会報６０

６０

創立30周年に――ケアの共同体をめざして

CMCC理事長
日本基督教団久が原教会牧師・臨床心理士

　　　　　　　　藤﨑　義宜

　今年は、CMCC創立30周年の年に当たっていますが、昨年からの新型コロナウイルスの蔓延によって、私たちの暮らしは大きな影響を受けています。それまで当たり前だったことや、自由に何も考えずにできていたことがコロナウイルスの感染予防のために、制限を受け、私たちの常識・当たり前とされていたことが大きく変わってしまいました。

　慢性化しつつあるコロナ禍も、いずれ必ず終わりを迎えます。それまでの間、コロナ禍というベールばかりに目を奪われることなく、ベールに覆われて見えにくくなっている根本的な問題に、しっかり目を向けておかねばなりません。直視すべき根本的な問題とは何か。多くの選択肢の中から、ここでは編集者の助言に従って依存症をとりあげることにしました。

　依存症について、実は前号でも触れています。このテーマがなぜそれほど重要なのか、以下あらためて考えていきましょう。

危機の時代
　変化が大きい時というのは、実は大変で、自分でも気がつかないうちに、不安や緊張、怒りや疲れをため込み、自分でも自分をコントロールできなくなっていることがあります。また次第に積もっていくストレスは心と体を蝕み、いろいろな病気や症状の原因となっていきます。

　混乱や混沌、焦りや不安は、自分を無意識に駆り立て、さらに混乱や不安や怖れの気持ちをつのらせていきます。

　今まで当たり前に通用していたことが通用しなくなり、次のやり方や解決の仕方がわからず混乱してしまうことを「危機」と呼んだりしますが、今私たちの周りで起こっていることは、まさにこの危機であると思います。しかも、私たちを襲っているこの危機は、世界的な規模のもので、後進国や先進国、アジアもアフリカも欧米も同じ苦しみをし、男女も年代も関係なく、皆苦しみ、大きな不安をもっていることに特徴があります。

こういう意味では、コロナウイルスによって、人類ははじめて誰もが同じ苦しみを味わい、不安を抱えていることになります。しかし、それと同時にこのコロナウイルスは、分断や孤立をもたらしました。

癒す力、ケアの関係
　大きな危機の中では、個人的な自分の力だけではどうしようもない、どうしたらよいか分からないことが起こってくることもあります。人はこのような時、自分ではない誰かを求めます。自分の苦しみや痛みを分かってくれて受け入れ、ゆっくりと時間をかけながら寄り添い、自分の傷と痛みから逃げていた自分を探し出し、理解し、立ち上がるのに力を貸し、支え、自分の生きていく力を信じて待ち、見守ってくれる存在を、人間はこころの底で求めているのです。

　人はどんなに混乱し自分で自分のことが分からなくなっているときでも、自分以外の誰かに自分の気持ちを表現し、ゆっくりと聞いてもらうことで、次第に落ち着きを取り戻し、見失ってしまっていた自分を取り戻すことができます。

　危機の時は、前に進まない、前に進もうとしてもどのようにすれば前に進むことができるか分からない時でもあります。このような時は、無理に前に進もうとするのではなく、むしろ自分自身と過去の出来事に向かい合い、その中から今まで見えていなかった可能性や意味、気づきを得ることです。そのために、寄り添って自分の話を聞き、自分自身や過去に向かい合うことにつきあってくれる援助者の存在は何にも代えがたいものがあります。また、失敗をし、傷つき、苦しんでいる自分を見捨てずに、見守ってくれている存在がある時、そこから自信と信頼、立ち上がるエネルギーが与えられます。

　このような信頼関係、援助の関係の中で、人を癒やし、傷を修復し、新しい自分を再生させる力を「癒やしの力」と呼んだりします。また、このような「癒やしの力」が働くように、配慮し、見守り支える力を「ケアの関係」と言います。この「ケアの関係」の中では、援助を求める者も、援助をする者も、お互いにケアの関係の中に入ることで、落ち着きを取り戻し、世界の温かさと親密さを感じ取り、安心感が生まれてきます。

　コロナによるおうち時間が増えた今、｢時計の針を巻き戻して」今までは仕事やさまざまなものに追い立てられていて自分自身を省みることのなかった人も、自分や周りを見直してみる、見失い置き去りにしていたものを新たな目で見直し、その意味と意義に気づいてみる機会なのかもしれません。

「CMCCの特色」
　CMCCは、病む人、問題を抱え苦しんでいる人、生きにくさや行き詰まりを感じている方たちを援助する仕事をしてきました。

　現在は、心のケア、人間関係の援助のためのいろいろな機関が存在していますが、CMCCは、病を抱えている方、問題をもっている方たちが、一人の人間として生き、誠実に生活をし、人間として生きていこうとするために苦しんでいることを理解し、それを尊重して、キリスト教の隣人愛に基づいた「良き友」として理解し、支え、見守り続けるところに特徴があります。

　CMCCは、その人が持っている力が自分を癒やし、そこから立ち上がり、再生をしていくことを信じて、待ち、見守り、その人と「良き友」としてつき合い、忍耐強く話を聞き、一緒に考え、人生とはやり直しができるもの、どんな中にも可能性と意味と喜びと感謝が隠れていることを分かち合っていく心の作業、魂の仕事を行っています。それを電話相談、当事者会、さまざまな音楽の催しなどを通して行っています。私たちはこれを「ケアの共同体」と呼び、病み、疲れ、生きにくさや問題を抱えている人たちと横の関係で「友となる」ことであると考えています。

　ケアには、意味や意義を再発見すること、焦らずに少しゆったりめに生きること、自分の体のリズムに合わせて規則正しく生活をすること、物事にバランスをとり極端に走らないこと、他者と自分を理解し受け入れようと努めること、外側への拡大だけでなく、内側へと深く成熟していくこと、内側の平安と静寂に身を委ねてみることなど、生き方やあり方に関することが含まれています。

　CMCCでは、援助する者と援助される人が横並びの関係であり、｢癒やす者が癒やされ、援助する者が援助される。良き友はお互いを生かし合い、良き出会いは人生を作り替えていく」ことをともに体験していくことを大切にしています。

　この「共同体」に相談者として、援助者として、あるいは、献金・寄付金やCMCCの理念を理解してくださる方としていろいろな形でご参加いただけると本当にうれしく思います。