国は、医療水準が高い」「貧困な国の子供は長生きできない」ということが見事に相関しています。しかしキューバだけが、当てはまっていません。所得ではインドより少し上で  中国よりも貧しい。しかし、乳幼児死亡率は、所得がキューバの50倍のアメリカよりも低いのです。金がなくても人々の健康は守れる、というキューバの医療が見事に証明されたのです。またWHOは、各国の医療水準指標をレポートしていますが(右上図)、キューバは少ない医療費(アメリカは一位なのにキューバは118位)で、アメリカと同等の医療水準(効率性の総合評価がほぼ同じ)を保持していることが報告されています。先進国で医療崩壊が叫ばれている中、世界がキューバ医療に注目するのは当然です。「人の命は金銭よりも価値があり、優しさと思いやりさえあれば、命は救える」という社会主義キューバの驚くべき医療の秘密はいったいどこにあるのでしょうか。

プライマリ・ケアとファミリー・ドクター
 
 キューバ医療を紹介するには、第一にプライマリ・ケアに触れないわけにはいきません。プライマリ・ケアを世界で一番徹底している国がキューバだからです。プライマリ・ケアとは、国民の健康や福祉に関わるあらゆる問題を、地域で総合的に解決して行おうとする、実践活動です。キューバでは20年前から、プライマリ・ケアの専門機関として「ファミリー・ドクター」を全国津々浦々に配置してきました。

 彼(彼女)らは、自宅を兼ねた診療所で、看護師チームと組んで、約120家族、700~800人の健康状態を常時チェックしています。診療所には診察台と聴診器、血圧計以外の医療機器はありません。簡単な病気はすべてここで診ます。患者が診療所に来るのを待つだけではなく、往診にも出かけ、住民と日常的に交流し、街中にも出て健康上の問題点を探り当て、手洗いをすすめ、健康な街をつくり、HIV防止のためにコンドームの使い方を教え、病気にならない生活習慣を浸透させる活動もしています。さしずめ日本ではかかりつけ医と保健所をミックスしたものと思われます。受け持ち住民のカルテを常備し、治療はもとより予防、保健教育、リハビリ、往診などで24時間対応しています。(右写真は診療所)。すべて無料です。キューバには医師が約6万人(人口千人あたりで見れば日本の約3倍)いますが、その半数の約3万人がファミリー・ドクターです。

病気の難易度に応じ5段階の治療システム

 治療の面で、ファミリー・ドクターの手に負えない患者は、レントゲン撮影や簡単な手術、歯科などの機能を備えた「ポリクリニコ」と呼ばれる市町村段階の診療所に移されます。この施設はファミリー・ドクター15人に1ケ所の割りで設けられています。ファミリー・ドクターとポリクリニコの専門医で、病気の8割が治せます。また通院だけでは治療困難な患者は、入院施設が整っている「市町村病院」に、さらに困難な患者は「州病院」、高度医療が必要ならば「全国病院」へと、病気の難易度に応じて移されます。キューバの医療体制は5段階のピラミッド型になっています。この構造は経費削減にも成果をあげているそうです。カルテは共有され、入院にはファミリー・ドクターが付き添います。

優れた医療技術

 高度な医療技術が注目を浴びています。国内最大の総合病院・アルメイヘイラス病院では、さまざまな高度移植が行われています。また、これまで有効な治療法がないとされてきた「鳥目」も外科治療で成果をあげ、難病の「多発性硬化症」や「パーキンソン病」の治療でもすぐれた成果をあげています。リハビリも定評があります。自国スペインではお手上げとされた自動車事故での植物状態の女性患者が、「国際神経回復センター」(いまや世界82ケ国から難病の治療に訪れる)で手術とリハビリを受け、2ケ月後には歩いて話せるようになりました。エイズ防止でも健闘しています。15歳から49歳のエイズ感染率は0,03%と世界でも最も低いのです。

ユニークな医薬品や独自開発のワクチン

 キューバには地域資源を活用したユニークな医薬品や、独自開発のワクチンがたくさんあります。サトウキビの蝋(ロウ)を原料にした抗コレステロ-ル剤(PPG)は、1日1錠を飲めば、動脈硬化や心筋梗塞が改善するうえ、性欲減退にも威力があるとして、経済封鎖を行っているアメリカや日本以外の国では絶大な人気を誇っています。独自に開発した「B型肝炎ワクチン」はイギリスやカナダを始めすでに20ケ国に輸出されています。キューバでは予防接種が徹底しているため、B型肝炎は根絶に向かっています。世界で唯一、「髄膜炎菌B型細胞」に効力があるとされる「髄膜炎B型ワクチン」をはじめ、さまざまなワクチンの独自開発で、キューバ国内の伝染病はほぼ制圧したと、熱帯医学研究所の所長は胸を張っています。「キューバ人は生きているときは貧しくとも、死ぬときは金持ちと同じ病気で死ぬ」といわれるゆえんです。今では無料で途上国にワクチンを贈っています。エイズや癌治療薬、アルツハイマー治療薬等々、世界から注目される医薬品を多数開発しています。これらは外貨獲得にも寄与しているそうです。

バイオテクノロジーの開発

 これら医薬品やワクチンの開発はバイオテクノロジーの発展と軌を一にしています。キューバ革命の指導者の一人、前国家評議会議長のカストロは「教育と科学にこそ、キューバの未来がある。わが祖国の将来は、科学のそれでなければならない」(1960年)として、経済危機の時にもバイオテクノロジーの開発に努力してきました。1990年代のソ連崩壊とアメリカの経済封鎖強化は、キューバ社会主義の崩壊すら危ぶまれましたが、「輸入医薬品に頼らない、先進国の多国籍企業から自立する」ことを国の目標に掲げ、厳しい資金繰りのなかでも投資を続け、今ではバイオ立国にまでなりました。1000人当たりの科学者数ではEUに匹敵しています。その成果として、ラテンアメリカ最大の医薬品輸出国になりました。インターフェロンの生産でも世界をリードしています。

自然・伝統医療(代替医療)にも取り組む

 高度な最先端の医療だけでなく、世界各地に埋もれていた伝統的な療法(代替療法)にも取り組んでいます。直接のきっかけは、ソ連崩壊とアメリカの経済封鎖で、医薬品や医療機器が失われたことへの窮余の策でしたが、エコロジーや自然治癒力を重視し、しかも安い代替医療が、キューバの「医療は金儲けではない」という精神と見事にマッチし、現在も普及が進んでいます。国内ではスペイン植民地時代からあったハーブ療法や温熱療法。東洋医学からは鍼灸、気功、ヨガ等を取り入れています。その他、泥療法、マッサージ、藻、指圧等々、世界各地から学び、取り入れています。日本の野菜を中心とした健康的な「自然食」にも着目しています。大豆、醤油、梅干などを普及させようとしています。日本の伝統的な「食生活」が、アメリカ化、マクドナルド化している最近の傾向を憂慮しているそうです。
外国からも次々と患者が治療に

 以上のようなキューバの医療に魅せられ、また先進国よりはるかに安い経費(医療費)のため、ラテンアメリカはもとより欧米からも、毎年5000人以上の患者がキューバに治療にやってきます。これは「ヘルス・ツアー」と呼ばれています。アルゼンチンのサッカーのスーパスターであるマラドーナも、肥満と心臓疾患、薬物中毒で危篤常態になりましたが、キューバで治療とリハビリを受け、回復し、20歳のキューバ人女性と婚約しました。

医療情報ネットの創設

 キューバの経済危機は、パソコンネットによる医療情報の発達をもたらしました。深刻な紙不足で、新聞(グランマ)もろくに発行できないありさまでした。苦肉の策として、電子媒体で情報を提供するしかありませんでした。アメリカの経済封鎖でマックやウインドウズは使えないので、フリーウエアのリナックスを活用しました。数台のパソコンから始めた事業も、今では医療情報ネットも作られ、全国の医療機関が電子媒体で結ばれています。また「医療電子図書館」の創設で、医療関連の全誌、世界中の医療情報がパソコン上で読めます。キューバの医療情報も無料で全世界に発信されています。

国際主義的な人道援助

 特筆すべきは、国際主義的性格です。日本のマスコミは無視していますが、人道支援の立場から、全世界の被災地に医療従事者チームを無料で派遣しています。パキスタンの大地震(2005年)時には、2500人が派遣されました。親米政権で、国交は途絶えていたにも関わらず、です。キューバチームは真っ先に駆けつけ、最後まで残り、全治療行為の73%を行いました。医師団の44%が女性だったので、宗教的理由から男性医師の治療を拒否する女性被災者には極めて大きな救いとなりました。アメリカ南部を襲ったカトリーナ・ハリケーンでもキューバは医師団の派遣を申し出ましたが、アメリカは拒否しました。グアテマラ洪水、ジャワ地震、
ボリビア洪水、等々、被災地にはどこにでもはせ参じています。また、被災地だけでなく、途上国を中心に72ケ国において、医療従事者3万7千人(医師1万7千人)が医療活動に従事しています。さらに、チェルノブイリ原発事故で被災したウクライナの子供たち2万2千人を自国に招待し、無料で治療しています。ラテンアメリカに白内障等に苦しむ患者を10年間無料で治療し、目を見えるようにするという、国際治療プロジェクト=「奇跡の計画」もベネズエラと共同して立ち上げています。チェ・ゲバラに銃弾を撃ち込んだボリビアの元兵士も、このプロジェクトで白内障手術を無料で受けていました。
全世界から医学生を受け入れる
 
 1999年、全世界から医師になりたい若者を受け入れる「ラテンアメリカ医科大学」が開設されました。この大学は世界でも類を見ない画期的な大学です。第一に、学生は医師がいない貧しい地区から募集していること。(応募条件は25歳以下で、貧しい農村出身であること。)現在、28ケ国から2万人近くが在籍しているが、ほとんどがラテンアメリカ(19ケ国)やアフリカ(4ケ国)の途上国からです。第二に、6年間の研修期間中、授業料、下宿代、食費、書籍代、衣服代はすべてキューバが負担し、一切経費がかからないこと。逆に奨学金が支給されています。第三に、卒業後は医師のいない農山村や僻地で働くことを誓約すること。驚くべきことに、経済封鎖をやっているアメリカ出身の学生(ほとんどが医師への道をとざされているマイノリティや黒人出身)も88人が学んでいます。

キューバの憲法9条

 経済的にはかなり苦しいのが現実です。人口1200万人で、国家予算が2兆円。大阪府と同じです。債務も5兆円(ロシアが半分)もあり、外貨も不足しています。アメリカの圧力でほとんどの国との経済交流が途絶えています。このキューバで、なぜこのような福祉医療が維持できているのでしょうか。キューバ憲法第9条には「医療を受けない患者があってはならない」と、国家が医療を保証することを義務付けています。第50条では「全国民が無料で医療を受ける」権利を規定しています。これは単に絵に書いた餅ではありません。どれだけ経済的に苦しくとも、完全に実行されているのです。日本国憲法第25条「すべての国民は健康で・・・」の空文句とは雲泥の差です。日本は、社会主義キューバの医療精神を真摯に学ぶべきではないでしょうか。

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 以上のように、「キューバ医療」を概観しましたが、途上国を中心にキューバ医療に対する絶大な信頼と影響力がヒシヒシと感じ取れます。ここまで至るには、筆舌に尽くしがたい所困難があったようです。それを成しえた根底には、医師であり、革命家であったチェ・ゲバラの思想があります。「医師および医療従事者は、自らの専門的・技術的知識を革命と人民のために役立たせること」(1960年演説)。キューバの医療従事者はこの精神を受け継ぎ、今日も日々実践しています。

報告を聞いた感想

・ 医師をはじめ、医療従事者の士気の高さ、献身的な姿勢が印象に残りました。農村での医療、キューバ国民だけでなく、世界各地の災害で困っている国々へ医療団を派遣、途上国から医学生を無償で受け入れ等々、お金や立身出世よりも、苦しんでいる民衆への医療提供を第一に考えるところが素晴らしいと思いました。
・ 本当にすばらしいことだと思いました。同じ人間として、この世に生まれた命の終わり方が、国によってこんなにも違うとは…。人の命は同じなのに、変ですね…。
・ キューバの医療の話を多くの人に伝えていきたい。
・ 「人類の問題を解決できるのは医療従事者(市民)の力」,背筋が伸びました。
・ 積極的な医療を行っているキューバの体制は日本にはすぐに取り入れることは難しいだろうが、安心して医療を受けられるようにだけはして欲しい。
・ 報告の「わたしは医師として、不必要な医療までしているかもしれない」という姿勢には感銘を受けました。私の気持ちを心強くさせてくれました。
・孤独が病気をつくり、病気から薬を多く飲むようになる…という話が印象的でした。 キューバの孤独をつくらないような、楽しく過ごす社会をいいな、と思いましたが、自分を考えた場合、踊りは苦手で、恥ずかしいので、合わすのは苦痛かも…とも思ってしまいました。でも、そうやって自分を閉じ込めると孤独…とも思いました。生き方について考えさせられました(少しですが)
(キューバを知る会通信第2号  2008.11.5.より)

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